117話 顔無き者9
二人で森の中を出来るだけ早く進んでいると、紅蓮の率いる軍が撤退しているのが、遠目に見えた。
「……人数が多い分、急いで撤退する訳にもいかないのか」
そもそも、彼らは急ぐ必要を感じて居ないのだろう、危険を知らないのだから。
それにしても、生身の人間も結構居た様だ……前線に出るのはアンデットばかりだから、気付かなかった。
「すこし急がせるか」
そう言って素早く、撤退中の軍に追いついた。
「……おいおい、何しに来たんだ」
姿を見せると、紅蓮は警戒するが、気にしない。
「撤退を急いだ方が良い、北が動いた可能性がある」
一言だけだが、紅蓮にはそれで十分の様だ。
「お前等!俺は先に国へ戻る、急いで付いてこい!」
そう言って大剣を持って、走っていく……かなりの速度だ。
私も豊と一緒に走って追いかけて行った。
「何故付いて来る、お前たちの国も襲われるぞ」
「用意は済ませた、問題ない……寧ろ、そちら側が落とされる方が心配」
どちらの側も北の手に落ちる訳にはいかない、片方が取られれば、もう片方も時期に奪われる。
「援軍か」
「そう、二人だけど、一つの軍を打ち倒すぐらいなら可能」
不意打ちならの話だが、正面からでも活路を切り開く事は出来る。
途中でダウンした豊を背負って、山道を駆ける。
「前に攻めて来た後、皇帝が変わったらしいな」
「ああ」
「前に比べてどうだ」
「非常に良い者だ、元々、俺は新参者でな、常にそいつに従ってきた」
その口調に、納得する。
「……惚れたか」
「いや……だが、面白い奴だ」
「そうか……まあ急いだほうが良い、今まさに襲われ始めた様だ」
偵察に向かわせた狼から、ダンジョンマスターのリンクを介して、イメージが伝わって来る……言葉を持たない、狼だからイメージで連絡しているが、人語を解する魔物なら、念話も可能だろう。
帝国が見える場所まで着くと、多くの軍に囲まれている……もっとも、堀に囲まれて居る為、正面からしか、攻め込めない状況の様だ。
……いやぁ、思ってた数倍は居るね、流石に一人でこの数は体力が持たない。
「豊、紅蓮の腕を治して」
「え、でも私の治療は、体の速度を速めて、高速で自然治癒させてるだけだから、老化するよ」
「老化するような奴じゃない」
「分かった」
豊が治すと同時に、私の暴食のエネルギーストックを半分ほど紅蓮に譲渡する。
「紅蓮、奴らを倒すには十分なエネルギーは渡した……本来の力ならいける筈」
そう言うと、紅蓮は舌打ちした。
「全部分かってるみたいだな……まあ、いつまでも隠れては、居られねぇか」
そういうと、紅蓮は炎を召喚した。