4:赤ずきんと猟師さん
3代揃って銃をぶっ放すこの女共。
『運び屋』じゃなくて『殺し屋』の間違いじゃねーの?
「あの婆さん幾つだっけ…?」
「80…ちょいちょい?」
80超えかよ。長生きなこった!
空になった台車は畳んで持って(じゃないと赤ずきんが確実に乗る。)赤ずきんの家への帰路。
この辺は本当に人が少ない。それこそ、赤ずきん一族以外はほとんど住み着いてない。
「…!」
歩いてる途中、無意識に耳がピクリと動いた。遠くから聞こえた銃声。多分、猟銃。
この辺は人は住み着いてないけど、出入りは多い。
野生動物が多いから、猟師が狩りに来るんだよね。
「…」
猟銃は嫌いだ。音も、火薬の匂いも嫌いだ。
「そういやこの辺で熊出たらしいぜ。だから村の猟師が狩猟に…」
「待ってそれさっきの噂よりよっぽど関係ある。待って。」
しれっと聞こえてきた話題は聞き逃せない内容だった。
「熊だろ?」
「熊の大きさ知ってんのお前!?マジでお前の2倍くらいあるからな?会ったら死ぬから!」
赤ずきんはきょとんとして首を傾げる。馬鹿なの!?人間よりよっぽど熊のが怖いから!!
「…お前と熊、どっちが強いの?」
「熊じゃねーかな多分!戦う前に逃げるけどな!」
「だらしねーな。戦えよ、男だろ」
「体格差ァ!」
―タァンッ!
「!!」
さっきよりも近くで銃声が聞こえて思わず耳を押さえる。
この全身が強張る感じがホントに嫌い。
あ、婆さんのマシンガンは別よ?あれの前で強張ったら確実に穴開くからな??
強張ってる場合じゃないから。緊急回避だから。
「近いな。この時期何が獲れるんだろ」
いつも思うけどこの女は淡々とし過ぎじゃないかね。年頃の娘がこんなんで良いのかね。知らんけど。
俺を奴隷の如く使う時は嬉々としてる気がするけどね??
「よーし、こんなもんかな…」
銃声が聞こえた方角から今度は男の声が聞こえる。そして足音が此方の方向へ近付いて来た。
…赤ずきんに今の声が聞こえたのかはわかんないけど、俺はこの声を知ってる。
「そうだ、ハーブも…あれ?」
「!!」
がさがさと音を立てて茂みから現れた、三十路後半くらいの男。
「…猟師さんっ!!」
…文字だけじゃ伝わらない、赤ずきんの変貌ぶり。
何時もより声が1トーン上がって周囲にハートが弾け飛んだって言ったら伝わる?
…あれだ、あの、所謂『恋する乙女』のような声をあげて、赤ずきんは猟師に駆け寄った。
「あれぇ、赤ずきんちゃん。久しぶりだね!」
「お久しぶりです!」
「仕事が忙しいのかな?無理してない?」
「全然!大丈夫です!元気です!」
「ははは、やっぱりお母さんに似てきたね。笑顔がそっくり」
「そんなっ!ありがとうございます!」
さて、この猟師は誰かって言うと、赤ずきんと婆さん助けた猟師。
オオカミの大きなお腹を見て「これ誰か食われてね?」っていう超発想によりオオカミの腹切ったあの猟師。
普通「これ誰か食われてね?」ってならなくね?なる?俺はならないよ??
そんで、当時6歳?くらいの赤ずきんはこいつに惚れたらしい。
以来数年間ずっと惚れ込んでいる。会うといつもこんな感じに、恋する乙女状態。
女って怖いな。表情筋どうなってんだろ。こいつが笑顔とかどういうことなの。目がハートだよ。
「オオカミ君も元気?」
「え!?えー…まぁ…」
こいつはアレが俺の親父だったのを知ってるんだろうか。
…まぁ知ってても知らなくても、どうでも良いけど。
「猟師さんは調子どうですか?」
「はは、今日は大量でね!」
「流石ですっ!」
怖い。帰りたい。いや猟師じゃないよ?赤ずきんが、だよ?
