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49:赤ずきんとマッチ売りの少女

「さっすが赤ずきん嬢!私の予想を軽く超える働きぶりっ!」

「あざーす」


マッチ売りとの約束の時間。

要求した以上の仕入れ量にマッチ売りはご満悦だ。

普通こういうの多過ぎても微妙だと思うんだけど…


「でもこんなに捌けるか?」

「このマッチ売りにお任せあれ!」

「流石」


「お任せあれ!」なんて豪語する彼女にとっては、それは取るに足らない事なのかな。




…いや、ごめん。俺にとってもそれは今、取るに足らない事なんだわ。


それよりも、マッチ売りの足元に簀巻きにされて転がってる男が気になって気になって…

あれ、いつ突っ込んで良いかな?






「私はともかく、そっちの首尾はどうなの?」

「上々よ!」

「仕事が早いな」

「んふふー、早速取引と行こうじゃないの!」


マッチ売りは大袈裟に言うと、大袈裟に鞄を漁った。

何か、舞台でも見てるみたいだわ。


「てれれれってれー!」

「何と言う事でしょう!」

「待って。収拾付かなくなる未来が見えたから待って」


このコンビは延々とボケ倒すからいけない!

俺の負担が凄い!


「全くもー、イケメンはノリが悪いんだからー」

「お前何でこいつのことイケメンって呼ぶの…?」

「イケメンじゃん!」


赤ずきんがとてもとても不思議そうな顔でこっちを見る。見んなよ。


「…そう?」

「あんたの目は節穴なの!?こんなにイケメンなのに!」

「そりゃどーも…」


マッチ売りに褒められても何だか嬉しくないのは何でかな…そもそも褒められてないのかな…


「さぁて、と……お待たせ!はい、これ!」


そんな俺の内心なんぞ知らないマッチ売りは、鞄から探り当てた小さな箱を赤ずきんと俺の前で開いてみせた。

そこには透明な宝石があしらわれた指輪が収められていた。


「赤ずきん嬢がお探しの指輪でございまーす!」

「…ほう」


宝石の大きさは…えーと、俺カラットとかわかんないわ…

赤ずきんの小指の爪。の、半分くらい?


「どう!?」

「…いや、どうって聞かれても…」


ニコニコのマッチ売りに対し、赤ずきんはやや戸惑ったように言った。

多分、赤ずきんの俺の感想は一致している。


「…思ったより地味だなぁって」


えぇと…確か依頼人の話じゃ『5000万は下らない』『非常に珍しい宝石』を使った指輪、とか言ってたような。

だから勝手に、見てわかるほど高そうで豪華な指輪を想像してた。

これは良くも悪くもシンプルで…普段使いできそうって言うか…特に特徴も無いって言うか…


「そう言うと思いましたよ!」


マッチ売りの声色が変わる。

もうちょっと正確に言うと、路上販売の時と同じ声色になった。

ついでに言うなら目付きも変わった。今、確実に光った。


「今回御用意したこちらの指輪!見た目は非常に上品かつシンプル、普段使いできるしフォーマルにもお勧め!どんな服装でも合わせやすい!」

「それ全部聞かないとダメ?」

「しかーし!どこにでもありそうな指輪だと思ったそこの紳士淑女!判断が速い!私の足よりも速い!」

「あぁダメだスイッチ入ったわ…」


赤ずきんの呆れたような、諦めたような声に、鈍い頭痛がして思わずこめかみを押さえた。

赤ずきんを無視するとか…ホントに何なの、この子は…


「さぁさぁ!この指輪を太陽に掲げ……刮目せよっ!」

「太陽に掲げてんのに刮目したら目ぇ潰れるぞ」

「いつの間にサングラスを…」

「いやサングラスあっても太陽直視はダメだろ」


マッチ売りは俺達の言葉も聞かず指輪を高々と掲げて太陽に向けた。

サングラスは何処から取り出したのか謎だ。

かける瞬間に小指立ってたの見逃してねーからな!


「さぁさぁ、太陽の光をさんさんと浴びたこの指輪!」

「何だよ」

「問題です!さっきまで宝石の色は何色だったでしょーかっ!?」

「「透明」」

「2人共正解っ!」


勢いよくサングラスを取ったマッチ売りは、赤ずきんと俺の目の前に指輪を突き出した。




「第2問!『今』、宝石の色は何色でしょーーかっ!」




…あれ?


