98話 罪は私を緋色に染めて21
「させませんよ」
突如部屋に閃光が走り、私が打ち下ろした荊の杭は壊された。
「ようやくか、ベルゼブブ……いや、今の力はバアル・ゼブルの神威か」
目が慣れると宰相を守るように、槍を持った一人の男が立っている。
……荊の残骸を見ると殆ど炭化している、恐らく雷撃を使ったのだろう、槍は稲妻の象徴だから。
「さて、何故お前がそこの宰相などに力を貸す?」
「私は主に従うのみ、全ては主の決定の儘に」
なるほど、主か、まあどうでも良い。
「取り敢えず戦う気か?」
「ああ」
「ならばこれ以上は聞かない……いくよ」
既に準備は済んでいる。
魔力を流し荊を再び作り出す……今度の荊は『黒い荊』だが。
それは私の瘴気を練りこんだ荊だ、そもそも植物を扱うのではなく、魔力で『荊』と言う定義を持つ物質を作り出す魔法だから出来る芸当だ。
言葉にするとややこしいが、簡単に言えば、それを私が『荊』と認識すれば、水流などでも荊の形になるという事だ。
普通の荊より遥かに操作しやすく、破壊力も高いその黒荊を目の前の男に叩き付ける。
「……なるほどな」
男……バアル・ゼブルは槍でそれを受ける、同時に雷光が走り、荊を焼こうとする。
だが、その程度で黒荊を破壊する事は出来ない。
「まだまだあるよ」
更に荊を追加してバアル・ゼブルを襲わせる。
流石に神の雷光の直撃では命に係わるので、一定の距離を保ちながら攻撃を行う。
「……しつこいな、現世では本来より力が弱いのだから、諦めて帰れば?」
因みにこれの情報源はアザトースの愚痴である。
そんな事は置いておくとして、私は荊に更に力を追加する事を試みる。
それは私の精神世界内の狂気を荊に練りこむ事だ……既に瘴気を合わせる事が出来て居るのだから、そこまで難しい事ではない。
自分の精神の闇を魔力と共に荊に流すと、辺りの気温が下がり始めた。
……成功だ、私の絶対零度の歪みを持って来れた、これは神であっても破壊する、なぜならそれは『拒絶』の力なのだから。
「……なるほど、これがお前の力か」
そう言ってバアル・ゼブルは武器を別の空間にしまう様に消す、それを見て私も攻撃を止めて、荊を消した。
「そうだね、これが私の力……そして弱さだ」
「そうか、己の力を認めるのはたやすいが、弱さを認めるのは難しい……主の判断は正しかったようだな」
「ん、何を言っている?」
「私は主の命で、お前に私の力を分け与える為に来た、その力を確認したうえでな……その様子なら問題無かろう、取得権限は渡しておこう、あの邪神アザトースが作ったシステムから受諾できる筈だ、それではな」
そう言って去ろうとするバアル・ゼブルを呼び止める。
「宰相はどうなる?」
「ああ、その者にはすまない事をした、既に契約は解消してある、力は無いが、罰を受ける必要もない……出来れば罰しないで欲しいとは思うが、こればかりはお前たちの裁量次第だ」
そう言ってバアル・ゼブルは何処かへと消え去った。
……今更だが正直怖かった、相手に殺す気が無かったから先手からの荊の拘束で完封したが、殺す気なら最初の一撃で消し飛んでいた可能性もあった。
取り敢えず今は宰相の処罰についてか……まあ出来る限り努力しよう、シナリオを作るのは得意だから。




