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15:掃除屋

「御機嫌よう。御命頂戴に参りました」




ゾッとするほど綺麗な笑顔の女が一言。




「…どう、やって…この場所を…」




ボスにも知らせていない隠れ家。


俺と、側近しか知らないこの場所への来訪者。




「貴方の知った事ではありませんよ」




表の護衛は、という言葉が喉で詰まる。


女が持ってる、血染めのナイフで一目瞭然だ。








「何か言い残す事は?」




「…」




殺される覚えは、有り過ぎて逆にわからない。


問題は『どうやってこの場所を突き止めたか』なのだから。




「…お嬢さん、何処で雇われたモンだ?」




「何処?」




女は不思議そうに首を傾げる。




「表の奴らは相当な手練れだったんだがなぁ…つーか、何も聞こえなかったぜ」




女が部屋に入って来る、その瞬間まで全く気付かなかった。


裏の世界に身を置いて長いが、ここまで殺気に気付かなかったのは初めてだ。




「外への連絡は不可能ですよ?」




「!!」




「電話線は勿論切ってしまいましたし…この一帯に電波遮断機を設置しましたので、連絡手段は無いと思った方が賢明です」




「…」




「それから貴方の異常に気付く可能性のある人物は全て消しました」




「何…!?」




「表にいたお2人…それから本部で待機しているお2人と別の仕事の最中でしたお2人」




「馬鹿な…!そんな事をしてみろ!ボスが黙っては…!!」




「それから組織の名簿」




「!名簿…?」




「名簿から貴方と部下達の記録を全て消させて頂きました。


…『組織には最初から貴方達はいなかったのですよ』」




笑顔で言われて錯覚しそうになる。


『いなかった』という言葉の説得力が恐ろしい。




「それから住民票、戸籍…ありとあらゆる記録から貴方達は消えました。


貴方達なんてこの世界にいなかったように」




「な…」




そんなに徹底して存在を消せるものか。いや、有り得ない。




「この御屋敷は『空き家』のはずなのですが…?」




全ての記録を消したのならば、この屋敷を買った記録すら無くなってる…!?


この屋敷は持ち主のいない、空き家ってことになってるのか!




「…!」




背筋が凍りつく。


普通の殺し屋ならばこんな事はしない。殺して仕舞い。


この異常とも呼べるやり方は…まさか、




「…掃除、屋…」




「あら。御明察です」




ニコリと女は笑う。




「…!!」




『仕事屋に手ェ出すとどうなるか、今度教えてやるから』




「あの小娘…!!」




あの時殺していれば良かった!銃弾が効かないからって、殺す手段なんざ幾らでもある!
















「あー、その人知ってるー。んーとねぇ、稼ぎ頭?なのよ?」


白雪姫はオオカミの手当てをしながら言った。


「ふーん。何やってんだ?」

「えーとねぇ…薬を売ってるのと?武器とー、不動産とー…」

「…」


白雪姫の口から飛び出す言葉に、オオカミは額を押さえている。


「人身売買は?」

「人身売買はねー!やってないの!ホントは!ボスさんがそういうの嫌いなんですって!薬もね、合法のやつよ!怪しいやつじゃないの!」

「私が会った奴はどっちもやってるっぽかったけどな」

「あー…お前がピンポイントで地雷踏み抜いて行ったやつ…」

「その赤ずきんちゃんが会った人が独自に、っていうか内緒で仕入れて売ってるみたい!」

「ボスに内緒で?」

「内緒で!」


口元に人差し指を立てて、楽しそうに言う白雪姫。


「白雪姫、何でそんな情報知ってんの…?」

「はい!オオカミ君、手当て終わったよ!」

「…アリガトウ」


にこにこ笑う白雪姫に、オオカミ引きつった笑みを返した。

まぁこの子の容姿と喋り方は一致してても、内容が全くそぐわないから気持ちはわかる。


「ふーん…」

「ボスはねぇ、どっちかって言うと良い人なのよ?富裕層から搾り取って貧困層を助けてるみたい」

「んー…」

「赤ずきんは何を悩んでんの?」


包帯が巻かれた手を少し動かしながら、オオカミは尋ねた。


「んーと…どこまで『サヨナラ』するか」

「ぎゃあああ!!」

「??」


咄嗟にオオカミが白雪姫の耳を塞ぐ。なかなかのファインプレー。
















「あの時『赤ずきん』を殺していれば、と御思いで?」




「!!」




女は此方の心を読んでいるかのように言う。




「そういう問題では無いのですよ。殺していれば良かったという話ではない」




女の笑顔に殺気は無い。




「問題なのは『仕事屋に喧嘩を売った』という一点のみ」




…殺気が無い?何故?この女はこれから俺を殺すのに?




「仮にあの時『赤ずきんを殺していた』としても、この結果は変わらないのです」




「ま…待て、手を出したとは言っても…威嚇しただけだ!」




「威嚇?殺そうとしたのは威嚇ですか?」




「あれくらいで…!」




「仮に『威嚇だった』としても、この結果は変わらないのです」
















「後はねぇ、内部分裂しそうなんだって」

「内部分裂…?」


オオカミが聞き返すと、白雪姫の瞳がキラリと光った。


「ボスさんを支持する一派とー、赤ずきんちゃんに喧嘩売っちゃった人の一派とで冷戦状態なの!

そろそろ組織全体が分裂しちゃうの!」


白雪姫はなぜか楽しそうな、興奮した様子で言う。


「んじゃあ、結構死人が出そうだなー…」

「あの場にいたの7人じゃん!あの7人だけ『サヨナラ』すりゃ良いじゃん!

