101話 罪は私を緋色に染めて24
「という訳で軽く手合わせしよう」
「……手加減はしてよ、流石に本気出されたら勝負にならないから」
豊を呼んで簡単に説明すると、諦めた様に頷く。
「はいはい、分かってる」
「……不安だ」
まあこれはラスボスエリアの試運転も兼ねてるからね、造った闘技場の広さとか天井の高さとか、試してみないと分からない不便さがあるかもしてない。
闘技場に移動すると、豊は武器を持たずに構えを取る。
「別に武器使っても良いんだよ、私は危ないから素手だけど」
「いいよ、星華ちゃん相手に弓を引いてる隙無いから」
「そうだね、特に禁止してないから私に”弓を引く”事は出来るけど、物理的には弓を引けないよね」
「頑張ったら、ご褒美頂戴」
「いいよ、じゃあ……やるか」
言い終わると同時に距離を詰めて突きを放つ。
簡単に躱されるが、まあ予想通りで、そのまま突き出した右手の平を地面に付け、体の捻りを利用した回し蹴りを叩き込む。
「……いきなり本気すぎない?」
「ご褒美をねだったんだから、これ位普通でしょ……それに今日は調子がいい」
再び突撃した瞬間、ヒヤリとして後ろに飛ぶ。
「豊も本気みたいだね、狩られるかと思ったよ」
「どうせ殺す気で戦って、初めて訓練の相手になるでしょ」
「それもそうだね」
豊が使ったのは氷のナイフ、透明度が異常に高くて非常に見え辛い、両手に持って居るそれは、厄介な武器だ。
……だが、戦法を変える事は無く、再び踏み込んで攻撃する。
突き出されるナイフを持つ腕を払って当身で吹き飛ばし、壁にぶつかる寸前にその壁から荊の槍を複数生やす。
何とか氷の壁を作ってそこにぶつかる事で槍を回避した豊に、そのまま全力の一撃を放つために突撃したら回避され、全力で氷の壁を殴る結果になった。
窓ガラスの割れたような高い音では無く、普通に壁に破壊用の振り子鉄球がぶつかったような音がして氷の壁が爆散した。
「……降参、死ぬ、こんなの無理」
「まだ始まったばかりじゃん」
「いやいやいや、あの壁、込める魔力を調節してないから異常に硬いし、厚さは水族館の巨大水槽並みにだよ、あれ破壊する攻撃とか無理だって!」
……そこまで力込めた覚えないんですけど。
「ちょっとまって……あ、これだわ」
システムから【暴食】の効果の文を取り寄せて、豊にも共有する。
『【暴食】自分が摂食した物をエネルギーとして蓄え、自由に取り出して使う事が出来る。
又、エネルギーは他のエネルギーに変換する事も可能で、摂食量の限界も非常に大きく上昇する』
「……これなに?」
豊は理解しようとしていたが、よく分からなかったようだ……まあ説明文だけ見れば、普通の生物の体内で起きている事と同じだと思える……食べれる量が増える以外は。
「まあ要するに、食べたものをグルコースとか抜きにして直接エネルギーとして体内に貯蔵して、戦う時にそのエネルギーを引き出せるって事だね……どれだけエネルギーを取り出すかも、自分で決めれるみたいだけど」
一撃に込めるエネルギー量を増やせば、いくらでも攻撃力を上げれるし、エネルギーの貯蓄がある限り、不眠不休で戦う事も出来るだろう、その上エネルギーを魔力などに変換して使えるのだから凄まじい。
「……強すぎるでしょそれ」
「まあ、七つの大罪の一つだから強いのは確かだね、普通の人なら体が持たないだろうけど、私なら大丈夫だし」
「……まあ、星華ちゃんが強いのは変わらないから気にするだけ無駄か」
「そうだね、じゃあご褒美は……何か欲しいものある?」
思いつかなかったので豊に聞いてみるが、豊も思いつかないようだ。
「あ、でも、たまには星華ちゃんの手料理が食べたいかも」
「分かった、じゃあちょっと部屋で待っててね」
そう言ってダンジョンに設置してある調理場に向かった。