6:赤ずきんと白雪姫
「情報屋ァ!?」
「うるせーな、何度も言わせんなよ」
「…」
「急に黙んな」
「…え、ちょっと待って、5、6箇所突っ込ませて??」
「多いな」
頭を抱えた俺と、怪訝な表情の赤ずきんを、白雪姫は不思議そうに見ていた。
「白雪姫は王子と結婚したんじゃねーのかよ!!」
え、待って白雪姫ってアレだよね?
継母に殺されかける→猟師に逃がされる→森の小人の家で暮らす→継母にばれて継母自ら殺しに来る→3回目で死亡→王子が棺発見→何やかんやで生き返る→継母は死ぬ、白雪姫は王子と結婚して幸せに暮らす
これだよね?何やかんやの部分は諸説あるから言及しないけど、これだよね!?
「その『白雪姫』が何でまた森にいて『情報屋』やってんの!?」
「あー…結婚した後、結構すぐにエラいホームシックになってな…
それを聞き付けた小人達が涙ながらに白雪姫取り返しに来て白雪はそれを喜んだんだけど、
王子が死ぬほどごねて結局『15歳になるまで小人と暮らす』って条件で落ち着いたらしいぜ。」
「落ち着いたの!?離婚したの!?この齢で!?」
「別居だ、別居」
いつものように淡々とした答えが返って来た。
「王子様とはねぇ、お誕生日に会うの~。私のと、王子様の!」
そして白雪姫がやんわりと追加情報をくれる。ごめん、別にその情報いらない!
「いやー、やっぱ幼女にいきなり結婚は無理があるだろ。世話になってて懐いてた小人達と引き離されるし」
「そうなの、寂しくなっちゃって…そしたら小人さん達、迎えに来てくれたの~!」
「良かったね!?小人エスパーかな!?良かったね!?あと王子は不憫だね!?」
「何処がだよ幼女に結婚迫る変態だぞ?」
「その通りなんだけど言い方ァ!」
冷静に考えて幼女にときめいて『棺ごとください!』って要求するのもおかしいし、生き返った後結婚するのもおかしい。
あれ、おかしいよね?人間ってそういう文化あるっけ?無いよね?
しかも王子がときめいたの『死体』だからね?尚のこと変態!違う、それはどうでも良い!
「『仕事屋』同士ってそんなに仲良いのかよ!?」
さっきから赤ずきんに引っ付いている白雪姫を思わず指差す。
仕事屋は『孤高』のイメージあったんだけど、白雪姫にはどう考えてもその言葉が似合わない。
「いやべつにフツーじゃね?敵対してんの…誰だ?私は比較的、誰とも対立してねーし。白雪は尚更」
「仕事、この子で成り立つの!?『情報屋』ってヤバい情報も持ってんじゃねーの!?」
「大丈夫だ。白雪は情報の重要度わかってねーから」
「性質が悪い!」
「ねぇねぇ赤ずきんちゃん、何のお話?」
きょとんとして上目遣いで聞く白雪姫。赤ずきんはその頭を撫でた。
「何でもねーよ。小人は?」
「んーとねぇ、そろそろ帰って来ると思う!あ、お昼ご飯一緒に食べない?多めに作ったから2人の分もあると思うの!」
白雪姫は笑顔で提案した。
「おぉ、じゃ貰おうかな。お前は…何疲れてんだ?」
「…」
ゼェゼェと肩で息をする俺に怪訝な顔が向けられた。
「つ…ツッコミ、疲れ…?」
「馬鹿じゃねーの」
明らかなツッコミ要員不足だった。何だろう、決して2人がボケ要員ってこともないと思うんだけど。
「うる、せ…ん?」
再び呑気な歌が聞こえて来た。
「…これ、噂の小人か」
「あぁ?何だよ歌でも聞こえたか?」
「えぇ〜?げぼくさん、耳良いのねぇ」
「ごめん下僕で覚えないで」
「えぇ?」
小さな顔が、こてんと傾いた。
「じゃあ、貴方はだぁれ?」
「…オオカミ」
「クソオオカミだ」
「こんな小さな子に余計な言葉を覚えさすな!馬鹿か!」
「あぁ!?」
「オオカミさん?」
取っ組み合いを始めた赤ずきんと俺を見て白雪姫が笑う。
「オオカミのお友達って初めて!よろしくね!」
「…」
「…」
「…調子狂うなぁ…」
「な?『ギブ&テイク』とかいう言葉が似合わない奴だろ?」
っていうか、この子本当に情報屋かな。不安になって来た。何も考えてなさそうだもん。
