116話 顔無き者8
西に進み、帝国との間にある山の、木の生い茂っている場所で、全員を集める。
「実は言わなければいけない事がある、聞いて欲しい」
そう告げると、直ぐに姿勢を正す彼らに、私の本当の計画を説明する。
「貴方達にはここに残ってもらいたい……ああ、理由は説明する、それが分かってないと意味が無いからね」
今回、彼らを集めたのは帝国に攻め込む為ではない、北の戦力を削ぐためだ。
「北の宗教国家は、私達の国を見て居て、既に約半数の兵が国を出立した事を掴んでいるだろう……漁夫の利を狙っている彼らが、この好機を逃す筈が無い。
そこで北の兵が攻めて来た時、貴方達には、この場所から北の軍の横を攻撃して欲しい」
そこまで言うと、皆理解したようだ。
「一つ質問を宜しいでしょうか?」
「どうぞ」
「北から来る、敵軍の正面である南側を国に残った皆が、左側を西に居る私たちが攻めた場合、残った東側や、北側に逃れてしまうのでは無いでしょうか?」
まあ、そうだ、普通なら逃げるだろう……だが、今回に限って、それは不可能だ。
「北には私のダンジョンがある、奴らが来るときには発見出来ないように幻術を掛けてあり、何もしないが、その後、魔物の群れが、軍の背後を強襲する。
東だが……あちらに逃げて生還する事は出来ない筈だから、問題ない、貴方達も深追いしないように」
東の森に居るアイツが、いいカモを逃がす筈が無い。
全員が納得してくれたようなので、改めて支持を出す。
「アリー、此処に残って北の軍が来たら、ダンジョンのモンスターを使って軍の背後から強襲する役をお願い……あと、絶対に死なないように」
私の言葉に頷いた彼女に満足する、この役目はアリーが最も向いている、オートマタの彼女ならば、常に冷静に状況を分析して支持を出せるだろう……豊に任せると、慌ててミスを連発する可能性が少しあるから、今回は止めておく
「兵の皆は、アリーと待機して、北の軍に対抗してほしい……私と豊は帝国に行く」
今回の作戦には、帝国との同盟も含まれている、少なくとも北の国をどうにかするまでの間は協力したい……それに皇帝を打ち倒した、新皇帝にも少し興味がある。
指示を終えて、私と豊は、山を越えるルートで帝国へと向かう。
「星華ちゃん、私に説得とか交渉術とか期待してないよね?」
「してないよ……戦力としては期待してるけど」
豊に交渉は無理だ、顔に出るから腹芸が出来ない。
「戦力って事は戦う事があるの?」
「現状、かなりの戦力があると思われる紅蓮が負傷している、北の宗教国家がこの機会を逃すとは思えない」
「星華ちゃんがやったんだよね……もしかしてそれも、最初から計画の内?」
豊の言葉に頷く。
「そう、紅蓮が攻め手に居た時点で、この展開を予想していた」
「……でもさ、星華ちゃんと互角って、紅蓮って何者なんだろ?」
「多分アザトースに近い能力を持った存在、何で帝国に居るかは分からないけど」
「それって危険な相手じゃ……」
「味方に出来れば心強い」
そもそも立場上、敵対しているだけなのだから、味方につける事は出来るはずだ。
「……まあ、その辺は星華ちゃんに任せるよ」
「はいはい、任せられました」
いつも通りの言葉に軽く返す……アザトースが紅蓮の正体に気付く前に、味方につけないとな。