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17:赤ずきんと休日

赤ずきんの家から数時間。多分、この辺で1番都会の大きな街。

広場では市場が立ち並び、沢山の人が行き交っている。

今日は晴天。雲ひとつ無い青空で、太陽が眩しい。


「次はあっちだ。行くぞクソオオカミ」


「おい待てコラ。」


目の前にいるのは…『赤ずきん』じゃない赤ずきん。






「何だよ」

「何だよじゃねーよ。アイデンティティが崩壊してんだよ。」

「お前の?」

「俺じゃねーよ。お前だよ。赤ずきん被ってない赤ずきんって何だよ苦情来るわ」


この街に来るのは初めてじゃない。

街がデカいってことは人が多い。人が多いってことは、『運び屋』を利用する人もそれなりの数がいる。

OK、この街に来ること自体は別に問題無い。

…現在の問題は俺の両手が荷物で塞がってることと、目の前の赤ずきんが赤ずきん被ってないってこと。つまり。


「完全にオフじゃねーか」

「オフだからな」


「何でこのクソデカい街に来てんだよ」

「買い物だ」


「んで何で俺はそれについて来させられてるわけ?」

「荷物持ち。」


「ふざけんなコラァァ!!」


持ってた(持たされていた)紙袋を地面に投げ捨てる。


「あ!テメー武装してねぇ時に限って調子乗りやがって!」


赤ずきんがキレるけど、今日は引き下がる気は無い。


「何で、オフの日に、俺は、お前の、買い物に、付き合わされてんだよ!」

「どうせ暇だろ付き合え」

「オフの日くらい自由にさせろ!」


赤ずきんの仕事が無いって日は、実は結構ある。

忙しい日は1日に数件仕事入ってたりするけど、無い日は無い。

そういう時、俺は完全に解放されるはずなんだけど。


「良いじゃねぇか。この良い天気の日に賑やかな街をこの美少女と歩けるんだぜ?光栄に思えよ」

「その尊大さは何処から来てんだお前!?つーか何が良い天気がどうたらだ!オフなら家に引きこもるような奴が!!」


赤ずきんはオフの日、家から出ない。

いや、出てるのかもしれないけど、少なくとも俺は見たこと無い。

あ、この言い方だと誤解されそう。俺、別に赤ずきんのこと四六時中監視してるわけじゃないからね?

