30:仲介屋の噂
「なぁ、『仲介屋』って知ってるか?」
「仲介屋?…何だそれ?何を仲介すんの?」
「例えば…○○国って長いこと内乱が続いてたろ?」
「あぁ、貴族と平民の争いが止まらなくて政治も機能しなくなってたな。2年くらい前に沈静化したっけ」
「どうも貴族の代表と、平民の代表との仲を取り持ったのが仲介屋らしいんだよ」
「は?だって、俺達が子供の頃から…10年近く争ってただろ?」
「それを全部、丸ーく収めたのが仲介屋って話だぜ」
「何だそりゃ…胡散臭いな」
「それと、□□国と▼▼国が戦争始めただろ?」
「あぁ…□□国の圧勝かと思ってたのにまだ続いてるよな。噂じゃ▼▼国が勝ちそうだって?」
「あれもどうやら仲介屋が噛んでるらしい」
「はぁ?」
「△△△って奴、知ってるよな」
「そりゃ有名だろ。幾つもの戦争を勝利に導いた知将だろ?」
「どうもそいつと▼▼国の王様とを仲介したらしい」
「…いや、とっくに死んでるだろ△△△は」
「そいつをずっと見て来た奴が生きてたんだよ」
「お前…いちいち勿体振るなよ」
「悪い悪い!…なんと、知将の娘」
「娘ぇ?…つっても40代くらいは行ってるか」
「多分それくらいかな」
「その娘と▼▼国が仲良くなったから戦争に勝てそうだって?んな馬鹿な…」
「いや、本当らしいんだって!俺も聞いただけなんだけどさ!」
「馬鹿馬鹿しい…ここまでの話だと、仲介屋が仲介したのは『誰かと誰か』…1人と1人だろ?」
「らしいな」
「たったそれだけの人数でそんなに大きな影響があるもんか!」
「だけど『仲介屋』だぜ?『仕事屋』だぜ!?」
「その『仕事屋』ってのも胡散臭くて信じられないね!」
「何かヤバい洗脳力があるとか…」
「だからって、戦争だの何だの、そんなにデカい物事が少人数で動くとは思えねぇよ!」
「そういえば…ずーっと税金の事で物申してた公爵、最近すっかり静かになったよな」
「いたな、そんな奴。地方の土地を持ってる公爵だっけ?」
「そうそう。『私の土地だけ税金が異常に高い!』って、ずーっと言ってた」
「『王都に近い土地ほど税が軽くなるのはおかしい!』とも言ってたよな」
「はは!田舎者が王に貢献できるのなんてそれくらいしか無いくせに、何を言ってんだか」
「『私の領地の民が苦しんでいる!』って…そりゃあんたの責任だろうよ。頑張れよって」
「田舎の公爵が何を言ったところで国の決まりは変わらないって!」
「ほら。少人数で何をしても、何も変わらないだろ?仲介屋もただの噂なんだよ」
「うーん…そうなのかなぁ…」
「実在するなら見てみたいね。そんで『できるもんなら国の上層部とコネを作れ』って言いたい」
「あー!良いな!そしたら昇格間違い無し!」
「王都勤務とは言え、こんな退屈で薄給な駐屯兵やってても仕方ないし。ま、無理だろうけど!」
「俺は信じるぞー仲介屋!いつか会って依頼してやる!」
「はいはい、無理無理」
『え?○○国の内乱を止めた?』
『あっしは知りませんよう!』
『あ、でも何年か前にその辺の地域でー、貴族の子供と平民の子供と遊んだ気がしますねェ!』
『戦争に負けずに生きてたら今頃は17歳くらい?ですかねェ』
『そういや貴族代表と平民代表も確かそのくらいの歳だとか聞いたような…聞いてないような!』
『▼▼国が戦争に勝ちそう?へぇ、そうだったんですかい!』
『そういやァ、かの知将△△△さんの娘さん。父親の生まれ故郷に骨を埋めたいけど知らないもんだから、世界中旅をしてまして!』
『何を隠そう、あっしは△△△さんの大ファンで!何たって策略家!いやー尊敬しまさァ!』
『そんで娘さんとお会いした時はもう感動ですよ!色々話し込んじゃいましたよう!』
『△△△さんの生まれは▼▼国とか、ね!』
『小さいけど空気は良いし食べ物も美味しい、景色も良い素晴らしい国ですよねー!国王様もお優しい方で!ウチの国の王様とも交流があるらしいでさァ!』
『娘さんとお会いした後、テンション上がっちゃって国王様にも会いに行っちゃいましたよー!△△△さんの娘さんとお話ししちゃいました、って!』
『あ、でも今は戦争の真っ只中ですよねェ!娘さん、巻き込まれてないと良いんですが!』
『全部計算済みだろ、ですって?』
『何のお話でしょう?』
『だって、あっしが繋いだのは1人と1人』
『たかだかそれだけの人数ですよォ?』
『まさか何時ぞや遊んだ2人が貴族、平民の代表になるとか!』
『まさか娘さんが父親の生まれ故郷を守るために▼▼国王様に協力を申し出るとか!』
『まっさかァ!ただの猫には予想できませんや!』
『そういや最近、とある田舎の土地を持った公爵様とお友達になりましてねェ?』
『ご病気だそうで…自分が死んだら領民が更に苦しむだろうって嘆いてましたよ。うぅっ、お可哀想に!』
『あと、旧友の足取りが掴めないのも悔やんでましてねェ。以前は王都で兵器の開発をしてた方らしいんですけど』
『何でも、ヤバい兵器を作ったとかで…その設計図を奪われた挙句、追放されたとか!』
『開発員の1人だったってだけなのに!いやはや、悲劇的!』
『立場上ほいほい助けるそうにもいかなかったらしいですが…いやー、それを悔やんでるって!』
『何に変えても助ければ良かったって!うぅっ、美しい友情でさァ!』
『そういや最近、イカした古城に住んだお爺さんとお知り合いになりましてね?』
『何でも昔、ヤバい兵器を作った責任全部負わされて王国を追われた身らしいでさァ!』
『復讐したいけど金も人手も気力も無いって!うーん、歳ですねぇ』
『そんで最近ふと、幼馴染の安否が心配になったっておっしゃってましたね。歳ですねぇー!』
『だからね、こんなお話をしたんです』
『とある国の、病気で伏せっている公爵様のお話』
『領民が苦しんでいるのに、王都では何不自由なく民が暮らしているのに、それをどうにもできないまま死んでいく公爵様のお話』
『旧友を助けられなかったのを今でも悔やむ、公爵様のお話』
『え?目上の人間とのコネを作れって?』
『そりゃ作ろうと思えば作れますけどー、それがどんな結果になるかは知りませんよ?』
『だって、あっしが繋ぐのは『縁』だけですから』
『その縁が吉になるか凶になるかは、あっしにゃわかりませんや!』
『あっしの御主人様は吉も吉。大大吉でしたけどねェ!』
『そういや近々、とある国の公爵が王都への反乱を企んでるとか…』
『人手不足の分を補えるほど強い兵器を持ってるとか…聞いたような聞いてないような!』
『あっしにゃ、関係ありませんけどねェ!』
副題:『所詮は噂。』
噂の真相を知ってるのは情報屋くらいでしょう。