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5話

「なんで? 残ったのは3でしょ?」

 開かない鍵に向かって、私は言うが、所詮は機械。私の問いに答えてくれる機能はまだついていないようだ。

 自身の間違いを受け入れらない私。

 しばらく呆然と立ち尽くしていたけど、止まっていた思考を、無理やり頬をつねることで再起動させる。

「まだ、諦めるのは早い」

 一度失敗しても、防犯ブザーはなっていない。

 ならば、まだ入力は出来る。

(ここまできて――諦められない)

 切り捨てられるのが0.14ならば、残ったのは3である。

 インターネットで調べた情報とは違って4桁の数字ではないけれど、三つ並べろとs辞されている以上、ロックの桁が4桁の可能性は限りなく低い。

 念のために3を4回押してみるけれど、やはり空いた気配はない。

 またしても、ブザーはならなかったけど、実際はなっていないだけで、防犯システムが起動しているのかもしれないが、まあ、その時は謝ろう。

 既に私の中でこの暗号を解くことが優先こと項に代わってしまっていた。

「ちょっと、探偵気分だったのに……」

 だが、気分だけが『探偵』だろうと、私はただの女子高生であり、結局何も解けないのでだった。この暗号としては、ちょっと調べれば簡単に分かるレベルだったというのに。

 私は生徒たちの間で『噂』になっている、『秘密の部屋』にすら辿り着けない愚かな人間だと――そう突きつけられている気分だ。

(私には残るものすらないのかも知れない――私は切り捨てられるだけの0.14だ) 

 残った3は、『円』として、ゆとりの象徴として誤った認識をされているのに……。

「うん?」

 残った3は円として認識される?

「もしかして……」

 残ったのは、3だけど3じゃないのか……。

 誤解された円周率を暗号に使用しているのだ。

 まさか、3は円として誤解される。だから、3は結局のところ○に戻ってくるでも言うのだろうか。

 円は線がスタート地点へと戻ってくる。

 これだけ考えた結果が、○は○でしかないと――そんなふざけた暗号に、私は怒りを覚えた。

 旧棟に『オートロック』を付けるだけあり、相当ぶっ飛んだ性格の人間がいるものだ。

「『切り捨て誤解。』その暗号を解いて残ったのは○だけなんて――」

 私はそこまで自分で言ってようやく気付いた。

 残った数字ものを3つ続ければ良いことに。

 丸。

 円。

 だが、それを入力しようとしても、この数字だけの中に記号は置かれていない。

「でも……これも円だし丸だよね?」

 私が押した数字は三つの0。

 半ば諦めにも思える最後の賭け。

 これでダメだったら、もう駄目だ。

 半ばやけにも思える気持ちを持って、私は呼び出しボタンへと手を伸ばした。





「あれ? 誰か来た……」

 開いた教室の中に居たのは、中学生くらいの少年だろうか。

 可愛らしい、中性的な顔をしている男の子。

 教室へと入った私を見ると、大きく、くりくりとした、小動物の様な目を、こちらに向けた少年。

 そんな困惑した表情で見られても――。

 むしろ、私がそんな顔をしたいぐらいだ。

 そこまで可愛い表情を私にはできないだろうが。

「あの、ここが……『秘密の部屋』ですか?」

 恐る恐る教室の中に入ると、扉が勝手にしまった。どうやら、この扉、開いた時も自動だったので、至って平凡な教室の扉なのに、自動扉になっているようだ。

 いや、この教室……本当に旧棟か?

