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21:オオカミのおつかい

「オオカミ君、ちょっとおつかい頼んでも良いかしら?」


「うーん??待って???」


良いか良くないかで聞かれたら良くないと思う!






「おつかい?俺が?俺、オオカミなんだけど!?」


赤い靴に遭遇してから数日。

いつものように『オオカミ君ー!』と呼ばれたので来てみれば…

…あ、俺のこと呼ぶの赤ずきんの時もあるし赤ずきんの母親の時もあるんだよ。

…で、呼ばれたのは良いけど冒頭に戻る。


「あんた正気!?どういう神経してんの!?」


オオカミがおつかいって何!?何で俺、赤ずきんの母親にもパシられてんの!?

玄関先で抗議すると、赤ずきんの母親は申し訳なさそうな顔をした。


「ごめんね。赤ずきんに頼みたかったんだけど…部屋から出て来ないのよ…」


そう言って奥にある階段を見た。

上の階にいる赤ずきんが降りてくる気配は…無い。


あの日…『赤い靴』に出会った日。

どうにか家まで帰って来たけど、それ以来赤ずきんは部屋に引きこもっている。

外に出るとまたアイツに出会う気がして怖いのだろう。

まぁ、そのショックはわからないでもない。

でも俺は…意外と大丈夫なんだよなぁ…

いや勿論、もう会いたくもないんだけど…


「だからね、オオカミ君。ちょっとだけお願いできないかしら?」


困ったような赤ずきんの母親の顔。

赤ずきんに似ているようで似てない顔を見て、溜息をついた。


「…はぁ…良いよ。何すんの?」


耳の後ろを引っ掻きながら言うと、赤ずきんの母親はホッとしたように笑った。


「いつもの、赤ずきんの『お仕事(おつかい)』みたいなのでは無いのよ」

「そりゃあれは『運び屋』の仕事だしな。俺がやったら問題だろ」

「ちょっと薬とお手紙を届けてほしくって。そんなに遠くないからすぐ終わると思うわ!」

「ん」




「じゃ、これお婆ちゃんの家に!お願い!」




「待って。やっぱりヤダ。」




赤ずきんの母親の綺麗すぎる笑顔。

こいつ…さっきの申し訳なさそうな顔は演技か!?


「よろしくね、オオカミ君!」

「…」


笑顔に気圧される。

…俺が赤い靴あんまり怖くないの、周りの女が怖すぎるせいだと思う。絶対そうだ!


この女を筆頭に、婆さんも、あとシンデレラも怖い!






