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3:赤ずきんのお婆さん

赤ずきんはお母さんに頼まれて、おつかいに行きます。

そもそも何のおつかいかって言うと、『お見舞い』だったハズだ。

…で、誰のお見舞いかって?






「…ねぇ、1個聞きたいんだけど」

「何?」

「お前の母ちゃんコレ何処で仕入れてんの?」

「わからん」


そこそこ舗装された森の道を、台車を押して歩く。

やや前には赤ずきんが歩いているけど、振り返って箱を叩いた。


「でもスゲーよな。こんなに大量にさぁ」


台車はかなりの重さになっている。うん、この重さなら赤ずきんじゃ1ミリも押せないわ。

…!?


「(待てよ…あの女、普通に押してたぞ!?)」


赤ずきんは小柄で華奢である。赤ずきんの母親も、小柄ってほどでもないが華奢ではある。

あの細腕で俺が何とか押せる台車を楽々押してただと…!?


「…」

「何だ、今日はヤケに静かだなクソオオカミ?」

「…そう?」


俺は――そう弱いほうじゃない。

赤ずきんくらいなら(いくら凶暴でも)ねじ伏せて喰い殺せるだろう。

でもそれをしないで雑用係(奴隷)に甘んじてるのは報復が怖いからである。

1つは笑顔が怖い赤ずきんの母親。もう1つは…




「おーい」


赤ずきんは小さな一軒家の戸を叩いて声をかける。応答は無い。


「…」


大丈夫、臨戦体勢になってる。


「婆さーん?いねぇのー?」


戸を開けて中へ踏み入れる。部屋は暗い。


「私だよ、赤ずきんー。おつかいだけど」

「…赤ずきんかい?」


暗闇から声が返ってきた。


「おやおや、重かったろう?悪いねぇ」


弱々しい、老婆の声。


「いや、荷物持ちいるから平気」

「…荷物持ち?」


途端に声色が変わる。大丈夫、いつでも避けられる。




「どのツラ下げて私の前に現れたんだい!?この腐れオオカミがぁ!!」




「ぎゃぁぁぁ!!」


怒号の直後、婆さんの持ってるマシンガンが火を吹いた。

予想してたけど速すぎて弾がかする。


「この!また私を食おうってのかい!?上等じゃないかい!返り討ちにしてやんよォ!!」

「うっせぇ!」


頭を下げ、耳を塞いで銃弾の雨をやり過ごす。

この婆さん!ホントに、何なの!?俺が来るたびマシンガンぶっ放すんだぞ!?

赤ずきんも「うおー、すっげー威力ー。」とか言ってないで止めろ!


「出て来な!蜂の巣にしてやる!」

「絶対ヤダ!!」


…この攻撃は、銃弾が無くなるまで続いた。






「そろそろ銃弾無くなるだろう?だから補充」

「あら良いタイミング。流石ねぇ」


多少落ち着いた婆さんはベッドに腰掛け、箱の中身を漁っていた。俺は部屋の隅で正座してる。

これが台車、というか荷物の正体。


「あと新しいエモノが手に入ったんでな。持って来た」


大量の銃と銃弾を目の前に、赤ずきんの婆さんは目を光らせた。


「良い銃だねぇ!赤ずきん、持っておいたら?」

「私マシンガンって苦手なんだよなぁ…」

「慣れれば良いもんだよ」


この婆さんありきの赤ずきんである。

赤ずきんは多分この婆さんの影響を受け過ぎてる。

口は悪い、過激、何かあるとすぐに銃をぶっ放す、あと何だろう、えーと、


「何考えてるクソオオカミ?」

「イイエ何モ。」


赤ずきんの銃が俺に向いたのでまた心を読まれたんだろう。俺ってそんなにわかりやすい?


「しかし…ハッ!あの人喰い狼が赤ずきんの小間使いか。とんだ笑い話だねぇ!」

「ぐ…」


婆さんは鼻で笑って言った。


「しかし足があるのは良いねぇ。私の頃は逐一馬車借りてたから」

「それこそ馬買えば良かったんじゃねーの?」

「…馭者(ぎょしゃ)さんがイケメンでねぇ!」

「あーそれは馬車使うー!毎回使うー!」


キャッキャと話に花を咲かせる赤ずきんと赤ずきんの婆さん。


この婆さんが『2代目運び屋(先代の赤ずきん)』。で、あの赤ずきんは3代目だ。

引退後、病気がちになってベッドから起きられない状態が続いてたけど、オオカミに食われたことでキレて昔の血が騒いで今ではすっかり元気。

ちょっと意味がわかりません。

病は気からって言うけど本当なんだな…?

