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27:オオカミと喋る猫

『いやぁ旦那!何かやってなさるんで?本当、良い筋肉してまさぁー!』

「…いや…色々言いたい事あるんだけどさ…」


窓からの来客に突っ込みどころしか思い付かない。

そんな俺を余所に、灰色毛の猫はコロコロと笑った。






『噂は伺ってるんでさァ。旦那方が赤ずきん一行でしょ?』


猫は前足で俺を指しながら言う。


「えーと…」


とりあえず、シャワーは止めよう。そんでもって言いたい事を言おう。


「何でわざわざ全裸の時に覗いて来るかね…」


今の俺は完全に人間と同じ身体になっている。

いつも放ったらかしの耳も尻尾も人間と同じ。

獣体の時に覗かれても別に何も思わないけど…人間体だと、何かさぁ。何か駄目じゃん。


『覗き!覗きたぁ失礼な!』


猫は不服そうに言う。

でも風呂場に突如乗り込んで来られるのを『覗き』以外の何で形容すれば良いのか。


『挨拶!挨拶ですよぉ!』

「随分無礼な挨拶だな」

『裸の付き合いって大事じゃないですか!ほら、あっしなんか真っ裸!真っ裸ですぜ!』


猫は『ほら!』と両手を広げて主張する。

いや、そうだけどさぁ…俺だって獣体の時は真っ裸だけどさぁ…


「獣と人間の裸じゃ大分扱いが違うと思うんだけど…」

『そんなぁ。人間も裸になって心をガッパーっと開けば良いんですよ!』


そいつは『ガッパーっと!』とか言いながら両手を広げて窓の淵に立った。


「毛皮全部剥いでから言え」

『毛皮を剥げですって!?きゃー!旦那のエッチ!』

「…」


シャワーを出して猫に向ける。


『きゃー!猫は水嫌いなんですぜ!?』


猫は慌てて飛び退いた。チッ。

いちいち挙動が腹立つ奴だ。


『やれやれ、乱暴なお方ですぜ…』


喋るせいか、何か全体的に人間っぽい動きをする猫だな。

しれっと二足で立ってたしな。ウザい。


「で、俺…ってか赤ずきんに何か用?つーか誰だお前」


タオルを手に取る。

あーあ、獣体なら水振るい落として終わりなのに。人間体って不便。


『だから御挨拶ですってば。『運び屋(赤ずきん)』がこの国に長期滞在してるって聞いたんで』


心なしか表情も豊かだ。


「赤ずきんのトコ行けよ。俺はただの従者だっての」

『いや、行ったんですぜ?』

「ほう」




『行ったんですけど、秒で洗面器投げられてシャワーで追撃されたんで。挨拶する間も無く退散して来たんでさァ』




「馬鹿なの??」




そういやさっき遠くでデカい音したな。あれ、赤ずきんが洗面器投げた音か。


『何でですかィ!?裸の付き合いによって種族による壁が無くなり、みーんな仲良くなるんでさァ!』


そんなに熱く語られても困る。


「お前が喋らなかったらまだマシだったかもな」


多分こいつが人間同様に喋ったのが問題だったんだろう。

いや、風呂場に普通の猫が侵入して来るのも十分問題なんだけど。

無駄に人間臭いから怪しさ満点なんだよなぁ。


『まぁ…そんなこんなで旦那のトコに…あ、最初から旦那のトコにも来る予定だったんですよ?赤ずきんさんに挨拶できないのは予想外でしたが』

「あっそう」

『何で人間ってわざわざ服着てるんですかねぇ?窮屈なのに』


ふむぅ、と考え込むようなポーズを取る。

本当にいちいち挙動が腹立つ。


「知るか」

『…にしても旦那、あっしを見ても全然動じませんねぇ』

「はぁ?」

『だってあっしが来ても普通に喋ってるし、隠さないんですもん』

「あー…」


そういや普通に対応し過ぎた。

自分も『人間みたいに喋る獣』だしなぁ…警戒心が薄かったか。

隠さないのは…猫に隠してどうすんだよ、って気持ちもある。

それにしても隠さな過ぎか。いやー、人間の価値観ってよくわかんない。


「悪い悪い」


とりあえず腰にタオルを巻く。

すると猫が『あっ!』と意地悪そうに笑った。




『旦那は『人狼(オオカミ)』だから気にならないんですかね?』




反射的に威嚇をした。

途端に『きゃっ!?』と言って猫が飛び退く。


『旦那ァ!人間体で顔だけちょっと戻して威嚇すンのやめてくだせぇ!思ってたのより5、6倍エグい!!』

「あ…?」


あ、牙と目と鼻の辺りがオオカミになってる…

いやそれはどうでも良い。


『ぎゃっ!?』


猫の首根っこを掴んで引き寄せる。


「テメー…その情報何処で仕入れた…?」


俺が人狼である、という事はまず間違いないなく一般人は知らない。

この国に来てからその情報は明かしてない。

そもそも獣体にしばらくなってないから知る由が無い。


「場合によっちゃ…食うぞ」

『いやぁぁぁ!お助けぇぇ!』


猫はジタバタと暴れて泣き喚いている。

…野良にしては毛並みが整ってるけど…飼い猫?


