119話 顔無き者11
合流した帝国の兵士達と共に、街に向かうが、私と豊だけは街の中に居れて貰えず、街を囲む、水の張られた濠に架かった橋の上で待たされる。
「おい、あいつ等なら、入れても問題ないと言っているだろうが!」
……紅蓮の声が聞こえるが、多分無理だろう、多少の無茶は出来るだろうが、紅蓮にそこまでの権限は無い筈だ。
そこに新しい声が割り込んできた。
「……許可なら下りました、私が案内するので門を開けてください」
どうやら期待通りの相手の様だ。
門が少し開いて、人影が表れる。
「久しぶりですね、星華さん……それほど久しぶりでも無いですね」
「数か月程度だからね……これから過ごす事になる永遠を思えば、大した長さじゃない」
出て来たのは、【眠り姫】こと紅月輝夜……この世界に来て、特に多大なメリットを得た人物だろう。
「どうやら、時間の狂いは抑えられているみたいだね……いや、制御しているのかな?」
「そうですね、私が得た神格により、狂っていた体感時間の速度は、制御出来ています」
「そう、それなら良かった、それじゃあ皇帝の部屋に案内してくれる?」
「……解りました、ですが、星華さん一人だけである事が条件です」
「それでいいよ……紅蓮、豊を休憩させてくれないか?」
その頼みに、紅蓮は呆れたように笑う。
「俺の正体を分かった上で、自分の大切な人を預けるとはな」
「……立場は私の奴隷だけど、一応アザトースの管理下にある存在を傷付けるとは思えないからね」
「……全くだ、アイツを怒らせるつもりは無い」
流石に、自分よりも上位の存在であるアザトースの期限を損ねるのは嫌な様だ。
「それでは行きましょうか」
「そうだね」
街から城に入り、暫く歩く。
「……流石に遠いね」
「そうですね、最奥部なので危険は少ないですが、利便性に難があります」
「ああ、安全は必要か……所で、輝夜の神格について聞いても良いかな?」
輝夜は少し考えた後、頷いた。
「まあ、問題無いでしょう、私が受け取った神格は、クロノスの物です」
「クロノスと言うと父親を大鎌で攻撃した……いや時間の神の方か」
ギリシャ神話にはクロノスと言う神が二人居る、片方がウラヌスとガイアの子で、ゼウスに刻まれて冥界の大穴に落とされた存在だ。
そしてもう片方が時間を司る神だ……といっても普通のギリシャ神話には登場しない、時そのものを神格化した存在だ、カオスから生まれた原初の神という説もあるが……時間のある時にでもニュクスに聞いて見ようかな。
「相変わらず詳しいですね」
「これでも神秘学研究部部長だからね」
「文系の学生が数百人は居る中、部員は十人も居ませんでしたけどね」
「……言わないで」
まあ、仕方ない、他に人気な部活は大量にある上、帰宅部が殆どだったから。
「着きました」
やがて、金属製の頑丈そうな扉が目の前に現れた。
「入りますか?」
そう聞いて来る輝夜に、首を振る。
「いや、周りに人の目が無ければ良いからね……ここの皇帝は二回変わったようだね」
「……よく知っていますね、確かに前回私が、貴女が居る国へと攻め込む数週間前と、その数週間後にも皇帝が殺されました」
淡々と話しては居るが、動揺が隠しきれていない……まあ、私は私で色々と情報収集を行っているから、マーガレットが知らない事も知っている。
そして、輝夜に向かって、軽く笑いながら止めの一言を放つ。
「立ち話を続けても良いけど、疲れるし、聞かれるかもしれないから中に入ろうか、皇帝様」