ってか昔の血が騒いだからってオオカミの腹に石詰めて閉じるって何?どんな悪魔の所業?現役時代に一体何してたのこの婆さん?

あのね、俺は人間が1番残酷な生物だと思うよ?


「おいオオカミ」

「はい!」


婆さんの銃が俺に向いた。

反射的に身体が強張る。


「私の孫に手ぇ出したらタダじゃおかないからね!」

「言われなくても出さねーよ!あんたの前にあんたの娘も怖ぇんだよ!!」


婆さんと赤ずきんは銃を使う。赤ずきんの母親も勿論、使う。

っていうか仕入れてるから多分1番詳しい。赤ずきん一族で1番ヤバいの絶対赤ずきんの母親。


「あぁ、まぁそうだねぇ。赤ずきん、お母さん元気かい?」

「元気元気」


あれ…そういや、何で赤ずきんの母親は『赤ずきん』じゃないんだろうな?

世襲制なら普通、婆さんの次は赤ずきんの母親…


「オオカミ!聞いてんのかい!!」

「ぎゃっ!?」


鼻先を弾丸がかすめて行った。婆さんだ。


「な、何!?聞いてなかった!」

「正直なのは褒めてやるよ!1発で仕留めてやる!」


ベッドから立ち上がり、婆さんは照準を俺の頭に定めた。


「止めて!ごめんなさい!!何!?」

「だから、この近隣で貨物馬車が襲われるって事故が多いんだよ!赤ずきんに怪我させるんじゃないよ!」

「は??」


そんな話は聞いたことない。赤ずきんを見ると、首を横に振られる。赤ずきんも初耳らしい。


「婆さん、事故の詳細は?」

「そこまでは知らないねぇー。私も人づてに聞いたから」

「近隣ねぇ…家に直接来るってことは無さそうだがな」


婆さんの家や赤ずきんの家があるこの森は、最寄りの村までも結構距離がある。


「私が危険だとすると、街から村までの区間か」


最寄りの村は小さくて、もっとデカい街から必要な生活物資を仕入れてる。

その生活物資を運ぶのは役人か赤ずきんの役目。


「怖いわー」

「(ローブの下に大量の武器仕込んでんのに何言ってんだこいつ…)」

「レイラにも言っておいておくれよ。あの子、商品の仕入れもするからねぇ。これもそうだけど」


婆さんは銃が入った箱を指差す。…あ、レイラって赤ずきんの母親ね。


「おー、了解」

「じゃ、暗くなんないうちに帰りな。レディが夜に出歩くもんじゃないしね」


現在15時を少し過ぎたくらい。

流石にまだ日は落ちないけど、オオカミを追い出したい方便かな。俺だって早く帰りたい!!


「はいよ。婆さんもたまには出かけるこった」

「あんな噂聞いたんじゃ、出歩けないよ!」

「ま、確かに。じゃーな」


赤ずきんは婆さんに手を振って、俺は小さく会釈だけして、婆さんの家を後にした。






「あの婆さん一応まだ病気なのか?」

「一応な。長時間の外出はちょっとキツい。あの噂は医者から聞いたんじゃねーか?」


数日に一度、街から医者が来るらしい。確かに、その時に聞いたんだろう。


「で、どうすんの?あんな噂あるなら少しは仕事減るんじゃ…」

「はぁ?運び屋がそれぐらいで休業するかよ」

「…もし輸送中に襲われたら?」


答えはわかってるけど一応聞いてみる。

赤ずきんは今日の朝見た良い笑顔で、親指を地面に向けた。


「返り討ち」

「…」



赤ずきん一族に手を出す奴がいたら、馬鹿だ。



副題:『赤ずきんのお婆さんは銃マニアらしい。』


赤ずきんはこのお婆さんを見て育ちました。

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