12話
「なによ、あいつ」
「なんで、あんな人間が王士さんと一緒に登校している訳?」
いつもならば校門を一人で潜る私だが、まさか、二日も続けて隣に誰かがいるなんて――まるで普通の高校生じゃないか。
私がこんな人間になってしまうなんて……。
その結果がこれだ。
私と王士さんを女子高生の集団が待ち構えていた。その集団から次々に漏れてくる声を聞きながら、私は自分の甘さを悔いていた。
誰がなにかを言ったのかも聞き取れないほどの女子の大群。後ろも前も女子女子女子。
スカートをヒラヒラと振り乱している姿は脅威にも思える。
いつもなら、
「群れてるな~」
で終わりなのだが、群れの意思が私に集中していると、そんな軽口すらも叩けない。
そもそもに……。
「あれ、あの子まえに、王士様に声かけられていた子じゃない?」
ドキリと胸が跳ねた。
私の顔なんか覚えてなくていいのに、誰だ余計なことを言う馬鹿は。だが、そんなバカの言葉に集団のボルテージがヒートアップする。
ざわつく群れ。
「あ、あの、王士さん。わ、私いま、おかしくなってないですかね?」
「なぜだ?」
「私……人の視線が苦手なんですよ」
私を睨む数えきれない視線を浴びた私は、挙動不審になってしまう。
ぎくしゃくとした動きで王士さんに尋ねたのだが、相手が悪かった。どんな状況でも王士さんは王士さんであった。
「おかしいことか……。あるとすれば――」
「あるとすれば?」
「私を呼び捨てないことだな」
「いい加減にしてください。私、真面目に悩んでるんですからね」
中学生からの私の悩みだったのに……。
「ならば、それを直してくれと私たちに願えば良かったのではないか?」
「別に普通の生活では、こんな注目されることありませんから」
彼女のふりをするのは別に構わなかったけど――こうなるのが嫌だった。
自分の駄目な所を突きつけられる。人と関わらないのは自分を守るための手段だったのだ。だから、私は、例え一方的であろうとも、私は誰かとかかわりを持ちたくない。
「そんなに悩むことか?」
「当たり前です。こうしてる間も視線が辛くてしょうがないんですけど……」
「そうか。だったら、早く言えばよかったのに」
王士さんは「ぽん」と、手を打った。
良かった……伝わったようだ。
王士さんはクルリと回り、自分を囲む女子へという。
「皆、よく聞いてくれ。彼女が私と二人きりになりたいそうだ。だから、君たちは私の視界から消えてくれないかな?」
「えええええええ! ちょっと、どうしたんですか、王士さん」
しかも、さりげなく私を使いやがった。
この御曹司……最低だ!
金切り声が校舎の前に鳴り響く。阿鼻咸鏡とはこのことか。
「どうって……。彼女の望みを叶えることが、彼氏の使命だと私は思うのだよ。実にいい彼氏だろう?」
「それはいい彼氏なんでしょうけど!」
確かに私は人の目が気になるとは言ったけれど――王士さんのやり方では、ただただ、女子生徒たちの怒りを煽るだけである。
「もう、余計なことしないでください」
私は、無理やり王士さんの腕を掴み、校舎の中を目指す。
「し、失礼します」
私は校舎前に集まってきた生徒たちに軽く頭を下げながら歩む。横を通ったときにした槌をする女子や前を塞ぐ女子がいた。
その度に、
「すいません、すいません」
私は深く頭を倒す。
「何を誤ってるんだ?」
王士さんは私の横を平然として付いてくるだけだ。
いい気なもの。
私の身にもなってみてほしい。
「と、とにかく、早く中に行きましょうよ?」
「なぜだ? 折角付き合っているのだ。大勢の人に見せびらかそうではないか」
「そんなゆとり教育みたいな」
「君だってゆとりだろう?」
「私はそこまでじゃないですよ。最近の若い学生たちは、自分たちのキス動画をネットに流したりしているみたいですよ?」