ただいつ呼び出されるかわかんないからオフの日も警戒してるだけで…

ってかいつ呼び出されるかと警戒してたら1日が終わって、その日がオフだったって気付くっていうか…

赤ずきんの母親が「今日はお仕事無いわよー」って言ってくれる日もあるけど…

今日は恒例の「クソオオカミー!」って呼び出しが聞こえたから、仕事かと家に行ったら赤ずきん(アイデンティティ崩壊後)にいつものように走らされて…


あれ、話が逸れてる。そうだ、こいつが引きこもりって話をしてたんだ。


「お前人混み嫌いとか言ってなかった!?」

「嫌いだね!うるさくて仕方無ぇ!」


さっき俺が投げ捨てた紙袋を拾い、再び俺に押し付ける赤ずきん。

仕事以外では極力人混みに来たくないっていつもボヤいてるし、結構筋金入りの引きこもり体質なんだけど。


「じゃ何でわざわざこんなデカい街来たの!?」

「お母さんが『たまにはお買い物でもして来たらー?赤ずきんも年頃なんだからお洒落しなくちゃ!』って言うから!」

「いつもその台詞、スルーしてんじゃねーか!」

「たまには良いだろうが!」

「良いけど俺を付き合わせるな!!」


あーあ、これ端から見たら痴話喧嘩にしか見えないんだろうな。不名誉過ぎる。


「家からここまでどんだけ時間かかると思ってんだ!たまの買い物だから荷物も多くなるってのに!」


俺を指差す仕草に合わせて、暗めの栗色の髪が揺れる。


「それ完全にお前の都合じゃねーか!」

「うるっせぇな!飯代は出してやるんだから感謝しろ!」

「どんだけ上から目線なの!?つーか俺に支払いを要求されても金持ってないから!」


埒があかない。あかないけど、引き下がれない。

引き下がりたくないんだけど、疲れた。俺も、赤ずきんも。




「はぁ…スコル連れて来れば良かった…」

「何でだよ」

「癒し…あぁでもこんなデカい街来たら、あいつ卒倒するだろうな…」


結局、商店街を歩き出して買い物を再開した。


「荷物持ち増える分には良いけどなァ」

「お前スコルまで酷使してみろそん時はマジで殺す…!」

「けっ。ブラコン野郎が」


赤ずきんが盛大に顔をしかめるが今日は睨み返す。

仕事じゃない分、多少逆らっても良いと思うんだよね。


「つーか何なのこの荷物の多さ…何に気合い入れてんの?」


ふと、ずっと疑問だったことを聞いてみた。

こいつは何ていうか、あまり外見に頓着が無い。

まぁ『赤ずきん』の印象が強すぎるってのはあると思うけど、私服は地味め。着られりゃ何でも良いか、みたいな。

それが今日の買い物は服だの靴だのアクセサリーだの…余所行き、というか、デート服?勝負服一歩手前??

すると俺の問いに赤ずきんの顔がスッと真面目になる。




「良いか?今日のテーマは『もしも猟師さんとお食事に行くことになったら』だ。気合い入れてお洒落するしかねぇだろ?」




「テーマあったの!?何なのそのテーマ!?」




「猟師さんと並んで歩くなら子供っぽい物は着られない…かと言って大人っぽすぎると逆に背伸び感が否めないから、ちょっと良いトコのお嬢さん風でまとめるか、もっとシンプルで無難にまとめるべきか…!!」

「ああああスイッチ入っちゃった」


真剣な表情で語り出したと思えば、次の瞬間ころっと表情が変わる。


「猟師さんって森の中でしか会ったことないんだよなぁ…私服ってどんなのだろ?」


『ぽわわん』という音が似合うだろう。赤ずきんは夢見る表情で宙を見つめ手を組む。

お前の表情筋と声帯どうなってんの。


「幸いにして軍資金はある…!是非とも真剣にデート服をコーディネートしなければならない!!」

「もう思いっきりデート服って言っちゃってるし口調もキャラも変わっちゃってるしツッコミめんどい」

「諦めないで!」

「うるさいよ。お前今日のテンションどうなってんの」


何だろう。猟師が絡むと赤ずきん暑苦しいんだよ。

今だって全力で俺に猟師の魅力を熱弁している。おっさんの魅力を語られても俺にはわからない。


「ふん、猟師さんの大人の魅力がわからんクソが…行くぞ。次は向こうの店だ!」


ふん、と言ってから赤ずきんはズンズンと洋服店に向かって行く。

喚いたところで結局俺に逆らう術は無い。

溜め息をついて、フードを被り直し、俺は赤ずきんの背中を追った。






昼時を過ぎた頃。

俺は広間の端っこのベンチで座り込んでいた。

『女の買い物は長い』って言うけど、あれはマジだ…!!

赤ずきんは屋台で昼飯を物色してるけど、食べ終わったら買い物が再開されるに違いない。

重い荷物は無いけど如何せん嵩張る物が多い。邪魔。


「何で女ってこんなに買い込むのかなぁ…?」


溜め息に混ざってそんなことを呟く。


「女の(サガ)ってものよ。それにしても、凄い荷物ね?」

「!」


独り言のつもりだったのに、背後から返事が聞こえてきた。


「は…凄いだろ。午前中でこの量だぜ?」


声の主を確認すると、丁度人間体の俺と同じか少し上くらいの歳っぽい女がいた。


「彼女、容赦ないのね」


ベンチの背もたれに手を置き、俺と目線を合わせるように屈み込む女。

美人…かな?人間の価値観がわかんないから何とも言えないけど、多分美人の部類。

赤ずきんとは対称的に派手めな格好。赤ずきんには無い色気。俺と目が合うとニコッと笑った。


「あー彼女じゃない彼女じゃない。えーと…妹みたいなもん」


とりあえず『彼女』の部分をしっかり訂正する。彼女だなんて!赤ずきんが彼女だなんて!

