110話 顔無き者2
鍛冶場に向かい、開いていた炉を借りる。
材料を豊に持ってこさせ、それを待つ間に、構想を練る……基本は今まで作った玩具の完全版といった所か。
今までの物でも、常人が使い、人間相手ならそれほど困りはしないだろう、だが、相手として人外も多くなるだろうこの先、私が使うには不十分だろう……取り敢えず耐久力的に長く持たない。
いや、そもそも匕首を使えば良いのだが、アザトースがあれを妖刀だと言ってしまったから、あれは妖刀になって居る……高位の神による認定だ。
それに血を吸わせ続けると暴走しかねないから、時々豊に払って貰わなければいけない。
そんな訳で匕首が使えない間に使う武器が欲しい。
暫くすると、豊が数種類の金属を持ってくる。
頭を撫でて、軽く口付けを交わすと、豊は用事があると言って名残惜しそうに自分のダンジョンへと戻っていった……大方、畑仕事だろう。
「……なあ、ちょっといいか?」
作業をしていると、後ろから鍛冶師の一人に話しかけられる。
「構わない」
「最近、此処に来る注文が増えてきている……戦いが近いんだな?」
「早ければ明日にでも」
戦いの開始は向こうが攻めてきてから、だからいつでも動けるようにしていなければいけない。
「そうか、最近陛下を見かけた時、何か悩んでいるように見えてな……以前はどんな身分の相手にでも気軽に声を掛けて頂いて居たのが、周囲の人にも気が付かない程の悩みがあるのかもと思ってな」
「……マーガレットは幸せ者だな、こんなにもこの国の民に好かれているのだから」
言葉に漏れた呟きは鍛冶師に聞こえた様だ。
「そうだな、今まで一度もなかった最高の女帝だ」
そう言って彼は、他の鍛冶師に武器の製造を急がなければならない事を伝えに行った。
……確かにマーガレットは最高の女帝だ、だが、だからこそ危うい所がある。
部下を思い、民を愛する者は戦争に向かない……戦争は民を死地に赴かせるものだからだ。
…………だから私がやる、マーガレットは自分が先頭に立つ気だろうが、彼女には無理だ、全ての泥は私が被る。
……その結果私がどうなったとしてもだ。