第6話「そして、本当の家族として」
ふとしたきっかけで知り合い一緒になったマサと菜穂美。ヘタレのマサから稼業人マサへと一歩を踏み出して
いきます。
第6話
「そして、本当の家族として」
赤井電機の仕事は、辞めたが
メッセンジャーの仕事は続けて
いる。
昼間が暇になったが、いつも
菜穂美と乳繰りあっていても
しようがない。
俺は一念発起して剛柔流湊町道場
の門を叩くことにした。
話は、義兄の方からつけてもらう
ことになった。
今までにも、死んだ親父の伝で
旭真会に通っていたことがあった
が20代の頃の話である。
「剛柔流湊町道場」は、稼業の
若い衆も通う実戦フルコンタクト
空手と拳法をミックスした大変に
厳しい道場である。
義兄にも、
「マサよぉ。
途中でケツ割ったらあかんぞ」
と、釘を刺されたものである。
礼に始まり礼に終わる。
久しぶりの清々しい武道の風に
触れて俺は充実した稽古を送る
ことができた。
昔取った杵柄。
何度か通ううちに眠っていた俺の
中の獣が、目を覚まし始めたよう
だ。
「(♀)だ〜りん。
最近すごくマッチョになって
きたやん。
フフフ、惚れ惚れするぅ。
(スリスリ)」
以前と違い髪も短くし、若い衆の
ような頭にしている俺に菜穂美は
ご満悦のようだった。
義兄も、
「これやったら、ヘタレも直に
卒業やのぉ。
ガハハハハ」
と安心したようであった。
「マサよぉ。
おまえ、菜穂美と新婚旅行も
行ってへんやないか。
たまには、遠出してこいや」
と義兄が分厚く膨らんだ財布を
放ってよこしたのは、夏も終わり
そろそろ涼しくなってきた頃で
あった。
「(ひえっ!
何や、突然に)」
それに呼応して菜穂美も、
「(♀)お兄ちゃん、おおき
にぃ〜。
ねぇ、だ〜りん。
うち、南の島連れてってほしい
なぁ」
何やねん、目に星が出てるやない
か。
「義兄さん。
すんません、気ぃ使てもろて。
せやけど、南の島言うても
HawaiiかGuamくらいしか思い
つきませんけど」
「おお、Guamや。
Guam行ってこい。
向こうに兄弟がおるわ。
話つけといたるさかい一月ほど
行ってこいや」
「(♀)わ〜い。
だ〜りん、行こ行こ。
ついでに向こうで、式も挙げた
いなぁ」
俺は、時の流れに流されて肝心な
ことを何もしていなかったことに
改めて気がついた。
「菜穂美、すまん。
俺、おまえに何もしてへん
かったな。
よっしゃ。
向こうで二人だけで式、挙げ
よか。
義兄さん、すんません。
不調法な義弟で」
「おっしゃ、話は決まりや。
ほれ、これチケットと祝儀や。
マサぁ、パスポート持っとる
な?」
目も笑っている義兄であった。
い゛っ!
もしかして、また・・・
「Oh! No!
まな板 on the carpや!」
(一同、爆笑)
(^O^)(^o^)(^O^)(^o^)(^O^)(^o^)
「お〜い、美恵!
若い奴らも皆呼んできたれ」
「はいはい。
それとお酒やろ?
菜穂美ちゃん手伝うてくれ
る?」
「(♀)は〜い、お義姉さん」
「マサよぉ、わかっとるな?
おまえは、もう家族やねんぞ。
こら!
男のくせに何、泣いとんねん」
「そんなん言うたかて・・・。
ああ、義兄さんも泣いたはり
ますやん」
「ぼけぇ!
ほこりが目に入ったんじゃあ。
こるらぁ、美恵!
部屋の掃除ちゃんとやっとかん
かい!
マサに、要らんこと言われるや
ないか!」
「はいはい。
ちゃんとやっときます(笑)」
リビングは、明るい笑い声に
包まれた。
いつの間にか、部屋は若い衆で
一杯になった。
その中で一番年かさの坂井が
言った。
「これからは、一同叔父貴と呼ば
せていただきます。
よろしゅうお頼み申し上げ
ます」
「おお、坂井の言うとおりや。
今日、今の今からマサは身内や
からな。
みんな、よろしゅう頼むで」
金山のバリトンが部屋に響き
渡った。
「ほんまにヘタレのわしですが、
よろしゅうお頼み申し上げ
ます」
「くらぁ!
もう己のことヘタレ言うな。
ヘタレは、卒業じゃ」
吹き出した青木が坂井に、張り
倒された。
「坂井さん、坂井さん。
許したってぇな」
「はっ。
叔父貴がそう言われるのでし
たら」
儀式は終わって若い衆も部屋から
出て行った。
義兄が言った。
「マサよぉ。
チケットはオープンになっとる
さかい、いつでも好きな時に
発てるで」
「(♀)あっ!
このチケットファーストクラス
やん。
兄ちゃんおおきにぃ。
るんるん」
あかん。
また、菜穂美に『さとう珠緒』が
降りてきた。
「後は、二人で決めとき。
わしゃ、ちと出かけてくるから
のぉ」
義兄は出かけていった。
俺は部屋に入りPCを立ち上げて
Guam観光局のホームページを
開いた。
後ろに菜穂美が佇む。
「ホテル、どこがエエかいなぁ?
はに〜、どこがエエ?」
「(♀)うち、よ〜わからんから
だ〜りんにお任せ。
うふっ」
あかん。
完全に、『さとう珠緒』になっと
る・・・。
Guamと言えば旧友のマイケルが
いたなぁ。
確か、Gun Shooting Clubの
インストラクターしとったなぁ。
Michael Soul。
確か、そんな名前やった。
Guamに行って初めて実弾撃って、
あんまし頻繁に行くから
「Are you YAMASHIRO-GUMI ?」
なんて、言われたなぁ。
突然、ホームパーティーに招かれ
思い切り飲まされたバドを噴水の
ように吹き出したっけ。
思い出が蘇る。
「よっしゃ、アクティビティーの
豊富さでP.I.C.にしよ。
はに〜。
ダイビングしたことあるか?」
「(♀)ない〜。
でもぉ、してみた〜い。
そこ、チャペルあんの?」
「待て待て。
あかん。
カトリック以外はアカン言うて
書いとる」
「(♀)そしたら、1日だけ
カトリックなるわぁ」
「そないに、都合よぉ行くん
かいな?」
あーだこーだと二人でワイワイ
言いながらプランは決まった。
夕食の時、プリントアウトした
ものを義兄に見せた。
「よっしゃ。
後はやっといたる。
菜穂美、よかったのぉ。
シャブ中やったおまえが一丁前
に花嫁さんや。
マサも逞しゅうなって家族の
一員やしのぉ。
何や?
また、目にゴミ入りよったな」
義兄の目は潤んでいた。
強面の義兄であるが、意外と涙
もろいようだ。
後ろから菜穂美が抱きついて
きた。
台所では美恵姐さんがそっと目頭
にタオルを当てていた。
「家族」。
なんや久しぶりに聞く言葉や。
※この小説は、『フィクション』
です。
実在の場所を使用していますが
登場人物、団体は、全て架空の
ものです。
頼光 雅