表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/75

31:赤ずきんとお洒落な町

「あら…?赤ずきん、お手紙が来てるわよー」

「んー?誰から?」

「…これ、もしかして最近『仲介屋』に会った?」

「お!」


赤ずきんに差し出されたのは、1枚の葉書。

宛先以外に書かれているのは…何も無い。


「来た…!」


それでも赤ずきんはニヤ、と笑った。






「お前毎度「クソオオカミー!」って叫んで呼び付けるの止めない?近所迷惑よ??」

「近所に誰も住んでないから大丈夫だ」

「そういう問題じゃないんだよなー話が通じないんだよなー」


今日は仕事無いのかなー、と日光浴をしていた昼下がり。

「クソオオカミー!!」と叫ぶ声で中断されたよね。俺の平穏返して。

まぁとりあえず赤ずきんの家まで来たんだけど。


「で、何。仕事?」

「仕事だ」


そう言うと赤ずきんは俺に葉書を突き付けた。

受け取って何も考えずに文面を…見ようとして、止まった。

白い葉書の中央に、ポンと、肉球の形のスタンプが押されていたから。


「…何これ、悪戯?」

「に、見えるじゃん?」

「肉球しか押されてないけど…」

「そりゃ、あいつは人語を喋るけど書けないからな」


人語を喋るけど書けないので肉球のスタンプだけ押した葉書を寄越すような奴?


「…………猫か!」

「そう」


送り主はどうやらあの『仲介屋()』らしい。

宛先は侯爵に書いてもらったんだろうか。じゃ用件も書け!


「用件がわかんねーよ!何だよこれ?」

「この間言ってたろ。『御宅に御連絡します』って」


そう言われて、猫と別れた時のことを思い出す。

言って…た、な。確か。


「と言うわけでお母さーん、『買取屋』の国まで行ってくるー」

「…え?何?かい…何て?」

「買、取、屋。」


あまりにしれっと言われたから一瞬聞き逃した。

買取、屋…?


「『買取屋』に用事?あ、だから『仲介屋』に頼んでたのね。お会いするの初めてだもの」

「そうそう。案外すんなり仲介してくれたわ」

「まぁ、仕事屋同士の繋がりってあるに越したことはないものね」

「待って待って」


俺を完全にシカトしたまま会話が進む。

別に良いけど良いけどさぁ!気になっちゃうじゃん!


「買取屋って何!?仲介屋以上に何してるかわかんないんだけど!」

「名前の通り。色々買い取ってくれるんだよ」

「色々って?」

「色々。強いて言えば『珍しい物』なら十中八九買ってくれる。猫の仲介付きだしな」


それを買い取って一体どうするんだろうか。

いや、仕事屋の『仕事』にケチ付けるのは野暮なんだけど。


「…えっと…その買取屋に何の用事…?」

「アレを売り付ける」


アレ、と言って赤ずきんが指差したのは…

部屋の一角に積まれた、先日侯爵から預かった品々。


それと、赤ずきんがたまに貰う『御駄賃(ガラクタ)』だった。





赤ずきんはクライアントからたまに『御駄賃』と称して色々貰ったりする。

基本は断るんだけど強引に押し付けられたり家に送り付けられたりする。

で、それが現金なら良いけど『何かよくわかんないけど珍しいモノ』とかだと扱いに困る。


『…だからって『御駄賃』売るかねフツー…?』

「仕方ないだろ、持っててもどうしようもないんだし。欲しがる奴に売った方が有意義だ。」

『欲しがるかね…?』


正直ガラクタ…いや、赤ずきんや俺には理解が出来ない物ばかりだ。

飲むとどんな病気も治る(らしい)水とか、

どっかの方角に置いておくとめっちゃ運勢が良くなる水晶とか、

ぶっ壊れてる大時計とか。

…欲しがるかね!?


『つーか荷物重いヤバい』

「文句言うな荷物持ち」


赤ずきんの家を出発して5日。

5日もかかるんならちょっとくらい文句も出ちゃうよ。重いもん!

…と言うわけで赤ずきんと俺は『買取屋』がいると言う国の間近まで来ていた。


『少しくらいは許せって……おっ?』


遠くに検問所が見えた。


『赤ずきん、検問所あるけど俺どうする?このまま通るか?』


検問では俺が引っかかったりするので、大抵人間体に1回戻っている。


「あー…良いよ。多分通れるから」

『そう?なら良いけど』


俺達以外にも荷物を積んだ行商なんかが検問所に向かっている。


「交易が盛んな国だからな。いちいち検問で時間かけて検査はしねぇんだよ」

『いや盛んなら逆にちゃんとやんないといけなくない?大丈夫この国??』

「ごちゃごちゃ言ってねぇでさっさと行くぞ」


赤ずきんが呆れたように言うので仕方なく検問の前まで進む。


「次の……お!?」


検問所のおっさんが俺を見てびっくりする。

そりゃオオカミが荷車引いてるのは珍しいだろうよ。




「オイ『運び屋(赤ずきん)』だ。通るぞ。」




赤ずきんはきっぱりと宣言した。

いや、横暴にも程がある!