「…んで…?どのツラ下げて来たんだい腐れオオカミが…?」

「…」


背中に嫌な汗がダラダラ流れている。

婆さんの家に着き、ノックして名乗った途端にこれです。

一応家には上げてくれたけど俺は玄関で正座、婆さんはいつものマシンガンを構えている。


「…えーと…赤ずきんがだな、ちょっとショックな事があって引きこもってて、」

「要件だけ言いな!」

「赤ずきんの代わりに薬と手紙届けに来ました!!」


薬と手紙を差し出し、思わず外に逃げ出す。

だって今すぐ発砲しそうだったんだもん。

あの婆さんいつか発砲音のショックで心臓止まるって。マジで。

あと俺はいつか本当に殺されるって。マジで。


「…おいオオカミ!入っといで!」


しばらく扉を警戒していると、声と共に少しだけ扉が開いた。


「え…良いの?」


完全に警戒したまま扉をほんの少しだけ開ける。

隙間から見える婆さんは、マシンガンの代わりにさっきの手紙を持っていた。


「…あんた達が会った…『赤い靴』について、聞かせな!」


婆さんはいつも通り険しい顔だけど、少なくとも俺に殺意は向けていなかった。




とりあえず俺は『赤い靴』に会ったこと、何処で会ったのか、あとは逃げ切ったことも含めて、なるべく詳しく話した。


「ふん、よくもまぁ逃げ切ったね…しかし何だってこんな所に出たんだか」


手紙を見ながら婆さんが言う。

手紙は多分、赤ずきんの母親が『赤い靴』の概要だけ書いたのだろう。


「あ…それ赤ずきんも言ってた。『何でこんな所に』って」


確か逃走中にそんな事を口走っていた。赤ずきんには詳しく聞けなかったが。


「それどういう意味?」

「そのままの意味だ。奴が縄張りにしてるのは別の大陸だと聞く。…縄張りを拡げたと考えるのが妥当かね…」


ほう。大陸が違う…あれ、待って。


「『赤い靴』って大量殺人鬼なんだろ?」

「そうさ。指名手配もされてる筈だ」

「そんな奴がどうやって大陸渡るんだよ!?無理だろ!」

「私が知るかいそんな事!密入国やら何やら手段は幾らでもあるんだろうよ!」

「ぎゃぁぁごめんなさい!」


即座に銃を手に取った婆さんに秒で謝る。

駄目だ、いつものノリで突っ込み入れちゃったよ。

この人相手だと殺される可能性があるのに!俺の馬鹿!


「こいつは厄介だねぇ…ま、人が多い地域には来ないけどね」

「は?大量殺人鬼なのに?」

「奴は縄張りにしてる森なんかに迷い込んだ人間の足を切るのさ。街に出て来て片っ端から切っていく、なんてことはしない」


ふーん…俺らは『赤い靴』の縄張りに入っちゃったってこと?

縄張りなら、そう主張してほしい…いや、逆か。

奴は獲物が欲しいんだから、下手に主張して遠ざかられると本末転倒だ。


「…なぁ、婆さんが『運び屋(赤ずきん)』だった頃も、『赤い靴』って居た?」

「居たねぇ。勿論、あんた達が会った『赤い靴』とは別もんだろうが」


…じゃあ『赤い靴』も『赤ずきん』みたいに…一世代ごとにいる特定の人物を指す言葉か。


「あいつって…何で人の足切って回ってんの?」

「自分の足を探してるのさ」


…は?


「『赤い靴』の足は、靴ごとどっかに行ったんだろ…?」

「自分の足は誰かが持ってるって思い込んでるようだね。だから獲物の足を切って、自分の物かどうか調べてるんだよ」

「…」


怖ぇー…超怖ぇー…

『自分の足は誰かが持ってる』って何?

どういう思考回路になったらそうなるんだよ…サイコパスだよ…


「…え、じゃあ目的は『殺し』ではないの?殺しはただの『結果』?」


『赤い靴』の目的は『自分の足を探す』こと。

…大量殺人鬼の目的が殺しじゃないのって、凄い怖くない?

俺の言葉に、婆さんは首を傾げた。


「さぁね…それだったら足を切った後に放置しとくだろ?」

「してないの?」

「多くの場合は手や胴体や首も滅多斬りに…」

「あっ、もう良いです大丈夫」


聞くのをやめた。聞きたくない。想像しちゃうから。

既に想像しちゃって体温が5度くらい下がった気がするから。


「ルゥが目を付けられてなけりゃ良いけど。ま、崖から落ちたってんなら流石に諦めてるかねぇ」


婆さんは手紙を机の引き出しにしまった。

…今しれっと言ってたけど、『ルゥ』って赤ずきんの名前ね。


「…目ぇ付けられるとどうなるの?」


婆さんの視線が飛んで来る。


「…過去にも『赤い靴』に目を付けられた奴がいた。そいつは…何度も逃げ果せたが最期には『赤い靴』に捕まったよ」

「…」


捕まったら、どうなるのか。…聞かなくても想像がつくけど。




「全身バラバラにされて愛でられたらしいね」




サイコパスな奴は、本当に怖い。

婆さんの知ってる『赤い靴』と、俺の会った『赤い靴』は別モノ。

でも、多分俺の会った『赤い靴』も似たような奴だろう。

やっぱり二度と会いたくない。






「じゃ、俺戻るから。お邪魔しました」


話が一通り終わったので、さっさと退散することにする。


「さっさと帰りな!」

「何か言伝(ことづて)ある?」

「…」


数秒考えた後、婆さんが言った。


「レイラに…」


と、そこまで言って止まる。え、何??


