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25:赤ずきんとスパルタ教育

「お前。この荷物抱えてあっちの住宅街まで走れ。届けて来い」

「え、でも4つも一気に…」


「行け。」


「はい!仰せの通りに!!」


翌日。赤ずきんによる調教が始まった。


間違えた。赤ずきんによるスパルタ教育が始まった。







昨日、ギルドに戻った後。驚くべきことが起きた。

ギルドが蜂の巣になったのだ。

あっ、違う違う。俺らが戻った時、配達行った奴が7人しか帰って来てなかったのだ。




「…私らよりも荷物が少ない連中が!!

まだ戻って来てねぇとはどういう了見だ!?あァ!?ふざけるなァ!!」




疲弊しきった赤ずきんがそう叫んで、銃をぶっ放すまで多分3秒くらい。

銃弾を適当な物で避けつつ、考える。

…おかしくない?手紙の配達で10人、荷物の配達で12人行ったろ?

…何で7人しか帰って来てないの?大半の人間は直帰したの??


「あの…配達行った方々が直帰した可能性は…ありませんか?」


近くで縮こまってたギルド員に聞いてみた。


「あっ、はい、あ、いえ!その可能性は無いかと!」

「どうか落ち着いてください」

「すすすみません!あの、配達が終わったらギルドへ報告に来る、という決まりがあるので!」


なるほど、じゃあ直帰の可能性は無しだ。

銃声と悲鳴をBGMに考える。

…俺らが担当した荷物が34件でしょ?で、王都の全域でしょ??

いやまぁ全域って言っても中心部から遠く離れた場所への荷物は無かったけど…

で、他の奴らが担当した荷物が…?

1番多く割り当てられた奴も、俺らの半分も無いと思う。確か。

…何でそんなに時間かかってんの?迷子にでもなったの??