「あー、そう『噂』されてるみたいだねー」

 折角来たんだからまあ、座りなよと彼がボスボスと手を叩くのは、旧棟に相応しくない、どこぞの貴族が使うような、気品あふれるソファだった。

 気品からは程遠い、私にもその価値が分かるソファに、ごろりと少年は寝そべっている。

「あれ? どうしたの、早く座りなよ」

 少年が寝そべってソファを使用しても、私があと三人は余裕で座ることが可能な広さ。元が教室だから十分な広さを誇っているのか。

「……失礼します」

 私は恐る恐るソファに腰を掛けたると、予想以上の反発が私の腰を柔らかく包み込む。

「おおっ」

 こんな椅子が世の中に存在するのかと、大げさではなく、本気で感嘆の声を上げる私を、少年は楽しそうに見ているのであった。

「な、なんでしょうか?」

 少年の視線に私はどうしていいのか戸惑ってしまう。あまり、男子と話したことのない私は、この状況で何をすればいいのかと焦るが、。

(私は、暗号を解いて、ここにきた。『秘密の部屋』で、願いをかなえてもらうために)

 自分が何をしに来たのかを思い出した。

「えーと、君、名前は?」

 少年がよいしょと身体を上げ、(ソファの反発を利用して、あおむけの状態から、手を使わずに跳ね上げた)、私に聞いてきた。

 年下のくせに妙に偉そうだと私は「ムッ」となるが、私はあくまでも願いを叶えて貰う身だ。ここで、下手に少年を怒らせるのはマズイだろう。

「ええと……。一年C組、曳原 星乃と言うものです」

「はは、ほしのんねー」

 と、名乗って数秒でニックネームを付けられた。

 下手に出たのをいいことに、調子に乗られたのか……。

 それでも、私は我慢をし、

「いや、星乃です」

 と、変なニックネームをやんわりと否定する。

「いいのいいの、気にしないで。僕が呼びたくて呼ぶのだからさ!」

「……呼ばれる私が気にしてしまうのだけど」

 遠慮がちにそう言ってみたが、私の意見は

「あっそ」

 だそうだ。

「……」

「……? にっこり?」

 無言で睨みつけたが、笑顔で返されてしまった。

 どうやら私の意見は「あっそ」の一言で終わりらしい。

 首を傾げて笑う少年は確かに可愛いが、しかし、可愛いからといって何でも許されるわけではない。

 この少年……私を舐めているのだろうか?

