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 なんで私はこんな報告書ものを書かなければいけないのだろうか。

 書かなければいけないとはいうものの、こうして、実際に書き記しているので、今更そんなことを考えたところで、無駄ではあるのだけれど……。

 それでも、考えてしまうのが私の悪い所なのかもしれない。

 私の悪いところは、いくら上げてもキリがないので、今、私がやるべきことに集中しよう。私が今やるべきことは、報告書を書くことだ……。

 

『報告書』


 そう、これは報告書だ。

 花の女子高生――JKなのに、まさか、この年で報告書を書く羽目になるとは。全く、悪いことに関しては、私の人生も捨てたものではない。

 ああ。

 面倒くさい。

 本当に面倒だ。

 などと、冒頭からこんなやる気のないことを書いていいのだろうか。

 報告書とは、報告するべく相手が居るわけで、その相手がましてや、恩人ともいうべき三人であれば、なおさら丁寧に報告すべきだろう。

 私は彼らに助けられた。

 だから、その恩を、報告書を掻くことで返せるのならば、喜々として書かなければいけないのだろうが――私には無理だ。

 そもそも感謝をそんなにしていない。

 恩人ではあるけれど、恩人だからといって差別をする程に良い人間ではない。書面にサインをしてしまったから書くだけのこと。ならば、思いのまま書き散らして、あの三人はどんな顔をするのだろうと想像はしてみるのも悪くない。

 きっとあれら三人は普通の表情のままだけど……。

 大体、これを書くにあたり、一通りの書き方を彼に習った。その時に、「思ったまま書いていいからね」と、純粋な天使の様な笑顔で告げられていたのだが、『思ったまま書いて』報告書になるのだろうかと、疑問に思うが、提出すべき相手――言い換えれば需要者が求めている。ならば、思ったままに、面倒くさいをアピールしても別に構わないだろう。

 むしろ、大げさにしておくくらいが丁度いいのかも知れない。

 なにせ、相手はあの三人だ。三人にそれぞれ、『面倒だ』と言っておいて損はないだろう。

 面と向かって言う勇気は私にはないが……。

 そう考えれば、文体での報告と言うのは私に向いている。相手の顔色を気にする必要が無いのだから。

 ああ――、

 「面倒だ」

 「面倒だ」

 「面倒だ」

 ……実際に字面に起こしてみると、報告書を書く手が止まってしまう。書かなければ良かったと後悔した。

 これが筆が進まないということかと……。

 いや、まあ、自分が悪いのだけど。

 まだ始まって数百文字。

 現代の若者ならば呟きやら、ナンタラブックで、簡単に埋められるであろう文字数なのだか、悲しいかな。私はスマホを持ってはいるものの、ほとんどその機能を使えていない。

  毎月の携帯料金を払ってもらっている親に申し訳ないくらいに。

  まあ、私は要らないと言ったのに、

 「何言ってんの。あんなももう女子高生でしょ?」

  と、女子高生は、携帯電話を持たなければ、女子高生ではないとでもいうような、母の剣幕に押され、一緒に買いに行かされたので、申し訳ないとは思っても、それは小さいのだ。

 今となってはそれも良い思い出である。

  ……嘘だ。

  苦い思い出だ。

  親と一緒に出掛ける――親でなくても、誰かと休日一緒に出掛けるのが苦痛の私には、いささか難易度の高いミッションだった。

 欲しくもない携帯電話のために。

 しかも、携帯ショップの店員は顔で選んでるんじゃないかと思うほどに綺麗な人が多かった。『綺麗』なだけでと敵意をむき出しにした私にも、優しく対応してくれた店員さんは流石プロだ。今思い出すだけで、私の態度は恥ずかしい。

 と、恨み言で取りあえず文字数を稼いでみた物の、契約枚数である原稿用紙50枚以上にはまだ遠い。

 私がこの報告書を書くにあたり、あの三人に課された内容は三つ。

 

 一つ、一人称、君の視点で書くこと。

 

 二つ、思ったこと感じたことを思うままに、嘘を入れずに書くこと。

 

 三つ、枚数制限は50枚以上。

 

 それが、彼らに助けを求める上で、私に与えられた代償。

 これを聞いた際には、大したことないじゃんと、余裕しゃくしゃくに、むしろ50枚で私の体験を書ききれるのかと、自分でも分からない謎の自身に満ち溢れていた。

 まだ、体験もしていないというのに……。

 一週間、文章を書くにあたり教育を受けた成果なのか、なんとか、人に読ませるくらいには成長したと自負をしていたのだけど、人に教えられながら書くのと、自分一人で書くのとではこんなにも違ってしまうのか。

 始まって数ページで不安になる。

 そんな心配を胸に、これから私が経験した――私が依頼したこと件を記していこうと思う。

 人として最低の、人として傲慢な私が何をして、何を捨てたのか。

 後悔するのが人の常。

 それが私の信条ではあるけど、そんな信条を『あなた達』は――きっと笑い飛ばすだろう。


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