「あ、そう言えば赤ずきんちゃん聞いた?街から村に来る荷馬車が襲われたって話」
「え?」
「怪我人も出て、荷物は全部奪われたってさ」
さっき婆さんから聞いた話だ。赤ずきんと目が合う。
「さっきお婆ちゃんから少しだけ…」
「流石、お婆さんは情報が速いね。赤ずきんちゃんも気を付けなね?」
「あの…犯人の目撃情報とかって、何か聞いてますか?」
『お婆ちゃん』呼びはもうシカトだ。
「それがねぇ、見えないんだって」
「見えない??」
赤ずきんは首を傾げた。この動作は通常時もやるからぶりっ子動作ではない。多分。
「うん。被害者に聞いても『見えなかった』の一点張りらしいよ」
「…じゃあ『見えない』間に暴行されて荷物を盗られて…?」
「怖いよねぇ。ま、『赤ずきん』を襲う輩は余程の馬鹿しかいないだろうけど…」
猟師が赤ずきんの頭に手を置いた。
「こんな可愛い女の子じゃ心配だよ、全く…物騒な世の中だね」
そのまま子供をあやすように頭を撫でる。
「…!!」
猟師、ストップ。赤ずきんが卒倒しそうだ。いや、報復が怖いからストップしないけど。
「だ…大丈夫、です!もし襲われたら、やっつけます!」
真っ赤な顔で叫ぶ赤ずきん。
猟師は「はは!頼りになるなぁー。」とか笑ってるけど、多分お前の想像と違う!!
「無理はしないでね?オオカミ君、赤ずきんちゃん守ってあげてねー」
「…」
とりあえず頷いておく。こいつ、悪い奴じゃないんだろうけど苦手なんだよね。
「おっと、そろそろ暗くなるから帰ったほうが良いか。気を付けてね」
「は、はいっ!猟師さん、また今度っ!」
笑顔で猟師の背中に手を振る赤ずきん。ハートが飛びまくっている。
「…」
「…」
猟師の背中が見えなくなったところでようやく赤ずきんの動きが止まった。
「…」
「…」
「…はぁーっ!今日も格好良かったなぁー猟師さん!渋い!イケメン!」
「…あ、そう…」
「あ、そう。って何だよ!お前、猟師さんの格好良さがわかんねーの!?」
「わかるか!」
「クソオオカミ!」
ひざ裏辺りを思い切り蹴られて、よろめいた。
「何だかねー、荷馬車が襲われる事件が多発してるんですって」
帰宅直後、開口1番に聞いた言葉がこれで、流石に俺も赤ずきんも面喰った。
「…お母さん、その話婆さんからも、さっき猟師さんからも聞いたんだけど」
「あら、聞いてた?やっぱりもうかなり噂立ってるのねぇ」
少し困ったように、赤ずきんの母親の首が傾げられた。
「現状、私はまだ襲われてねーぞ?」
「うーん、赤ずきんは多分大丈夫だと思うのよ。オオカミ君もいるし」
「じゃ何か問題なの?」
「『おつかいの品』が問題なのよ。私が仕入れたり、預かったりする品物ね」
「…」
俺はどういう経緯…ってか経路で『おつかいの品』がここに届いてるのかは知らないけど、
確かにその荷物の安全は保障できねーな。
「…面倒くせー…」
「仕事減るかもな」
不機嫌そうな赤ずきんの顔がこちらに向いた。
「…オオカミ、明日ちょっと付き合え」
「基本的に俺は毎日お前に付き合わされてんだけど…何?その犯人捕まえるとか?」
「最終目標はそうかもしれんが、違う。情報漁りに行く」
「は?…情報って言っても、犯人『見えない』んだろ?」
見えない物の情報なんて何処から出て来るのか。
「その情報が出て来そうな所に行くんだよ」
「何処?」
「『情報屋』の所」
「…情報屋…ん?情報屋?」
聞き慣れない言葉に聞き返すと、頷かれた。
「情報屋」
「…」
『情報屋』――『勝手に名乗ることの許されない職業』の1つ。
…え、そんなフランクに情報聞きに行ける仲なの??
副題:『赤ずきんはおじ専のようです。』
猟師さんは三十路後半の渋いおじ様。
話の長さがバラバラで申し訳ないです。
さて、『情報屋』は誰でしょう?