 近頃の子供は礼儀がなっていないというか、馴れ馴れしいというか……。

 ここはひとつ、お姉さんがビシっと言って上げようか。

 ガラにもなく自分の枠を超えたことを考えてしまった。

  自分の限界を決めるのは自分。

  だけど、自分の限界も把握できない人間が、何をしても無駄だと私は思っていた。

  自分の限界を決めるのは自分なんてことを言えるのは――才能あふれる人間だけだと誰に言われなくとも分かっていたのに。

  無能な人間は『限界』があるから無能なのだ。だから、才能あふれる天才の発言を信じ込むのは愚かしいこと。

  自分で限界を決めなくても、確かに、揺るぐことなく『限界それ』はあるのだ。

 私が少年に何かを教えるなんて、自身の限界を超えたことだった。

 それは分かっていたのに――。

「君ねぇ、年上にむかって、その態度はいただけないんじゃないかなー」

 私は少年の態度を注意した。

 私のそんな忠告に、ただですら大きな目を更に大きくして、口を大きく開けた。

 いや、目を大きくするならまだわかる。私みたいな地味な女に、注意されたら、驚きもする。

 だけど、口を大きく開けなくてもいいだろう。自分で勝手に注意しておいてなんだけど、少し傷ついた。

 口を大きく開けていた少年は、

「年上? 君が?」

 と、意地悪い笑みを浮かべる。

「うん、そうだけど?」

 この少年、全然反省してない。

 人を馬鹿にしたような態度に、もっときつく言わなければ駄目かと、更に強く警告をしようとするが、

「きみ、高天高校の一年生なんでしょ?」

 と、私を指差す。

 ますます失礼である。

「そうだけど……」

 私は少年に対する怒りを隠し切れずに、態度に出してしまったのだが、そんな私の態度すらも面白なかったのか、意地の悪い笑みが更に大きくなった。

 それもそうだろう。

 何故ならば彼は――、

「僕、二年生だよ?」

 私より年上なのだろう。

 しかし、愚かなる私は、

「うん、中学のね」

 警告を無理にでも続けようとした。こうなってくると、私の方が失礼なのだけど、悪そうな笑みでも、笑ってくれただけ助った。

「はは、違うよ。僕は高天高校二年、一宮いちのみや いまる。君の先輩だもんね」

 いまるさんは自分の名を教えてくれた。

「……ダウト」

 しかし、名前は分かったが、私は彼の言葉を否定する。高天高校二年生と言った彼の言葉をだ。

「は?」

 まさか、ここまで信じて貰えないとは、いまるさんも思わなかっただろうが、私は変な所で頑固なのだ。

 だから、許してほしい。

「私がそんな嘘に騙されるわけないでしょ? 人を騙したいのならばもっと、マシな嘘をついた方が良いよ」

 騙すという行為は思いのほか難しい。

 それも初対面の人間となれば尚更だろう。いまるさんの可愛さが通用する相手なら良かったのだろうが、残念なことに相手は私だ。

 私は可愛い系の男の子はタイプじゃない。

「ほい」

 しかし、いまるさんは、刑ことが容疑者に、警察手帳を見せるかのように、私の目に、ずいっ。生徒手帳を前に突き出した。

「これ見ても嘘だと思うの?」

 そこに載っていたのは、可愛らしいポーズでとられた顔写真と、高天高校二年C組の文字。この学校で、生徒手帳は毎年、学年が上がるたびに、写真を撮り、新しく更新される。

 だから、偽装も出来ないだろう。

 生徒手帳を偽装する意味もないだろうけど。

「あ、あ……」

 殺人を犯してしまった犯人の如く、私は動揺しているが、あくまで、いまるさんの学年を間違えてしまっただけなのだけだが。

 私の動揺に気を良くしたのか、

「ふふふ、僕のことはいまるさんと呼びなさい」

 少年は胸を張るのだった。

「……失礼しました、いまるさん」

「気にするでないぞ」

 どこの時代の悪代官だと言いたかったが、年上なのでやめておいた。

 いまるさんは、悪代官が気に入ったのか、そのままの口調で、

「主はどうやってロックをといたのじゃ?」

 と聞いてきた。

「それは……一階にあった黒板を見てですけど」

 私は年下にしか見えない先輩に、失礼が無いように言葉を選びながら答えた。

 どんなにふざけた態度でも先輩には変わりがない

「へぇ。あれを見つけたんだ。まあ、そうじゃないと――ここにはこれないか。それにしても、かなり、久しぶりな来客だから、びっくりしちゃったよ」

「そうなんですか?」

「うん。大抵は誰かが、暗号を教えちゃうから、入れないんだけどね」

「はぁ……」

 簡単に説明をしてくれるいまるさんではあるけれど、元となる説明が書けているので、私は「はぁ」としか言えなかった。

 わたしのその適当な相槌を、私が理解したと受け取ったようで、「ちなみにその場合は、録音モードになるようになっているんだ」と、次の段階に話を進めてしまった。

「ろ、録音モード?」

 それでも何とかついていこうとする。

「ええとね」

 彼はそう言って何やらリモコンの様なものを取り出し、壁についていたスピーカーから、音声を再生させた。

(やっぱ、この部屋、旧棟らしくない)

