9話 火薬士
転移した先は校門の前で、私はセイを連れて体育館に向かう。
多分でしかないが、恐らく居るだろう。
取引は問題ない、ほとんどあちら側が得な内容を使うつもりだから。
売買の行われている巨大な体育館に行くと、入ってすぐの所にマップが設置されておりその時点でどこで誰が店を構えているかが分かるようになっていた。
目的の店は一番奥の隅にあったのでそこに向かう・・・ドレスのままだったからか、多くの視線を感じるが全て無視して進む。
「どうした事かのう・・・ん、夜神やないか、ワシになんか用か?」
何か考えていたようだった着物を着て下駄を履いた幼い少年を思わせる様な風貌の彼・・・空はこちらに気付いたようで声をかけてきた。
「取引に来たのだけれど、問題がありそうね」
「ちょっと喧嘩を吹っ掛けられてしもうてのう」
空は生まれつき呼吸器官の病気を患っていて、激しい運動が出来ない、それが戦闘を仕掛けられたら確かに問題だろう。
だけど私は空と契約を交わしに来た。
「そいつらは誰かわかる?」
「知らんのう、名前など一々覚えとらんわ」
・・・その気持ちはよくわかる。
「まあ、どうでもいいか、協力するよ」
「さよか、なら助かるわ」
そこで空は私の隣を見る。
「その女子はどうした?」
「捨て子を保護した、名前はセイよ」
「さよか、少し見せてみい・・・これは酷い事をするのう、ナイフのような鋭い刃で切ったのか、治療は魔術かのう、ワシには解らんな」
「今は筆談で済ましているがいつかは治療法を見つけるつもり」
「なら、今は置いておこうか。誰にも聞かれない所で相談をしたい、ワシのダンジョンに来てくれんか?」
「そうね、それがいいわ」
空が転移陣を開けゲスト登録し、私とセイは空のダンジョンのマスタールームへと移動した。
「そんで、まずはあんたが最初にしたかった契約の話から進めていこか」
「そうね、私が欲しいのは貴方に色々作って貰いたいのと、他の客に何を売ったかを教えて欲しい」
誰に売ったかは関係ない、どこに流れてるか解らないのだから。
「そんでそっちは何をくれるんか?」
「一つは安全、危険な時には援護に向かうわ、今回みたいにね。二つ目はこれよ」
そう言って持って来た袋を投げて渡す。
「これは・・・硝石かそれも質が良い、これをどこで?」
「セイに酷い事をした村を皆殺しにして奪って来た、その上私のダンジョンはその近くの鉱山だからそれなりに手に入る、私には使い道が無いから全て貴方に渡すわ」
「確かにこれなら上物の火薬が作れそうだ、これからも手に入るんやな?」
「恐らく」
「ならその契約、受けたるわ」
「感謝する」
「そんじゃあ、何が欲しい?」
「隠し持てるサイズの爆弾が二、三個とできれば閃光弾を一つ」
「両方携帯式やな、それぐらいなら大した事ないわ、直ぐに用意したる」
「空のダンジョンの戦力は?」
「ゴーレムが十体、運動が出来ない分二種類だけアザトースが魔法を使えるようにしてくれたからのう。その一つがゴーレムを作る魔法でのう、体力使うからなかなか数は増やせんがそれなりに戦えてるわ」
「もう一つの魔法は?」
「ちょっと見ててくれ」
空はダンジョンの壁に向かって手を伸ばす。
「見ときな【炎術・火針】」
術と共に火の針が飛び出して壁に当たって消える。
「まあ、現状これしか使えん、殺傷能力は皆無や」
「精度は?」
「必中」
・・・全くどこが殺傷能力が皆無だ。
「空の使う爆弾は短い木製の筒、地面に落としといて起爆すれば十分強いでしょ?」
「ああ、その通りや、ワシは夜神みたいに強くは無いが搦め手は得意だからのう」
・・・頼もしい、やはり空を味方に引き入れるのは正解か。
「そんでもって今回の問題やな」
「既に契約には貴方と協力することが入っている、特に決める必要はないでしょ?」
そう言うと空は頭を掻く。
「現状大した事が出来ないからのう、もう少し何か出来る事があればとおもってのう」
「なら、私の前ではありのままの姿でいてくれない?」
「どういう事や?」
「だからその胸に巻いてるサラシを取って欲しいって言ってるの」
「・・・ばれとったんか」
「ばれてない訳が無いでしょ」
相手の性別なんて私には簡単に解る。
「しかたないのう、あっち向いててくれんか?」
「別にいいじゃん、女同士なんだから」
「レズが何を言ってる・・・」
仕方ないから言われた通りあっちを向いてると終わったと声がかかってくる。
「可愛いよ」
「かわ・・・慣れてないからか抵抗があるわ」
それでも可愛いものは可愛い、化粧なんて必要ないぐらいに。
「あんまり見るなや、可愛い顔見たいんやったら鏡でも見てればいいやろ」
「いや~それじゃあつまらない」
「夜神、戦いは明日や、そろそろ準備しに行った方がええんとちゃうか?」
逃げられるがまあ何時でも話せるし別に構わない、自分のダンジョンへの転移陣を開く。
「爆弾とかは明日でいいから」
「わかったわ」
「関西弁は相変わらずね」
「まあ、これがワシの話し方やからな」
「あと・・・」
「どないかしたか?」
「私の事は星華って呼んでくれない?」
なんやそんな事かと空は苦笑した。
「わかったわ、ほなな星華」
「ありがとう、空」
私はセイを連れて転移陣へと入り一度自分のダンジョンへと戻った。