5:情報屋
『情報屋ってさぁ…マフィアみたいなのしか思い付かないんだけど』
「勝手に妄想してろ」
『それか…何か路地裏とかの胡散臭い場所に住んでる凄い胡散臭い奴』
「…お前そういう先入観、何処で身に付けてんの?」
訝しげに見て来る赤ずきんを心の中で睨み返す。
主にお前の『依頼人』からだけど!怪しい物運んでるお前のせいなんだけど!
『何が言いたいかってーと、少なくともこんな森の中に住んでるイメージは無いわけよ』
赤ずきんを背中に乗せて森の中を駆け抜ける。
森って言っても険しい森じゃない。開けた所には花畑ができてるし、小さな泉とかがあるタイプ。
のどかな風景をオオカミが女の子乗せて走ってんのって結構異常な光景だと思う。
「まずはその訳わからんイメージを捨てろ。かすりもしねーよ」
『マジか。ってか俺、そもそも仕事屋同士って繋がり無いのかと思ってた』
赤ずきんの『運び屋』、これから会いに行く『情報屋』、他は…『掃除屋』とか。
『勝手に名乗ることの許されない職業』は幾つかある。
そのどれもがほぼ間違いなく単一の人物を差す。
「『情報屋』も…私はそいつしか聞いた事ねぇな」
『ふーん…』
「横の繋がりは結構あるぜ?ま、ギブ&テイクってことで」
『利用し、利用され…ってことか?』
「今から会う奴はそんな言葉ともかけ離れた奴だがな」
『???』
ますますイメージが湧かなくなっていく。
「まぁ…ある意味俗世からかけ離れた奴ではあるけど…」
『???』
「会えばわかるさ」
『…つーかあとどれくらい?そろそろ疲れたんだけど…』
「あとちょっと。さっさと走れクソオオカミ!」
休憩は許されなかった。
『わかったから尻叩くの止めろ!!』
鞭は今度から取り上げよう、そうしよう。
多分、今の俺は顔面蒼白なんだろう。
「だから疲れてる時に人間体に変化させるなって何度も…」
「オオカミ連れてったら流石にビビられるかもしんねーからな」
止まれ→降ろせ→化けろ、の命令のテンポの良さったら。息を整える暇さえくれやしない。
「んで…何このお花畑ェ…」
俺達は『情報屋』という言葉から連想されるイメージと、おおよそかけ離れた場所に辿り着いた。
色とりどりの花が一面に咲く、のどかな場所。
「多分昼間はこの辺にいると思うんだけどなー…」
赤ずきんは辺りを見回しながら、歩を進めた。
「…?」
花畑の中に情報屋が住んでいる??…イメージ湧かない。
「おーい、いるかー?私だー、赤ずきんー」
適当に声を上げながら歩き続ける赤ずきん。
「おーい」
「…ん?」
のどかな花畑に似合う、呑気な鼻歌が聞こえてきた。
「何だこの鼻歌…?」
「鼻歌?どっち?」
「あっち」
俺が指差した方向を見て、進行方向を変えた。
「おーい」
「(…え、待って、これ情報屋!?花畑で鼻歌歌ってる情報屋ってどんな!?)」
「赤ずきんだー。赤ずきん様が来てやったぞー」
「尊大過ぎるだろ…」
「いるかー?『白雪姫』ー??」
ん?
『白雪姫』??
「しーらーゆーきーひーめぇー」
「~♪」
「あ、いた」
花畑の中心、赤ずきんの探していた人物はそこで冠を作っていた。
「…?あら?」
その人物は気配に気付いたのか、顔をあげた。
「よう」
赤ずきんが軽く手を振ると、ぱっと表情を明るくした。
「あらあらあら~?」
ふわふわと笑ってこっちに駆け寄る少女。
「…??」
「赤ずきんちゃんだ~。久しぶり~」
「久しぶりだな、白雪。うおっ」
「えへへ~、赤ずきんちゃんだ~」
赤ずきんに抱き着く、赤ずきんよりも小さな背の少女。
「…??」
えーと…髪は窓枠みたいに黒くて、肌は雪のように白くて、唇が血のように赤い??だっけ??
いや、うーん…目の前の子はそれに該当するけど…え??
「…白雪姫?」
「あら?だぁれ、この男の人?」
俺を見てきょとんとする少女。
「私の下僕」
「げぼくさん!初めまして!」
「下僕じゃねーから。え、白雪姫??」
「白雪姫」
しれっと返して来る赤ずきん。え、ちょっと待って。
「…『情報屋』?」
「『情報屋』。」
「?なぁに?何のお話??」
副題:『原作での白雪姫は7歳だけどネズミの国の白雪姫は14歳。』
ここでの白雪姫は12歳前後。