何が1番不安って、段々大きくなって来た歌声に圧倒的なツッコミ不足が予想されることだよ。
思わず溜息を吐いた。
「おい小人共!赤ずきん様が参上してやったぞ!」
歌声の方向に赤ずきんが叫ぶ。何でそんなに上から目線なんだ。
ややあってから、小人達が茂みから飛び出して来た。
「赤ずきん?」
「本当だ、赤ずきんだ!」
「何の用だ?」
「久しぶり!元気だった!?」
あれ、意外と真っ当な小人だ。
予想と違うのは、年代がバラバラなことくらい。爺さんぽいのもいるし、子供みたいな奴もいる。
7人の小人達が赤ずきんを囲み、口々に歓迎やら色々な言葉を浴びせていた。
「何の用って…用は1つしかねーけど」
「けっ、情報か!」
「また白雪姫を巻き込むつもりか!」
「白雪は何かに巻き込まれても気付かないだろうが…」
あ、やっぱ気付かないんだ。絶対笑顔で首傾げて「何の話ぃ?」とか言ってそうだもん。
すると突然、1人の顔が俺の方を向いた。
「おい赤ずきん、アレ何だ?」
アレとか言うなや。
「私の下僕のオオカミ」
「下僕って言うなや」
「「オオカミ!?」」
「…」
7人が叫び、一斉に赤ずきんの後ろに隠れた。
「お…俺達を食いに来たのか!?」
「い、いや!白雪姫だろ!白雪姫を食べに来たんだ!」
「こいつ!白雪姫には指一本触れさせないぞ!」
小さな指が此方を向いて、震える声が飛んで来る。
「食わねーよ…」
呆れて溜息が出る。まぁ食いたいのは山々なんだけど。
「お帰りなさい、小人さん!」
白雪姫が小人達へ駆け寄る。
「白雪姫!あいつに近付いちゃ駄目だよ!」
「食われちゃうよ!」
「僕らが白雪姫を守るからね!」
「赤ずきんめ、いつも何かしら持ち込みやがって!」
「オイ誰だ今ついでに私のことディスったの」
「(前に何を持ち込まれたんだろうか…)」
そんなことを、白雪姫に抱き着く小人達を見ながら考える。
「ほら、ご飯にしましょう?みんな、早くお仕事道具は置いて来て!」
笑顔の白雪姫に小人達が浄化されているのがわかる。
あの子の側にいたら赤ずきんは浄化されて消えるんじゃないか。
「…痛っ」
太腿の辺りを蹴られたのでまた心を読まれたんだろう。
「何だよ。いちいち蹴るな」
「どうせロクでもないこと考えてんだろーと思って…あいつの前じゃ銃撃てないし」
と言う赤ずきんの目線は白雪姫を向いていた。
へー、こいつが他人に気遣いか。珍しい。
確かに目の前で銃ぶっ放されたら、あのぽやぽや幼女もビビるだろう。
「…」
ふと、小人達の手荷物が気になった。斧とか、ツルハシとかシャベルとか。
「…なぁ、あいつらの仕事って何なん?」
「小人か?炭鉱だぜ」
「木こりとかではなく…?」
「まぁ白雪姫に会うまでは知る人ぞ知る殺し屋一家だったらしいけどな。昔の話だろ。」
「出典がバラバラァ!!」
「何を騒いでんだ!さっさと来い!」
小人の甲高い怒号が飛んで来た。
「おー、飯だ飯だ」
赤ずきんはスタスタと小人の家に歩いて行く。
「ったく…俺が入ったらまた騒がれるんじゃねーかなぁ…」
下を向いて溜息をつく。騒がれるのは無理もないんだけど、とりあえずうるさいのは嫌いだ。
「…うわっ」
突如視界に入って来た白雪姫に、軽く仰け反る。白雪姫はニコニコと俺を見ていた。
「ねぇねぇ、貴方のお名前は?私はね、白雪!」
ニコニコしたまま言う。
「だからさっきオオカミって…」
「だから、お名前は?」
「…!」
…考えてないようで、案外色々考えているのかもしれない。
「…」
「?」
俺の言葉を待つ白雪姫を見て再び溜息を吐いた。
「…ハティ」
「ハティ君って言うのね!よろしくね!」
白雪姫は俺の手を取って「お昼ご飯食べよ?」と言った。
「あー…うん」
滅多に呼ばれない名前を名乗るのは、何だか妙にこそばゆかった。
副題:『幼女の笑顔の破壊力は赤ずきんママを超えました。』
出典がバラバラァ!!
→通常の絵本では小人は木こり(確か)で、ネズミの国では鉱山でダイヤ掘ってて、グリム童話原作(初期)では殺し屋。