「てめーら確か西側の地域に手紙届けた奴らだな!あぁ!?」

「「はい!そうです!!」」


銃を突き付けられた2人の若者が同時に両手を上げた。可哀想だ。


「お前らは南に手紙届けた奴!」

「「そうです!」」

「お前らは荷物!西に15件!」

「「はい!」」

「んで、お前も荷物!!東に9件!!」

「その通りです赤ずきん様!!」


職業柄だろうか、赤ずきんは人の顔を覚えるのが非常に早い。

にしても何処に誰を、荷物を幾つ割り当てたのかまでメモ書き無しで全部覚えてるとは…


「他の奴らは!どうした!?あァ!?」

「わ、わかりません!」


一体どんな届け方をしたらこんなに時間がかかるのだろうか。俺も知りたい。


「バァァァク!」

「は、はひぃ!」


そして可哀想なバークがまた指名されてしまった。何だろう。


「明日届ける荷物は!?」

「はい!今日よりは少ないかと!全部で40件です!」

「手紙は!?」

「本日回収した分の振り分けが済んでおります!94通です!」

「…ほぉ」


赤ずきんの怒りがちょっとだけ収束した。

つーか赤ずきんの要領を得ない質問にすらすら答えるとは…やるじゃん。


「オイ、お前ら何時までギルドにいる?」


赤ずきんは(マシンガンを携えつつ)ギルドに残ってた人々に聞いた。


「あ、彼らは夜勤の者ですよ。夜に荷物を持ち込む方も結構いらっしゃるので」


彼ら、と言ってバークはテーブルの下に隠れている数名を示した。


「ほー…なァ1つ頼まれてくれねーか?」

「はい!仰せの通りに赤ずきん様!!」


夜勤組が一斉に叫ぶ。

そして赤ずきんは据わった目で、こう言った。




「帰って来る配達人、順々に柱に縛り付けといてくれねーかな」




「えっ??」




「帰って来る配達人、順々に柱に縛り付けといてくれねーかな。私は帰る。」




夜勤組がきょとんとしていたりおろおろしていたりするけど、聞き間違いではないので安心してほしい。

柱に縛り付けとけ、で指示はあっている。あってるけど、おかしい。

当の赤ずきんはさっさと彼らに背を向け、俺に「行くぞ」と言った。


「えぇ…どうすんの…」

「明日殺…違う、教育するんだよ。それまで反省の意を込めて柱にだな…」

「殺すって言いかけただろお前…」

「とにかく明日。今日は疲れた」


ぴしゃりと言うと、赤ずきんはさっさとギルドから出て行ってしまった。


「あ、あの、従者様…私達はどうすれば…」

「え?えーと…」


赤ずきんの後を追おうとして、捕まった。

えーと確か、デボラ?って女だ。


「…夜勤の方々以外は、仕事が終わり次第帰って良いかと」

「そ、そうですか…」

「夜勤の方々はくれぐれも、彼女の言う通りにすることをお勧めします」

「は…はい…」


赤ずきんの言う通り、つまりこれから帰って来る(はずの)配達人を柱に括り付けろ、という命令を実行しろということだ。

一体何のプレイなんだろう。知りたくない。




「一体何のプレイだ赤ずきん!!おい!!」


翌日。というか、今朝。

赤ずきんと俺がギルドに来た瞬間、文句を叫んだ勇者が1人だけいた。

えーと、見覚えある…あ、俺が首絞めたおっさんじゃん。

ちなみに、おっさん以外の奴は全員ぐったりしている。そりゃそうだ。

夜勤組もぐったりしているような気がする。お疲れ。


「ほーう?そんな戯言は配達に時間かからなくなってから言うんだなァ…?」

「う…それについてはぐうの音も出ねぇが…」

「言い訳があれば聞いてやらんことも無いが、どうする?」


赤ずきんは銃を取り出しつつ、挑発するように言った。

何度でも言うけど、何でそんなに尊大なんだお前は。


「…いや、何を言っても見苦しいだけだ。言い訳はしねぇ」

「ほう。なら聞かねぇ」


赤ずきんはあっさり言う。そして、


「代わりにどうやったら配達にここまで時間かかるか聞こうか?」


良い笑顔で言った。

手には勿論、マシンガンを構えていた。






「てめーら荷車の使い方がなってねぇんだよ…!」

「すみません…!」

「何で1軒1軒荷車引きずって回るんだよ!馬鹿か!!」

「「ぐうの音も出ません!!」」


現在赤ずきんは青年2人が引く荷車に乗り込み、鞭を振るっている。一体何のプレイだろうか。


「おい兄ちゃん…赤ずきんはいつもあんな感じなのか…?」

「ご想像にお任せします。」


かく言う俺もオッサンの引く荷車に乗ってるんだけど。

ってか荷車の上って慣れないね。油断すると酔いそう。


「ちょっと荷車置ける場所に置いといて荷物抱えて行けば良いだろ!?」

「は、はい…!」

「頭使え!脳味噌入ってんのか!?」


例えば…最初の届け先と次の届け先が3軒挟んだ所にあった時。

ギルドの奴らは何してたかって言うと、

最初の家の前にご丁寧に荷車止めて、荷物届けて、で3軒挟んだ隣まで荷車引っ張って、止めて、届けていた。

…面倒じゃない?疲れない?

