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28:赤ずきんとお土産ラッシュ

「おはようございます赤ずきんさん。贈り物が届いてましたよ?」


「赤ずきんさーん!赤ずきんさんによろしくどうぞって、預かりました!」


「おう赤ずきん、お前さん宛にプレゼントだぜ?」




「…いや、多いな!!」




あ、赤ずきんが突っ込んだ。

いつ突っ込もうか迷ってたんだけど先にやられた。







風呂覗き猫事件(と名付けた。センス無い?うるさいな!)から数日。

来るわ来るわ、真紅のローブ、本革のブーツ、人気店のケーキ…その他諸々。

全て、差出人不明の赤ずきん宛のプレゼントだ。


「あいつ馬鹿か!?馬鹿だろ!なァ!?」

「…とりあえずケーキ食っとけ」

「あぁ!食ってやるとも!」


そのままケーキにがっつく赤ずきん。

甘い物を食べたら、多少は興奮状態が収まるんじゃないかな。


それにしても…赤ずきんは差出人わかってるっぽいから良いけど、知らない奴からしたらストーカーみたいだ。

ここ数日で赤ずきんの身なりがどんどん良くなっている。

いやこの言い方だと身なりが悪かったみたいだけど、違うから。

今までと比較にならないくらい良い物が送られて来てるってだけだから!


「…あの、これは誰からなんです?」

「あぁ?誰からって?そりゃ聞くの野暮ってモンだぜ!従者の兄ちゃん!」


聞いた途端におっさんがゲラゲラ笑う。

いや、多分そういうのじゃないんだって。


「…と言いたいトコだが…持って来たのは、ありゃ侯爵家の猫だな」

「侯爵家の猫?」

「国王様の娘さんの嫁ぎ先。郊外にある馬鹿でかい土地持ちの侯爵様が、猫飼ってんだ」

「その猫が…このプレゼントを持って来たと?」

「あぁ。『赤ずきんさんによろしくどうぞ!』だとよ」


どうやら、犯人はあの猫らしい。

知ってた。9割9分そうだろうなって思ってた。

あいつ一体何がしたいんだろ?


「皆さん、よくその猫を御存知ですね?」

「有名だぜ。あいつと喋ると友達が増えるんだ」

「?」

「聞いた話じゃ…あの猫が仲を取り持ってゴールインした奴がいるってよ!」


キューピッドか!と再びおっさんが笑った。

…え、『仲介屋』ってまさか…


「そういやおっさん、マスター候補(笑)がギルド出て行ったって?」


ケーキを食べつつ赤ずきんはおっさんに聞く。

…お前、1ホール全部食うつもり?

既に半分無くなってるんだけど。


「あー…他に何人か連れて、な。10人ちょっと抜けたか」

「ごっそりいったな」

「…10人って全体の大体5分の1じゃないですか…大丈夫なんですか?」


それを聞いたおっさんは肩をすくめた。




「バークは『仕事回しやすい!!』って大喜びしてたぞ」




「バークのそういうトコ嫌いじゃねーな、私」




…なるほど、つまりギルドを抜けたのは『目の上のたんこぶ』の集団ってか…

何か、段々バークが赤ずきんに似てきてるような…


「これでようやく私も解放される…ったく、大仕事だったぜ」

「はは、たまには顔出せよ『特別顧問』!」

「えぇー…それやらなきゃ駄目…?」


赤ずきんはうんざりした顔をして、最後の一口を放り込んだ。

え、最後の一口なの?いつの間に終わったの!?


「じゃ、渡すもん渡したし俺は仕事に戻るわ」

「御苦労」

「へいへい、どーも」


呆れたように笑いながらおっさんは去って行った。

『御苦労』って…いつもながら上から目線だよなこいつは…


「さて、私の最後の仕事はいつ来るか…」

「え、何の仕事?」


思わず赤ずきんを見る。

すると赤ずきんはプレゼントの箱を指差した。


「贈り主から多分『依頼(おつかい)』があるんだよなァ…」

「…そうなの?贈り主って猫の飼い主、か」

「『仲介屋』が動いてるくらいだから面倒事だろうな…」

「…ってか仲介屋ってさぁ…」

「何だよ」


いまいちピンと来てなかったのだが、おっさんの話聞いて思った。




「…結婚仲介業?」




「何でその解釈になったか言ってみ??」




あっ、赤ずきんがぽかんとしてる!


「だってさっき猫の仲介でゴールインしたカップルがいるって…!」

「そりゃたまたまだろ!だとしたら今、私は既婚者に仲介されそうになってんのか!?」

「あ、そっか!」

「そんなくだらねぇ仕事屋が居てたまるか!馬鹿!」


そうかな、結婚って結構重要だと思うんだけど。

赤ずきんも結婚できなさそうだし!!