「出処はテメーの主人か?なら主人とテメー両方食わなきゃなァ…」

『あっしの御主人は何も知らないんでさ!御主人は一般人ー!』

「じゃ、テメーは何なんだよ」

『あっしは赤ずきんさんのお友達ィー!』

「は?」


思わず手を離す。

猫は水たまりの上に着地したので再び悲鳴を上げた。


「赤ずきんの友達…?」

『水!水は嫌ー!…こほん、そうです。会うのは久方ぶりですがねぇ』


ニャッハッハ、と猫が笑う。




「…あいつ友達いんの??」




『旦那ァ、今のオフレコにしときやしょう。』




まるで『それ以上はいけない』と言わんばかりに猫が手を掲げた。

…そうだね、俺もオフレコが良いと思う。


『白雪嬢とかシンデレラの姐さんと仲良いでしょう。お友達いますってば。』


は?

白雪姫とシンデレラ?

聞くと思ってなかった人名が出て来て、思わずバスローブを着かけた手が止まった。


「おま、何でその2人まで知って…」

『そうそう!お土産があるんでさァ!』


俺を無視して猫が部屋に入っていく。


「土産!?」

『はい!あっしからってよりは、御主人様からですが!どうぞ!』


何時の間にかテーブルに置かれていた白い包みの横に座る猫。

…何これ?


「何これ?」

『今日はとりあえず旦那に!後日赤ずきんさんにも持って来まさぁ!』

「は??」


言うが早いか、猫は窓へ颯爽と走った。

…いや、待って待って!


「お前赤ずきんと白雪姫たちも知ってるって、もしかして…!」

『あっしはこの辺で御暇します!御主人様から赤ずきん御一行に「宜しくどうぞ」とのことでさ!』


そして猫はひらりと窓から外へ飛び降りたのだった。

…俺の疑問は何1つ解決されないまま。


「お土産って…何これ…ってか何で俺に…」


猫のいなくなった部屋で、仕方なく包みを開く。

そこには…上等なローブが入っていた。

いつもの薄っぺらいボロボロのローブとは違い、布も仕立ても上等。

…何。これをどうしろと言うのか。



ドンドンドンッ!!



「うおっ!?」


扉がけたたましい音を鳴らし、肩が跳ねた。

誰かが扉を叩いてるらしい。いや、多分あいつだけど。


「…何?」


扉を開けた途端、物凄い形相の赤ずきんが部屋に駆け込んで来た。


「さっき!風呂場に!不審者が!!!」


そして現状をとても簡潔に説明してくれる。

うん、普段なら意味わかんないけど俺も同じ状況だったから凄いわかりやすい。


「あー、俺のとこにも来たよ。猫。」

「猫!?…つーかお前何てカッコしてんだ変態!!」


興奮(混乱?)状態の赤ずきんから凄まじいボディブローが放たれた。


「ごふっ…!」

「ちゃんと服着ろー!馬鹿ー!!」


…そういや風呂上がりだったわ。

でも…バスローブ着てるからセーフじゃね?




「猫?」

「猫。『赤ずきんの友達』を自称する猫」


大体20分後。落ち着きを取り戻した赤ずきんはベッドの上で胡坐をかいていた。

女の子が胡坐かいて腕組みするんじゃないよ、まったく…


「その確認もできないくらい混乱してたのかお前…」

「そりゃそうだろ!風呂場で自分以外の声が聞こえたら!!」


真っ赤になって叫ぶ赤ずきん。

その辺は女の子なんだけどなぁ…


「つーか、私の友達?…どんな猫?」

「えぇ…どんなって言われても…」


赤ずきんの友達。

俺を人狼だと知っている。

白雪姫とシンデレラともどうやら面識がある。


つまり。


「…多分『仕事屋』の猫…」


『仕事屋』しかありえない。


「…あー、アイツか」


少し考えた後、赤ずきんは納得したように言う。


「え、マジで?マジで仕事屋!?」

「多分な。何びっくりしてんだよ?」

「猫だよ!?喋るってだけの猫だよ!?」

「猫ナメんなよ。すげーやり手の仕事屋だぞ、そいつ」


あの猫が?割とウザさ高めなあの猫が!?


「何か言ってたか?」

「…『御主人様から赤ずきん御一行へ、宜しくどうぞ』だと」

「ふーん…何の用だろ?」

「あと『お土産』と称して凄い上等なローブ置いていったんだけど…」

「はぁ?」


顔をしかめる赤ずきんに、先程のローブを見せる。


「何だこりゃ…」

「赤ずきんにも後日持って来るって。これどうする?」

「…まぁ、着とけば?『赤ずきんの従者はボロい』とか言われるの癪だし」

「あ、そう?」

「しっかし何の用だろうなァ…」

「何屋なの?」

「『仲介屋』」


今度は俺が顔をしかめる羽目になった。


「…仲介屋って何?」

「仲介屋は仲介屋だよ、それ以上でもそれ以下でもない」


…運び屋、情報屋、掃除屋は…どんな仕事なのか想像がつく。

でも仲介屋って何よ。


「まぁ…コネ作りの達人みたいな…?」

「…?その達人が何でお土産を…?」

「さぁな。何考えてるかよくわかんねぇ胡散臭い奴だし」


何か酷い言われようだな…


「…『友達』なんだよな?」

「…まぁ面識はあるよ」


非常に曖昧な回答を得た。

…友達じゃないんじゃないの?



翌日から赤ずきんと俺は『土産ラッシュ』を喰らう事になるのだが、この時の俺達はまだそれを知らない。




副題:『きゃー!猫さんのエッチ!』



お風呂キャラと言えば彼女しか思いつかない。

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