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番外編3:ハロウィンと仕事屋さん〜後編〜

「白雪!見てみろよ、このマシュマロ可愛い!」

「お化けの形してるー!可愛いー!」


ハロウィンの夜は長い。


「こんなに明るくちゃ、時間の感覚も無くなるけどな…」


人々の騒ぎは落ち着くどころかますます激しくなる一方だ。

誰かの声で、仮装コンテストまであと1時間を切った事を知った。







「おーい2人とも…コンテストまであと1時間切ったってさ」


前を楽しそうに歩く2人に声をかけると、血塗れの顔が振り向いた。


「マジかよ。もうそんな時間?」

「コンテストが終わるとこの辺りの出店も閉まっちゃうんでしょう?早いよー!」

「まだ遊び足りない!」

「遊び足りなーい!」

「いや、俺に言われても…」


遊び足りない、とは言えそろそろ結構な時間の筈だ。

周りから小さい子供がいなくなっている。流石に帰ったんだろう。

今は赤ずきんよりもう少し上の年齢の子供か、大人達が酒を飲んで騒いでいる感じになってきている。

うーん、お菓子は子供の為の物じゃなかったのかな。酒のアテだったかな。


「まぁお腹は大分満たされたけど…」

「そしたらコンテストの会場の方行ってみようよ。きっと良い席が取られちゃうわ!」

「そうだな、そうするか」


白雪姫の言葉に赤ずきんは頷いた。


「じゃ席で食べる物を何か調達して…」

「お前たった今『腹は満たされた』って言ってなかった?」

「うるせぇ細かい事言うんじゃねぇよオオカミが」

「私まだ食べられるよー!あっちのクレープ買いに行こ!」

「よく食べるね白雪ちゃん!赤ずきんの倍くらい食べてるよね!?」


知らなかった。白雪姫が大食らいとは。

赤ずきんと俺と合流するまでにそもそも食べ歩いてたらしいし…

あれ、そういや白雪姫1人?小人は連れて来てないのかな…




『おやおやそこのお兄さん、両手に花とは羨ましい』




その時、何処からともなく声がした。


「は?」


反射的に振り返るけど…誰もいない。

何だろう、声の方向がよくわかんなかった。


「何だ今の?」


赤ずきんと白雪姫も辺りを見る。


「ナンパってやつだ!モテるねハティ君!」

「ナンパだとしたら対象は2人だよ!?俺じゃないよ!?」

『そこ行く可愛いお嬢さん方、出店のオススメはあっしにお任せ!』


…何だろう。聞いたことある声だな。

声っていうか、喋り方に物凄く覚えがあるような。


『コンテスト鑑賞に相応しい素敵なお菓子を…』


ようやく俺達3人は、声の方向を定めることができた。




『この『仲介屋』がバッチリ御教え致しやしょう!』




「行け!オオカミ、食い散らかせ!」




『キャァァァ!旦那、顔だけ中途半端に化けるのやめてくださいってばー!』




誰かと思えば…

このモッサモサの毛並みは誰かと思えば…!


「「お前か!」」


珍しく赤ずきんとハモってしまった。


『はいぃ!あっしでさァ!』


そんで…猫!このウザい猫!

俺は猫の首根っこを掴んで引き寄せた。


「こんなトコで何してんだ!」

『やだなぁ旦那、今日はハロウィンですよォ?お祭りはあっしの大好物で!』

「今すぐ消えろ仲介屋ァ!」

『やーん酷いですよォ赤ずきんさん!』

「わー仲介屋さん、トリックオアトリックー」

『うえぇ!?白雪嬢が1番酷い!?せめて選ばせてくださいよー!』


どうやら白雪姫の反応には度肝を抜かれたらしい。

何か、リアクションが1番素だった。

トリックオアトリックってどっちも悪戯だからね。酷いね。


「つーかお前…それ何の仮装?」


赤ずきんが胡散臭そうな目を向けながら、猫に聞いた。

猫はまぁまぁ窮屈そうな、フリルが沢山付いた……ドレス?ドレスだよね?ドレスを着ていた。

ただでさえモサモサなのに、フリルのせいで更に体積が増えて見える。

ご丁寧に、頭に小さな王冠まで乗ってる。

何これ、『お姫様ー!』みたいな感じ?