「テメーまた失礼なこと考えてんな!?わかるんだよ!」

「ぎゃぁぁ久々に銃撃たれた!お前絶対このギルドに修理費払った方が良いぞ!?」


「あの…今、大丈夫ですか?」


そこへ、恐る恐る、といった感じの声が聞こえてきた。


「お、バーク。調子どうだ?」


声の持ち主はすっかり聞き慣れたバークだった。

バークはこの惨状…つまり壁に新しい穴が空いた惨状にはとりあえず目を伏せて、続けた。


「とりあえず上々です。城からお迎えの方が来てますよ?」

「迎え?何で?」

「国王様から勅命だとか…詳しい内容は聞いておりませんが」


赤ずきんと俺は顔を見合わせた。


「…国王から依頼?…侯爵からじゃなくて?」

「…あの猫、何か仕向けたな…」


赤ずきんは恐らくあの猫を思い浮かべて、舌打ちをした。






「赤ずきん殿、見事ギルドを復興してくれたな!」

「そりゃドーモ」


国王は、依頼当初のやつれた様子はすっかり無くなっていた。

笑顔で赤ずきんを褒め称えている。


「新たなマスターも決まったようだな?」

「将来有望な若者に指名しておいたぜ」

「それはそれは!」


国王、赤ずきんの喋り方については突っ込まない方針なんですか。良いんですか。


「『最初』の…『配達機関の復興まで仕事を手伝う』って依頼は完了で良いな?」

「無論、予想以上に素晴らしい働きであった。ありがとう」

「へいへい、ドーモ…で、『次』の依頼は?」


赤ずきんの問いに一瞬国王は固まった。

が、すぐに肩をすくめて笑った。


「成程、御見通しか…」

「まぁな」

「若い娘なのに、なかなか侮れんな…」


国王は近くの従者に何か指示をした。

程無くして赤ずきんと俺の目の前に箱が用意される。


「これが最後の依頼だ、赤ずきん殿…この荷を『カラバ侯爵家』へ届けてくれ」


カラバ侯爵家って…あの猫の住処?


「郊外に住んでるっていう、国王の娘の嫁ぎ先か」

「おぉ、既知であったか。広大な土地を持った、気取らない青年でな」


国王は嬉しそうに笑う。


「来週に婚儀の記念日なのでな、まぁ祝いの品というところか」

「そいつは『安全』に『確実』に届けねーとな。任せておけ」

「あぁ、頼むぞ赤ずきん殿」


その言葉を聞いて赤ずきんは得意気に笑った。





…ん?いやちょっと待って?

俺、現状がいまいち整理できないんだけど。

国王からの依頼は良いよ。


『あの猫はお前と侯爵の仲介をしたかったんだろ?』

「多分な。何の用か知らないが」


久々の荷車。

久々に獣体になってるよ!何か、身体が安心してる!


『で、その侯爵は国王の縁戚だと』

「そう」


ギルドの皆に挨拶をして、今はでっかい田園の中の馬車道を歩いている。


『…で、都合良く『赤ずきんが侯爵家に出向くような』依頼が『国王から』入ったっての?』

「そうなるな」

『…そんな事、普通起こるか?』


赤ずきんと知り合いになりたい侯爵が自分から動くことなく、赤ずきんと接触する機会を得られるような。

そんな偶然が起こるか?

赤ずきんは忌々しげに舌打ちをした。


「あの猫…最初から仕組んでたんじゃねーかな…」

『最初って?』

「国王が『運び屋(わたし)』に配達ギルドの復興を依頼した所から」

『?』

「思わなかったか?『運び屋(わたし)』の仕事じゃないって」

『思ったけど…』


赤ずきんの仕事は『運び』であって、今回の依頼内容は微妙に方向性が違う。

完全に専門外、とは言わないけど。


「多分あの猫が何か吹きこんだ。『そういや『運び屋(赤ずきん)』って御存知ですかい?凄いらしいでさァ!』みたいな」

『その台詞、完全にあの猫の声で脳内再生されたわ…』

「だから私に普通は来ないような依頼が来た。…で、わざとらしく侯爵から宜しくと称して御土産が来る」

『いっぱい来たな』

「で、ギルドがマトモになった頃に『そういや王様、侯爵様の結婚記念日ですねェ!』…って言う」

『…国王が侯爵に贈り物をする…のに、赤ずきんを使う?』


背筋にぞくりと寒気が走る。

最初から…あの猫の掌で転がされてたのか?

全部、思惑通りに?


「全部仕組まれてたんなら、腹が立つけど感心するしかねーなァ…」

『…何のために…』


『ありゃ、お迎えにあがろうと思ったのに!早かったですねェ!』


前方から、数日前に聞いた声がした。


「…何のため、ねぇ…自分の手腕を自慢するためか…」

『赤ずきん御一行!お待ちしておりました!』


赤ずきんと俺の前に現れた猫。

一丁前に帽子とマント、それから『長靴』を身に付けた、喋る猫。




『カラバ侯爵領へようこそ!』




「…それとも、お母さんを通すと面倒な依頼を押し付けるためか…」


『長靴をはいた猫』は、仰々しく御辞儀をした。




副題:『身に付ける物によってアイデンティティが左右するタイプの仕事屋。』


赤ずきんも同じタイプ。

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