ってか白雪姫にそんな話聞かさないでー!」

「え?なぁにオオカミ君??何でさっきから私の耳塞ぐの??」


ねぇねぇ、と白雪姫がオオカミの腕をぺちぺちと叩く。

オオカミの気持ちはわかるけど、とても残念だけど、白雪姫は聞き慣れてるから大丈夫だよ。
















女が一歩近付く。反射的に一歩引いてしまう。




「俺が手ぇ出したのは『運び屋』だ!お前じゃない!」




「くどいですね」




女の歩みが速くなる。




「対象が誰であろうと関係無いのです」




「ひっ…!」




銃を撃ったが、女には当たらず彼方に飛んで行った。




「貴方が『仕事屋を敵に回した事』と『これから私に始末される』という事実は変わらないのですから」




「た、頼む…助け……!」




足がもつれて床に転がる。


女の顔を見れば、やはり笑顔のままだった。



「それでは、      


















「…」


椅子に腰かけたまま、部屋の扉の方向を見る。


「御機嫌麗しゅう」

「…見慣れないメイドだな」


扉のすぐ近くで深々と御辞儀をするメイド。

メイドは数人雇っているが、このメイドは見たことが無い。

第一、夜の時間帯はメイドを働かせていない。SPを何人か付けているだけ。


「えぇ、お初に御目にかかります」

「…」


メイドは顔を上げて微笑む。…随分整った顔立ちだ。

一体いつからこのメイドは、部屋の中にいたのだろうか。


「…私に何か用かね?」


このメイドがSPの目をすり抜けて、誰にも気付かれず騒ぎを起こさずにこの部屋までやって来るのは…どう考えても不可能。

普通のメイドでないことはあまりに明白だ。


「少しばかり御耳に入れておきたいお話が」

「…」

「あぁ、そちらで結構ですよ。脚を悪くされていると聞いております」

「…」


椅子から腰を浮かせた私へ、柔らかに、しかしはっきりと『動くな』と言った。


「そうか…ではこのまま、聞かせてもらおうか?」


はい、とメイドは再び頭を下げてから口を開いた。



「御宅のNo.2を『掃除』いたしましたので、その御報告を」



「!?」

「それから関係者各位…合計で46名『掃除』させていただきました」

「…貴様!何処の組の者だ!?」

「何処?」


メイドから表情が消える。

否、笑顔のままだが、確実に目から表情が消えた。


「皆様、同じことを聞かれるのですね?」

「…」

「何処でも良いでしょう?…と言いたいところですが……彼が『仕事屋』に手を出した、とだけ」

「…あぁ…」


思わずこめかみを押さえ、溜め息を吐き出した。

そう言えば先日『運び屋』を利用した…荷物の受け取りは彼に任せていたが、まさか、そんな。


「そんな馬鹿な事を…」


『仕事屋に手を出した者は消される』。

そんなことは常識なのに。


「遺体は見つかりません。痕跡も。それから彼らの記録も存在しません。…後は人々の頭から記録を消すだけです。さぁ、忘れてしまいましょう?

あぁ…御希望であれば私が記憶を消して差し上げても良いのですけれど」

「…『掃除屋』か…」


そう呟くと、女はニコリと笑った。


「そうか、『消す』のは…君の役目なんだな」

「私以外にも何人かおりますが、そうですね。主に私が」


『運び屋』の手腕は素晴らしいものだった。

きっとこの『掃除屋』の手腕も、間違いないのだろう。


「そうだ、蛇足ですが」

「…?」

「私は、貴方のような考えは好きですよ。…是非、今後も貧困層の方々を救ってくださいませ」

「…」

「…どうか私が、私情で『掃除』をしたことは内密に…」

「…あぁ、そうしよう」


私も、この世から一切の記録を消されたあの男のような人間であれば、消されていたのだろう。


「それでは、夜分遅くに失礼をいたしました。私は、これで」

「…名前は?」

「はい?」


踵を返していたメイドは足を止め、振り向いた。


「名前を聞かせてはくれないか?」

「私の名前ですか…」


少し考えた後、メイドは微笑んだ。


「『エラ』です」

「…エラ…」




「そう、私は灰まみれのエラ……それでは、御機嫌よう」




メイド…『掃除屋』は丁寧に頭を下げて、今度こそ部屋を出て行った。


「…灰まみれ(Cinder)エラ(Ella)、か…」


深く息を吐き出し、緊張を解く。

所謂、裏の社会で生まれ育って、そういう人間に飽きるほど出会って来たというのに。




「『仕事屋』は、全くもって…異質な存在だな…」




握った右手が情けないほどに震えているのが、嫌でもわかってしまった。













「またねー!」


白雪姫が2人を笑顔で見送る。

赤ずきんがこれから誰に、何を頼むのか。大体の察しは付いてしまった。

あの女も、赤ずきんも嫌いだ。

オオカミは意外と好感が持てる。…少し怖いけど。

いずれにせよ…もしも白雪姫を危険な目に合わせるようなことがあればその時は僕達の手で


『仕事屋』を全員     。




副題:『モブの名前は付けない主義。』


あと街の名前とかも付けたくない。センスが無いから。



白雪姫と話してるのは12話と13話の間、シンデレラが動いてるのは14話の後です。

シンデレラが『エラ』と名乗りましたが、話によってはそういう名前が付いてるらしいです。


白雪姫と話している場面の語りはオオカミでもなく赤ずきんでもなく、小人達です。

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