「……やっぱり良い。お前に任せる言伝じゃないよ」

「あ、そう。無いなら良いけど…」

「レイラには良い。ルゥに伝えな」

「??」

「どうしても怖いなら『アイツ』に頼みな、ってね」

「…『アイツ』?…って誰?」

「良いからそのまま伝えな!」

「ぎゃぁぁぁごめんなさい!!」


婆さんのマシンガンが火を吹いたので即座に家を出た。


「次にお前1人で来たら殺してやるからね!!」


家の中からそんな声が聞こえた。

うん。俺も二度と単独では来たくない。次は死ぬ。

とりあえず赤ずきんの家に戻ろう。

…昼前に出発したのに、もう日が傾いて来てた。




「遅い」

「あれ?赤ずきんだ」


家に戻って、玄関先に出て来たのは赤ずきんだった。


「あんまり遅いからとうとう殺されたのかと思ったぜ」


赤ずきんは頭巾の代わりに毛布を被って、そのままずるずると引きずっている。

顔色は…悪くはないんじゃないかな。不機嫌そうだけど。


「俺だってこんなに長居するとは思わなかったっつーの…お前の母親は?」

「お買い物」

「あ、そう。おつかい完了しましたーって伝えといてくんない?」


居ないなら仕方ない。

別に待ってても良いけど、下手に家に上がり込むと赤ずきんの機嫌が更に悪くなりそうだ。


「…テメーで伝えろよ」


すると意外な答えが返ってきた。


「だっていつ帰って来るのか知らないし」

「多分そろそろ」

「そう?」

「…」


赤ずきんが睨んでくるけど、何を言いたいのかイマイチわからん。


「あ、そうだ。婆さんからお前に伝言」

「は?…何?」

「『どうしても怖いならアイツに頼みな』…だって」


すると赤ずきん眉間の皺が深くなった。


「アイツって…誰だよ」


伝わらないのかよ!


「知らんがな。そのまま伝えろって言われたからそのまま伝えたんだけど」

「いや…何人か思い当たる奴がいるけど…」


そう言って赤ずきんは黙る。

アイツって…つまり『赤い靴』をどうにかしてくれる誰か?

また仕事屋かな…そしたら『掃除屋(シンデレラ)』とかそうかも…?

あと、いつだか聞いた『退治屋』かな?誰だろう。


「…」

「…赤ずきん、苦虫を30匹くらい噛み潰したような顔になってるんだけど…?」


暫く考えていた赤ずきんが凄まじい表情をしていた。


「…まさかアイツか…?絶対、絶っっっ対、頼まねぇ…!」


思い当たる奴、いたのか。


「あんなのに頼るくらいなら自分で何とかする!」

「何とか!?赤い靴から逃げ切るつもり!?無理だわ!」

「それでもやるんだよ!じゃないとアイツに借りができる!それは死んでも避けたい!」

「そこまで言うほどの相手なの!?気になる!」

「あら?オオカミ君、お帰りなさい」


そこへ赤ずきんの母親が帰って来た。


「あ…どーも」

「おつかいありがとうね!何で立って話してるの?リビングで座って話せば良いじゃない」

「いや、良いよ。もう帰るし…あ、薬と手紙は届けたから」

「ありがとう!」


そう言って赤ずきんの母親は笑った。

うーん、信用ならない笑顔だ。


「赤ずきん、ご飯食べられる?」

「うん。もう平気な気がする」

「良かった!あ、オオカミ君も御夕飯食べて行って!」

「俺も?良いよ別に…」

「お小遣いの代わりよ。ね、食べて行って!」

「…お小遣い、ねぇ…」


恐らく、遠慮を重ねたところで強引に事を進められる。

俺は溜息を吐き出して、諦めた。

何か赤ずきんがぶーぶー言ってるけど気にしないことにする。

赤ずきんの母親は台所に引っ込んだ。


「オオカミ、明日からまた仕事だからな。ガンガン走れよ」


毛布を被った赤ずきんはそう宣告した。


「あっ、ハイ」


俺の束の間の暇は終わったようだ。


まぁとりあえず…赤ずきんが元気になったから良いか。



副題:『ちなみにお婆さんの名前はローザ。』



お婆さんの名前とか本編には絶対出て来ないと思う。

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