 巨大なスピーカに、更には巨大なスクリーンまであった。

 どこぞのセレブだ。

 私は改めてそう実感していると、何やら、人の声が聞こえてきた。女性の声のようだが、なんと言っているか、聞き取りずらい。

「あの、これは?」

「しっ」

 いまるさんが、私を制する。

 直後、今まではっきりと聞こえなかった声が、しっかり、私の耳に入ってきた。

『私は二年A組、近藤 茜です。同じクラスの桜井君と付き合いたいので、是非、願いをかなえて下さい。お願いします』

 旧棟に沈黙が流れた。どうやら、録音されていた音声はこれだけらしい。

「はて、これがなにか?」

 音声を聞かされても、たったこれだけで、いまるさんが何を言いたいか、察せられる程、私は想像力豊かでない。

「はははー。こんなお願いことしてくるなんて、この子にはここが神社にでも見えたのかなー?」

 だけど――やはり、いまるさんは、私の話を聞こうとはしてくれなかった。

「あ、あの!」

 流石に、ここまで付いていけないと、説明をしてくれる井丸さんにも失礼だし、人よりひとつ下にいたい私だけども、あまりに離れすぎるのは嫌だ。

 我ながら、本当、対したことないプライドである。

「さっきの音声は一体?」

「ああ、あれねー。あれは、あのロックに『000』を入力すると、録音モードに入るんだ」

 ようするに、『000』を入力すると、さっきの音声の様に、願いをいうことが出来るという。そして、大抵は願いを言うだけで満足して帰ってしまうとも。

 でも……、

「ええと、私はこうして入ってこれたんですけど?」

 しっかりと、『000』を私は入力した。

 録音モードとやらにはならずに、こうして――扉が開いたのだ。だとしたら、私と録音の音声の彼女と何が違うのか。

 私はいまるさんに問いかけた。

「それは一度、0か3を入力して間違えると、モードが変わるんだよ」

 ニアピンを起こすことで変化すると言うのだ。

 録音モードから――開錠モードに。

 いまるさんは、私を指差し、格好良くそう言った。

 ただ、見た目が、、見た目なので、カッコイイより可愛らしいのだが。

「でも、もし、一度も間違えずに暗号を解く人がいたら、正解してもここにこれなくなるのではないでしょうか?」

「あんな意地悪い暗号を一発で解ける人間が、わざわざ『噂』には頼んないって」

「それはそうだ」

 私はいまるさんの理屈に納得した。それと同時に、機械の凄さに感心するのであった。

「最新の機械はそんな機能が付いてるんですね……」

「へへん。凄いでしょ? 僕が考えて作ったんだー、この仕組み!」

「作った?」

「うん。因みに、さっきのスピーカも自作だよん」

「へ?」

 見るからにメカメカとした機械たち。

 自作と言われても、電気屋さんで売られているものと遜色ないスピーカー。

「これを……いまるさんが?」

「当然。これくらい、お茶の子さいさいだよ」

「凄いですね」

「何言ってるの、これくらい――普通だって」

 今まで、格好つけてるときさえ、絶やすことがなかった笑みが―初めて、いまるさんの顔から消えた。

「…………」

 さっきまでとは全然違う雰囲気を、作り上げた、いまるさんに、私は言葉を出すことが出来なかった。

「まあ、僕の話は別にいいからさ、ほしのん、ここに来たのは叶えたい願いがあるんじゃないのー? 僕たちで叶えられる範囲でならば叶えるよー? 流石に、自分より強い宇宙人を倒すことは出来ないけどね」

 やっぱ、願いって言うと、それを思い浮かべるんだ……と、時代を超えて愛される漫画の凄さを肌で感じた。

 茶化して言ういまるさんは、ほれほれ、言うてみと笑いながら私に言った。

 まるで、願いを叶えてくれるのがいまるさんのような口ぶりだ。

「え? 願いを叶えてくれるって、先輩がですか?」

「まあ、正確には僕だけじゃないんだけどね」

 でも、僕も関わるからあながち間違ってはないけどねー。

 そう付け加えた。

 私は暗号といまるさんの衝撃で、ここに来た目的を再三と忘れかけていたが、いまるさんの言葉で、私は自分の願いを叶えるために来たのだと自覚をする。

「そうですか……」

「ああ、別に言いたくないなら帰ってもいいよ? 僕は自分から進んで誰かの望みを叶えたいとは思ってないしね」

 私を突き放そうとしているのか、冷然とした態度を見せるいまるさん。

 顔は笑っているけども――先ほどのいまるさんが放った、異様なる雰囲気を体験した私からすれば、ここで、ヘラヘラと一緒に笑う気にはなれない。

「私は……」

 だから、私は自分の願いをいまるさんに言う。

 私の叶えたい願いは――、

「東頭 文乃さん。彼女から――私は解放されたい」

 私が手にした友情を捨てることだった。


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