「…黄色、に、なった…?」

「黄色ってか金色ってか…」

「2人共正解っ!」


透明だったはずの宝石は、黄色に変化していた。


「さぁさ、驚くのはまだまだ速い!此方に御用意した焚き火に!」

「いつ用意したお前?」

「此方のトングで挟んでかざしてみようじゃありませんか!」


マッチ売りはトングで器用に指輪を挟むと、(本当、いつ用意したのかわからない。合流した時には無かった)焚き火にかざした。

かざしたっつーか、炙ってるっつーか…


「さぁさぁ第3問です!」


(すす)を振り払うように大袈裟にターンしてから…マッチ売りは俺たちの眼前に指輪を掲げてみせた。


「…」

「…」


俺は…少なくとも俺は、呆気に取られて言葉が出なかった。


「『今』、宝石の色は何色でしょうかっ!」


赤ずきんも多分、呆気に取られていたんだと思う。


「…赤」

「赤ずきん嬢正解ー!イケメン残念、時間切れっ!」


まるで火みたいに、宝石は真っ赤になっていた。


「このように周囲の色に合わせて自身の色を変える宝石なのです!」

「周囲の色?」

「その通り!もしかしたら光を当てると…と思ったそこの貴方!早とちり!!」

「いや別に思ってないけど…」


マッチ売りの人差し指がビッシィィィ!と音を立てそうな勢いで俺に向いた。


「夜は吸い込まれそうな漆黒に、夕暮れは幻想的な橙と紫のグラデーション!」

「へぇ」

「どういう仕組みなんだろ?」

「『超』を5個付けても大袈裟じゃない非常に貴重な宝石、その名も『色孕みの石』!」


『色』を『孕む』石、かぁ。

人間って変な言い回しを思い付くよね。


「さぁさぁ気になるお値段は!」

「凄ぇ値段付きそうなんだけど…」

「俺もそう思う」

「このアホがその辺の宝石店とかに売らずにもっとちゃーんとした目利きが居る場所に売ってたら付いている筈だったそのお値段は!!」

「あぁーやっぱそういう奴なんだ!ようやく触れてくれた!」


マッチ売りが足元の簀巻きの男をゲシゲシと踏みつけている。

男は芋虫みたいに身体をくねらせて抵抗してるけど、がっちり縛られてるから無意味だ。

良かったー!このまま話題に出なかったらどうしようかと思ってた!


「お値段はCMの後で!チャンネルはそのまま!」

「今言えや」

「ノリ悪いわよ赤ずきん嬢!」

「私も暇じゃないんでな。つーか、お前も忙しいだろ」

「まぁねー!私も赤ずきん嬢も忙しくしてるタイプの『仕事屋』だからね!」

「忙しくしてないタイプの仕事屋なんて居んの?」

「白雪。」

「あぁ…」

「お値段なんと3億!」

「「…………は?」」


珍しく赤ずきんとハモった。

いや、それより。俺、今、聞き間違えた?

あれだけ溜めて、凄いあっさり言わなかった??


「…何て?」


赤ずきんが確認するように聞くと、マッチ売りはとびっきりのウインクをかましながら言った。




「3億ッ☆」




「さんっ……!」


流石に赤ずきんの頬が引きつった。

3…3!?


「3億!?」


思わず叫ぶとマッチ売りが「その通り!」と言った。


「むごっ!?ふぐ、ぐっ!!」


簀巻きでついでに口も塞がれた男が呻いて、より一層暴れ出した。

そんな男を強めに踏みつけながらマッチ売りは続ける。


「もう少し大きかったらもっとお値段付いたんですがね!」

「待て待て!この指輪の持ち主、5000万っつってたぞ!?」

「うーん、素人にしては悪くない読み!確かに台座も相当なお値段するんでね!」

「……さっきの値段、台座込み?」

「抜き!!まぁ台座は800ってトコかしらねー」


指輪を磨くマッチ売りの手は速過ぎて残像が見える…


「悪くない読み、かなぁ…?」

「ちなみに『そいつ』はそれ幾らで売ったわけ?」

「100万だって!」

「台座の値段にすら届いてない!」

「ホント、勿体無いわよねー」


マッチ売りは磨き終えた指輪を箱の中に収めた。

勿体無いどころの話じゃ無い気がする。

…そこに転がってる男が騙されたのか、それとも本当に売った所がいまいちだったのか。どっちなんだろう。


「ま…民家から盗ったモンにしては十分だったんだろうけど…」


赤ずきんは転がっている男に目をやる。


「残念だったなァ?」

「むぐぅ…!」

「で…『指輪を受け取るための対価』は?」


赤ずきんはマッチ売りに顔を戻して言った。

…いや、あれ?