いや、あれが妹ってのも嫌だけど!


「そうなの?偉ぁい。理想のお兄ちゃんね」

「…君は?1人?」


適当に話を振る。


「彼氏と来てるんだけど、はぐれちゃって。ほら、この街すっごい広いじゃない?」

「あらら、御愁傷さん。目印になるようなトコにいれば会えるかもね」

「そう思って広場に来てみたけど、ここも人多いんだもん。疲れちゃう!」

「いやー女の子は男より体力あると思うけどねぇ」

「そお?」


彼氏探すのに飽きたから俺に話しかけたんだろうか。ま、良いや。俺も赤ずきん来るまで暇だし。


「良い買い物はできた?」

「えぇ!可愛い洋服もバッグも買えたから大満足!」

「そりゃ良かった」

「これからアクセサリーを見に行きたいんだけどぉ…」


女は着飾るのが好きだねぇ…人狼も人社会に混ざってる奴は、そうなのかな?


「ね、一緒に見に行かない?」

「は?俺?」


女の提案にぽかんとする。


「ちょっとくらい妹さんとは離れても大丈夫よ!ほら、はぐれちゃったら後で探すの手伝ってあげるし!」


笑顔の女。いや、早く彼氏と合流してやれよ。可哀想だよ彼氏。


「彼氏早く見付けてあげたら?」

「だってぇ、買い物長くなると機嫌悪くなるんだもん」


でしょうね。気持ちはわかる。俺はもう悟りの域だ。


「それに冴えないし…君のが格好良いわぁ」

「あ、そう。どーも」

「ね?良いでしょ、ちょっとだけ!」


嫌だよ。俺にメリット無いし。




「オイ何してんだテメー」




適当に断ろう、と思ってたらいつの間にか目の前には赤ずきんが。


「お、やっと帰って来た」

「え…」


若干戸惑ったような女の声が聞こえる。まぁ無理も無い。赤ずきん目付き悪いもんね。


「昼飯買えた?」

「買った。行くぞ」

「え、買ったんならここで食べれば良くない?もしかして俺の分、無い!?」

「行くぞ」


俺の言葉を無視してズンズン歩いていく赤ずきん。手には紙袋があるので何かしらは買ったっぽい。


「ちょ!マジで俺の分無いの!?あ、俺もう行くわ。じゃーね」


急いで立ち上がり荷物を持って、女に一応声かけてから赤ずきんの背中を追う。

女がぽかんとしてたのは…完全に俺が赤ずきんの尻に敷かれてたからだろうか。




広場の中央には円形の噴水がある。

俺がいたベンチからぐるっと回って丁度反対側くらいの位置に来た頃、ようやく赤ずきんは足を止めて俺を振り向いた。


「テメー…」

「何だよ」


睨んでくるので睨み返す。


「何、一丁前にナンパしてんだテメー!街に来たからってはしゃいでんじゃねぇよ!」


言われながら紙袋を押し付けられる。


「はぁ!?…あ、良かった。昼飯あった」


紙袋の中にはホットドッグだかケバブだか、何かそれっぽい物と飲み物が入っていた。2人分。


「これ別にさっきのベンチで食えば良かったんじゃね?」

「時間短縮だ!歩きながら食え!んでテメーはもう女に話しかけんな!」

「はぁ?向こうから話しかけて来たんだけど!暇だったんだから話すくらい良くない!?」

「は!?お前逆ナンされたの!?マジで生意気だな!」


待って、何をそんなに赤ずきんは怒ってんの?

あとそれよりもわかんないのが、


「ちょい待ち、赤ずきん」

「何だよ!」




「『ナンパ』って何?」



「…」




その後赤ずきんが『ナンパ』に関して教えてくれることは無かったが、とりあえず怒りは収まったらしいから良いや。





副題:『オオカミの人間体=割とイケメン』


逆ナンされるくらいにはイケメン。

ただしオオカミは『ナンパ』という概念が無かった。


買い物回、続きます。

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