「あぁ!『運び屋(赤ずきん)』でしたか!どうぞ!」

「どーも。仕事で1日か2日滞在するから」

「承知しました。我が国へようこそ!」


おっさんも笑顔で通してくれた。

いやいやいや。


『納得できない!』

「うるせぇ早く進め。後ろがつっかえるだろうが」


小声で抗議したけど完全に無視された。

いや、無視は前提だったから良いけどさぁ。


『…』 

「おい、早く進めっての」


進み始めてすぐに俺の足は止まった。

赤ずきんの苛ついた声がしたけど、それどころじゃない。


『…何かすっげー…洒落た国だな…?』


固まったまま、俺はそう零した。

主に煉瓦で綺麗に舗装された道。

白を基調とした、恐らく伝統的な造りの住宅。

いちいち形が洒落ている街灯。


「王サマの方針だ」

『洒落てるし…人がめっちゃ多くない…?』

「さっき言ったろ?交易が盛んな国だって。だからマーケット街もデカいし、観光客も多い」

『…』

「何をそわそわしてんだよ」

『…場違いじゃね?』

「ふん、言ってろ」


赤ずきんは荷車を降り、スタスタと歩き始めた。

きょろきょろしつつ、赤ずきんの背中を追う。

赤ずきんが荷車から降りたから大分楽にはなったけど、今回の荷物は重い。


『で…噂の『買取屋』のトコに行くわけ?』

「あぁ」


赤ずきんは何かを探すように辺りを見回していた。


『?…まさか案内で猫が来るとか…?』

「いや、猫は来ない」

『居場所は?お前、『買取屋』と会ったこと無いんだろ?』

「会ったことは無いが、何処にいるのかはわかる」


そういうもんなの?仕事屋って本当、不思議だわ。


「と言うわけでオオカミ、ちょっとそこの路地裏で化けて来い」

『疲れてる時に人間体に化けるのマジで疲れるって話、何回したら聞き入れてもらえんの??』

「うるせぇお前の都合なんざ知るか!」


乱暴にハーネスやら何やらを外されて、乱暴に路地裏目掛けて蹴られた。

もう本当に酷いよね!動物虐待だよね!

そういう事言うと「お前半分人間だろ」って言われるから言わないけど!





「何で検問は大丈夫なのに人間体にならないといけないんですかね…」


人間体で荷車をずるずると引っ張る。

まだ運ぶなら獣体が良かったんだけど。


「オオカミのまま会うと多分面倒くさいから」

「あ、そう…そんで何処に向かってるんですかね…」

「城」

「しろ…………城!?」


あまりにしれっと言われたので一瞬聞き逃した。

こいつ今、城って言った?城ってこの国の王様の城!?


「何で!?」

「そこに買取屋がいるから」

「お前、城の人に『御駄賃(ガラクタ)』売り付けようとしてんの!?」

「大丈夫、多分買う」

「その自信何処から来んの!?…ってかまさか王様に売り付けようとしてる!?」


城が目的地と聞くと、どうしてもその考えに行きつく。


「しょうがないだろ。この国の王様が『買取屋』なんだから」

「それ仕事屋が王様やってんのか王様が仕事屋やってんのかどっち!?」


王様が仕事屋だとしても!一体どうやったら王様に『それ』を売り付ける気になるのか!


「打ち首とかにされても知らないよ!?俺、他人のフリして帰るよ!?」

「されねーって。大丈夫だって。行くぞ」


喋りながらも赤ずきんの足取りは確実に城に向かっている。

大丈夫!?本当に大丈夫!?


「俺どっかで留守番してちゃ駄目!?」

「ごちゃごちゃうるせぇぞクソオオカミ!」

「無駄死には嫌なんだけど!」

「つーかそんなに叫ぶ元気があんなら取っとけ!この後使うぞ!」

「は!?」


赤ずきんが訳の分からないことを言い出した。

この後使うって何!?何を!?


「元気を!?どうやって!?」

「うるせぇ!どうせすぐにわかるから黙ってついて来い!」

「何でお前そんなに淀み無く歩くの!?凄いね!?」


たまに赤ずきんの『自信』が羨ましい。

まぁでも、こいつのは持ってちゃいけない部類の『自信』だろう。






「…」

「…」


城に入った直後の話はしない。大したエピソードも無いし。

問題は今。

王の間で王様と対面してる、今。


「…以前ある職人たちが『愚か者には見えぬ布』で服を仕立ててくれてな…」


玉座で王様が口を開いた。


「あれは嘘だったのか…それとも真だったのか…今となっては確かめようも無い」

「…」

「…」

「あぁでも、確かに私は愚かだったのだ…」


ゆっくりと王様が立ち上がる。




「己の肉体の美しさに…気付いていなかったのだからな…!」




「…」

「な?元気使うだろ?」


ボディビルダー並みに鍛えられた身体。

そしてボディビルダー顔負けのポーズを取る王様を見て、俺は静かに頭を抱えた。




副題:『そう来たか。』



群を抜いてキャラが濃い仕事屋、登場。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