どっかに荷車止めて、手で持って行けば良いのにな。昨日の赤ずきんみたく。


…まぁそんな状態だったので、赤ずきんが配達人に引っ付いて教育している。

その結果、いつものように荷物と共に荷車に乗って鞭を振るう状況が完成したのだ。

今日の犠牲者…じゃなくて生徒は昨日配達をした青年1人、今日の朝出勤してきた青年1人、あと勇者のオッサン。

この3人プラス赤ずきんと俺で、荷物の多い北側の地区に来ている。今日もやっぱり1番多かった。


「兄ちゃん苦労してそうだなァ…」


さっきからちょいちょいオッサンが話しかけて来る。


「彼女は仕事に対して非常に真面目なので、それの表れだと解釈しています」


なので、当たり障りのない返答をしておく。


「兄ちゃん、これ明日もやるのかい?」

「今日は彼らをしごき倒して、明日は別の数名がしごき倒されるでしょうね」

「…しっかし、若い連中がこんなにアホだったとはな…俺らの新人教育が甘かったんだな」


このオッサンは比較的、というか相当、マシな配達をしていた。

何故オッサンが時間かかったのかと言えば、クレームに対して1つ1つ真摯に謝罪していたから。らしい。

若い連中はクレーム処理もできてないんだろうなぁ…


「普段、新人への教育はどのように?」

「ほとんどしねぇな。仕事に何件か連れ回して、適当な時期に1人でやらせる」

「…なるほど?」


うーん、これは相当な数のアホがいると見て良いぞ…

バークやデボラ、このオッサンみたいなのは希少価値だ…

一体教育完了まで何日かかるんだか…




「赤ずきん様のお帰りだぜ」


そう言って赤ずきんはギルドの扉を開けた。

スパルタ教育(配達)に行ったのが10時前。

で、帰って来たのは14時。荷物は全部で16件。

まぁ…こんなもんかな。赤ずきんだけならもっと早いと思うけど。


「は、早かったですね赤ずきんさん…」

「よぉバーク。早い?どこが。むしろ遅いね」


赤ずきんを乗せた荷車を引いてた青年達は、ギルドに着くなり地面に崩れ落ちた。

…まぁ俺を乗せた荷車引いてたオッサンも崩れ落ちたけど。ごめんなオッサン。


「軟弱者め」

「走り回ってたんだから、そりゃこうなるでしょうよ…」

「お前はならないだろ?」

「人間体で荷車引いたこと無いからわかんないけど、多分こうなるよ??」


赤ずきんは冷めた目で彼らを見てるけど、相当疲れてると思う。


「は…配達って、走るんですね…」


突っ伏した青年が、ぽつりとそんな事を零した。

…確実に赤ずきんの逆鱗に触れたので、そっと赤ずきんから離れる。


「…走るんですね、だと…?てめーら今までチンタラ歩いて配達してやがったのか!?」

「うひぃっ…!」

「運びの仕事はなァ!スピードが命なんだよ!それを何だ!?のろのろと歩いて配達してた!?」

「ご、ごめんなさい…!」

「だから時間がかかるんだろうがァ!そんなことまで叩き込まないといけねぇのか!」


赤ずきんの喉が心配だなぁ。あいつ昨日今日で声張り過ぎだからなぁ。

あと銃弾のストックがそろそろ無くなるんじゃないかなぁ。

と、赤ずきんの顔がこちらに向いた。


「何?」

「西側見て来い。こいつらみたくチンタラ歩いて配達してる可能性がある」

「良いけど…」

「歩いてやがったら走らせろ。サボっていやがったら殺せ」

「仕打ちが極端すぎない??」

「馬空いてるだろ、確か。それ乗ってさっさと行って来い」

「へーい」


確実に歩いてるだろうし高確率でサボっている予感がする。

いやサボる勇者はいないか…?

そんな事を考えつつ、馬に乗って西地区に向かった。






「何が赤ずきんだ!偉そうに!」

「俺らは十分仕事してるっての!」

「ぎゃあぎゃあ喚きやがって!ガキが!」


勇者(バカ)がいた。3人もいた。頭が痛い。

西地区に来てすぐに、酒場でギルドの配達人がサボっているという話を聞いた。

せめて配達が終わってたら良かったんだけど、彼らの足元に荷物が転がってるのが見える。

俺はこんな人目に付く場所で殺人をしないといけないんだろうか…

溜め息をついてから3人に近付く。


「…ギルドの方ですよね?」

「あ…?あー!赤ずきんの従者の兄ちゃんか!」


俺を見るなり、3人共笑い出した。

酔っ払ってるっぽいな。


「配達は終わりましたか?」


一応、聞いておく。が、


「そんなもん急がなくったって良いだろォ~?」

「そうそう。慌てると良い事無いって!」

「兄ちゃんも飲むか?1杯くらいは奢るぜー!」


…話が通じない。駄目だこりゃ。頭が痛い。

ちょっと強硬手段に出た方が良いかな。


「もう一度聞きますが、」




テーブルを叩き割る。




「「「…」」」


テーブルに並べてあったつまみや小皿がばらばらと散らばった。


「配達は、終わりましたか?」


3人の顔が引きつった。

うん、仕事に戻ってくれそうかな。テーブルの代金はこいつらに払わせよう。

そんでギルドに戻って、赤ずきんにこいつらの処遇を決めてもらおう。


副題:『後に3人は赤ずきんに二度と逆らえなくなりました。』


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