私には考えられないのだけれど、それが流行っているのもこと実。
時代は流れ移り行くものだが、どうやら私はそれに取り残されてしまったらしい。流行っているものが全てではないのだけれど、流行ったこと実だけを見れば、それは十分凄いのだ。
下駄箱を抜けると、普通に歩ける程度に人は減っていく。このチャンスを逃すまいと私はどこか目につかない場所を探しているが、王士さんには目指す場所があるのか、真っ直ぐと歩いて行く。
人が居なくなったことで私の気も楽になり、王士さんにも言い返す余裕ができた。
「なんだ、それは? 私にやって欲しいといってるのかい?」
「まさか。やりたければいまるさんか、零さんとでもやってください」
「それもいいかもしれないな」
「いいんですかね」
まあ、いまるさんは可愛いからいいのか。いや、良くはないだろうけど。
「そうだな。零とでもやろうか」
「あえてそのチョイスなんですね?」
「冗談に決まっているだろう」
「そうは見えなかったですけどね」
王士さんが目指していた場所は屋上。
一般生徒は最近の子供の管理だかなにやらで、立ち入り禁止にされてるけれど、そんな立ち入り禁止のドアを蹴り破り、王士さんは平然と屋上に足を踏み出したのだった。
その後に続くか、私は悩んだのだけど、また、人が集まる前に屋上へと非難することにした。
初めて屋上からこの街を見下した。
ただですら、山の上にある高天高校。その一番高い場所から見下ろせるんだ。これ以上、見晴らしが良い場所があるのだろうか。
山々に囲まれた道路。小さな駅。
電車や車が動いているのが分かると、私が学校に居る間も、世界は動いているのだと目で感じることができた。
「やはり、ここから見る景色は素晴らしい。この景色を見るために私はこの学校を選んだのだからな」
「いい景色……ですか?」
人の動きに驚いたとは言え――所詮、この街はなんてことない田舎町。
緑が多く自然と共に成長する街とスローガンに掲げているが、ようするに何もない。
「ああ、そうだ」
「……自然が多いからとかですか?」
「ふふ、どうだろうな」
多分、思い出だろうかな。
そんな風に、王士さんは、景色に消え入るような声でそう言った。
「思い出……?」
「いや、何でもない。とにかく、あれだけ、校舎前で騒いだのならば、少なからず、東頭文乃の耳にも入るだろう。彼女はクラスでも人気者の立ち位置に居るようだしな」
「確かに、耳には入るでしょうけど……」
それが作戦。
分かってる。分かってはいるけれど、東頭さんの元に情報が届く前に、いろいろな物を失い過ぎた気がする。
これだけ失ったんだ。
「本当に上手くいくんですよね?」
「大丈夫。私たち『ルーム000』は人間観察においては、自身があるのだよ」
「そう……なんですかね?」
変わり者だからこそ、見えるモノもあるのかも知れない。
「心配なのは分かるが、動かなければ、何も変わらないぞ? 曳原 星乃」
「それは……王士さんが、御曹司だからそう考えられのであって、普通の人、私には無理です」
この二日間。
いまるさん。
零さん。
王士さん。
彼らと一緒にいて分かった。
私は彼らみたいに、旧棟で人の願いを叶えるなどと、馬鹿げた行為を行えるわけがない。だからこそ、私は『依頼主』と言う立場なのだ。
それを忘れてはならない。
私は『依頼主』。
「そうかな? 私と君はさほど、代わりはないよ」
「まさか……」
王士さんが気を使ってくれるのは嬉しいけども、その気遣いすら素直に受け入れられない私は、人間としてやはり、終わっているのかも知れない。
「ふふふ、まあ、それは君次第だろう」
「はあ」
「多分だが、彼女は教室に入った君にすぐに話しかけてくるだろう」
「確かに、そんな気はしますけども」
東頭さんの耳に情報が入ったら――すぐに私へと聞いてくる。
それは、私は――嫌と言うほど分かっていた。