『よくぞ聞いてくれました!さぁさぁ御注目は足元でさァ!』


猫は嬉しそうに後脚を見せた。


「なぁにこれ?透明な靴下?」

「靴下?」


白雪姫が言った通り、猫の足先が透明な何かで覆われている。


「何だこれ、靴下っつーかよく見るとヒール付いてるし…」


その瞬間……ほんの少しの間の後、俺達は恐らく同時に閃いた。


「…いやシンデレラかよ!」

『御名答でさァー!どうですかィこのクオリティ!』

「靴のクオリティだけ褒めてやるよ!」


何をどうやったら猫の足に合わせてガラスの靴作れるんだよ!


『んっふふふ、凄いでしょー!シンデレラの姐さんにも御協力いただいて…』

「シンデレラも手伝ってんの!?あの人こういうの乗っかるタイプなの!?」

「灰かぶり?もしかしてアイツも此処に来てんのか?」


猫の靴に気を取られていた赤ずきんが顔を上げた。


『何と何と!姐さんはコンテストにエントリー済みなんでさァー!』

「マジかよどうしたんだよアイツ…」

「えーシンデレラちゃん来てるの!?会いたーい!」


ハロウィンとシンデレラ。

ちょっと俺の想像力が追い付かない。俺の中のあの人は、こういうイベントに乗らない。


『…ところで今気付いたんですけど、御2人共何ですかィ?その地味な仮装』


ふと、猫が前脚で赤ずきんと白雪姫を交互に差す。


「え、そう?」

「頑張ったのにー」

『リアリティと派手さは必ずしも比例しませんよォ』

「確かに…」


2人共、リアリティは何か知らんけど無駄にある。

あと怖さもある。

ただ…確かに周りと比べたら目立たないな。周りが凄いってのもあるんだけど。


『何の仮装ですかィ?』

「『オオカミに丸飲みにされずに噛まれながら食われた赤ずきん』の仮装。」

「『毒で穴という穴から血を吹き出してのたうち回って死んだ白雪姫』の仮装!」

『何の仮装してんですかィ!?』


猫が限りなく当然の反応をした。

当然だ。何回聞いてもおかしい。


『何ちゅー不吉な!っていうか御自分の仮装って事でしょ!?もっと他に何かあったでしょうに!』

「え、私これ1発目に思い付いた」

「私もー!これ1択!」

『だとしたら御2人共どこかおかしいですよ!何か悩みでもあるんですかィ!?』


おかしいな。この猫を常識的だと思う日が来るとは。


『そういや旦那も!』

「え、俺?何?」

『さっき思いっ切し吼えたの旦那でしょ!?』

「あー…俺だわ」

「「あー」」

「お前らがやらせたんだよ!『こいつ本気モードになっちゃって恥ずかしいっすわー』みたいな反応しないでくれる!?」


2対1はずるい。俺が圧倒的に不利になる…!


『苦労してますねェ、旦那も…』

「大きなお世話だ…」

『旦那、肩乗っけてくださいよォ。いい加減首根っこ掴むのやめてくださぁい』


猫が足をバタバタさせた。


「うーん…どうする赤ずきん?」

「私が悪戯し終わったら良いぞ」

「私もやるー!」

『ちょ!?お菓子あげます!あげますからぁー!悪戯は御勘弁をー!』


この2人って、どんな悪戯するんだろう。

エグい悪戯する所しか想像できないわ。






「ねぇねぇ、シンデレラちゃんって何の仮装してるの?」

『あら、先に聞いちゃいますかィ?』


コンテスト開始まであと少し。

会場のベンチに座りながら白雪姫が猫に聞いた。


「聞いちゃう!仲介屋さん知ってるんでしょ?」

『ふっふっふ…知ってるも何も、あっしがプロデュースしたんでさァ!』

「うわぁ」

『赤ずきんさん、それどういう感情の『うわぁ』ですかィ!?』


赤ずきんの目が冷たいので、そういう感情だと思う。


『ヒントはあっしの格好です!』

「えー、問題形式ー?」

「ヒントがお前の格好って何…?シンデレラもまさか自分の仮装してんの?」

『自分の仮装が成り立つ可能性があるの、この御2人だけですよ旦那』


うーん…この2人が成り立ってるかどうかは怪しいと思うけど…


「…あ、わかった!服の交換したんでしょ!」


白雪姫の顔がパァッと明るくなった(血塗れだけど)。

…ん?服の交換?