「あの大量の毒草は…?」

「ありゃ『指輪を取り返してもらうための対価』だ。私がその指輪を受け取る分は入ってない」

「マジかよ」


マッチ売りは「その通り!」と言いたげにニヤニヤしている。


「流石は赤ずきん嬢、話がわかるぅ~」

「良いから早く言えっての」

「んふふ~、当初の予定ではすっごい色々要求するつもりだったんだけど…」


マッチ売りは踊るようにくるくる回りながら、さっき渡した『毒草(荷物)』に近付いた。


「いーっぱい仕入れてくれたから、オマケしちゃう!」

「そりゃどーも」


多分、油断してたんだと思う。

……俺ではなくて。




「『コレ』の処分だけお願いするわ!」




声色と表情からは思わず意味を取り違えそうになる。

けどマッチ売りの示した『コレ』は明らかに『足元の男』を示していた。


「う……?」


男の目は『理解できない』とでも言いたげだった。


「おぉ、それはどっちにしろ私が請け負うつもりだったわ。仕事の邪魔されたのは私なんだし」

「あ、そう?」

「他に何かあれば聞くぞ?」

「えー、そんな事言われてもー。処分くらいしか思いつかなーい」

「う…うぅぅ!?ふぐ、ぐお、」

「血生臭いのは苦手なんだもんっ!」

「ダウト。」

「えぇー!?酷くない赤ずきん嬢!?」


男の呻き声なんて2人の耳には届いていない。

必死で暴れるコイツの姿も視界に入っていない。

内容さえ理解しなければ、ただ2人の女の子が仲良く喋ってるようにしか見えない。


「ま、良いわ。赤ずきん嬢がそう言うなら次に会う時までに何か考えとくから!」

「次会うの何時だろうな?」

「でも私、仕事屋に会うとしたら赤ずきん嬢か猫氏だわ!」

「あぁー…お前がアイツと組むと面倒臭そうだわ…」

「酷くない!?」

「うぐ、ご、おお!」


ふと……男と俺の目が合った。


「ふご、お、むぐぅ!」


懇願するような目で、俺に何かを訴えて来る。

まぁ、そうだろうな。

2人はお前の話なんざ1秒たりとも聞かないだろう。

俺に『どうにかしてくれ』と頼むのは確かに、悪手ではない。

…悪手ではない、けど。


「ま、お前がそれで良いならそうするさ。じゃ、行くぞオオカミ」

「…こいつは?」


赤ずきんは肩をすくめた。




「お前の朝飯にでもする?」




それを聞いた途端、男の目が絶望で満たされた。


「う…うぐ…」

「…残念だったな」


足元の男にしか見えないように俯いて、




「腹が減ってるんだ」




笑った俺の口は多分、獣に近かったと思う。


残念だったな?

お前の最期のあがきは『悪手』ではないけど。

『大間違い』なんだ。


「商談成立!どうぞお納めくだされ!」

「へいへい」


赤ずきんはマッチ売りから小さな箱を受け取ると、懐にしまい込んだ。


「それじゃ私も次の商談に行かなきゃ!またねー!」

「忙しい奴だな。じゃーな。達者で」

「赤ずきん嬢も!イケメンもー!」


マッチ売りはこの間会った時と同じように、凄い勢いで走り去って行った。

…焚き火、何時の間に片付けたんだろ。


「じゃ、そいつ片付けたら…あれ、何で気絶してんの?」

「いやお前らの会話が怖過ぎたからでしょうよ…最悪ショック死してるよ…」

「うわ、マジかよ…ま、良いや。生きてたら喰ってる途中で起きるだろ」

「痛みでショック死しそうな気も…この辺、目立たない場所ある?」


今の時間帯だとこの辺りは誰もいない。

でも街中なのは変わらないからなぁ…


「裏路地入れば多分大丈夫」

「それはそれで人目に付かない?」

「見ても見ないフリする奴ばっかだから大丈夫

「…あ、そう。じゃ、ちょっと喰って来るわ」

「おー。私も腹減ったからどっかで朝飯にするわ」

「また後で」

「ん」


赤ずきんは人の多い方向へ、俺は人の少ない方向へ、歩き出した。



…あ、『コレ』引きずらないほうが良いかな?


まぁ、良いか。



副題:『この2人は実は似ている。』



性格というよりは、思考回路が。あと本質が。

テンションが違い過ぎてわかり辛いけれども。


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