『正解でさァ!白雪嬢やりますなー!』

「…灰かぶりが猫の格好してるってことか?」

『その通り!可愛いですよぉー猫耳に猫尻尾…赤ずきんさん、それどういう感情の顔でさァ!?』

「あれは全ての『ただ可愛いだけの仮装』が憎いって顔だな」


いつの間にかコンテストは始まっていた。

舞台の上には綺麗で派手な衣装!とか、可愛い衣装!とか、そういう仮装の人間が多く行き来している。

中にはガチで怖がらせるタイプのもあるんだけど…


「あーあー、赤ずきんの顔が特殊メイクも相まって怖い…」

『そんなにハロウィンが憎いですかィ!?何で参加したんです!?』

「でもでも、血が付いてるだけの着ぐるみとか意味わかんないわよねぇ」

「いや血が付いてる着ぐるみだったら、俺まぁまぁ怖いわ」

「私はな、媚を売ってる感じの仮装が最も嫌いなんだよ…!」


黄色い歓声がやたらと飛ぶ、無駄にイケメンの吸血鬼を見ながら赤ずきんが言った。


「あれとかただのイケメンだろうが!」

『あ、赤ずきんさんイケメンに何か怨みが…?』

「無ぇけど!」

『あちゃー…そしたらシンデレラの姐さんの仮装は赤ずきんさんにはお気に召さないかも…』


猫は額に手……間違えた、前脚を当てた。


「シンデレラって媚売るタイプか?」

『いや…今回はあっしがそっちの方向に持って行った感じなんですけど…あ、来ました!姐さんです!』


猫が舞台に顔を向けた。

イケメンの吸血鬼が舞台からいなくなり、入れ替わりに…確かに、シンデレラが歩いて来たんだけど…




「皆様…お菓子を恵んでくださる?それとも悪戯して差し上げましょうか…?」




「ああああそっちかぁ!そっちの方向に持って行ったのか!」


会場から野太い歓声が上がった。

『悪戯してー!』『俺もー!』という声が聞こえる。うるさいわ!


「猫耳と尻尾は付けてるな、確かに!」

『可愛らしいでしょ?』

「色気の方向にガン振りしたのな!」


シンデレラは露出度の高い衣装に、派手だが濃過ぎない化粧、猫耳、尻尾っていう…色気で勝負!みたいな格好をして登場した。


「シンデレラちゃん綺麗ー!素敵ー!」

「良いの!?シンデレラって既婚者だよね!?」

『あ、旦那様にはお見せしたそうでさァ。鼻血出して倒れたって。』

「お披露目済みかよ!」


色々言いたい事あるけど、とりあえず問題なのはシンデレラがノリノリだという事だ…!


「赤ずきん、あれは有りなの!?」


さっきから凄まじい表情をしている赤ずきんを見た。


「あれは…」


俺を見た赤ずきんの顔は、すっかり冷静になっていた。




「あれは最早…サキュバスか何かの仮装じゃねぇかなって思えるから有り。」




「確かにそうだけどさぁ!猫の要素オマケじゃん!」




こうして、コンテストの終了と共に長いハロウィンの夜も終わり…

猫の仮装…改め、サキュバスの仮装のシンデレラは華麗にコンテストの優勝を飾った。


「しかし、ハロウィンに仕事屋が4人も集まるとはな…」

『珍しいって?』


帰りの道で、赤ずきんが笑いながら言った。


「いや…それこそ悪霊も寄り付かないよなぁ?おっかなくて」

『…そう、だなぁ…』


運び屋、情報屋、仲介屋、掃除屋が一同に会する奇妙なハロウィンは、とりあえず平和に幕を閉じた。



副題:『ごめんな復讐屋。』



出せなかった。

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