第30話「マサと龍二『侠気(おとこぎ)』」
第30話
「マサと龍二『侠気』」
俺達の乗ったリムジンが
HILTON GUAM RESORT & SPAの
車寄せに着く。
そこには、妻真由美を従えた
伊達の兄弟が両手を広げて待って
いた。
「いゃあ、兄弟。
お呼びだてして申し訳ない。
ようこそ、ヒルトンへ」
「これは、兄弟。
暑いのに玄関先で待っていて
くれはったんですか?」
「根がせっかちなもんでね。
そろそろ来る頃だなと見に出て
来たところさ。
ここの『ロイズラウンジ』は
うまい酒がたくさんある。
『ロイズレストラン』も昨日
食いに行ったけど、なかなか
旨い。
さあ、どうぞ」
「恐縮です。
さぁ、菜穂美行くで」
挨拶もそこそこに俺たちは空調の
よく効いたラウンジへと入って
いった。
「志水の叔父は、所用で失礼する
が、くれぐれもよろしくとの
ことです。
また、義兄の方からもくれぐれ
もよろしくと言うことです」
「叔父貴も一緒にと思ったが
お忙しそうでなによりだね。
そうかい、そりゃあご丁寧に。
兄弟、改めて俺の酒を受けて
くれるかい?」
「もちろん、喜んで受けさせて
いただきますよ」
「兄弟。
なんぼ叔父貴に五厘預けたと
言っても五分の兄弟。
堅苦しいのはなしにいこうぜ」
「ありがとうございます。
手前が勝手に言っていること
です。
せやから、気にせんといて
下さい」
「そうだ。
その関西弁がいいぞ。
標準語で言われるよりいい」
伊達の兄弟は、懐も深いさっぱり
とした男のようだ。
改めて俺たちは、乾杯をした。
菜穂美が俺の左腕にさり気なく
腕を絡めてくる。
「ところで、兄弟の奥さんは耳が
ご不自由やと聞きましたが?」
「そうなんだ。
妻と言っても2度目の妻なんだ
がね」
と、真由美に軽くウィンクを
送る。
「よかったらお話聞かせて下さい
ませんか?」
「ああ。
自慢も何もないさ。
横須賀の駅前でチンピラに
絡まれている女学生がいたと
思いねぇ。
その女学生言葉が話せなくて
チンピラが逆上しよってな。
あ、こら危ないと出て行った
のが知り合ったきっかけさ。
俺も面食らったよ。
手話で礼を言われてさ。
手話、わかるかい?
兄弟。
俺も生まれてこの方、手話
なんてものに縁がなくてさ、
その子に教えてもらうことに
なったのさ。
その教えてくれたのが、この
真由美ってわけよ」
俺に話をする間も伊達の兄弟は
妻真由美にも話がわかるように
手話を駆使していたのだった。
「極道が手話で女学生とデート
しているうちに、いつの間にか
こうなっちまったと言うわけ
でね」
「(♀)よいお話しを聞かせて
いただきました。
うちがこの人と知り合ったんは
出会い系サイトでした」
横から菜穂美が口を挟む。
「ほ〜。
それこそまた瓢箪から駒です
なぁ。
おっと、これは失礼」
「(♀)いえいえ。
かましません。
事実ですよって。
うちはね、この人のおかげで
シャブっちゅう地獄から這い
上がることができましてん」
「兄弟、一つ付け加えさして
もらいまっさ。
こいつ、こないなこと言います
けどシャブやりながらも人間
だけはやめへんかったんです
わぁ。
今では、よ〜できた嫁で夫婦
漫才のええパートナーでっせ」
精悍な伊達の兄弟の顔がふと
優しくなった。
「そうだな。
男も女も収まるところに収まる
と、どちらも今までにない輝き
が生まれるんだな。
兄弟も菜穂美姐さんもそんな
輝きが見えるぜ」
「ああ、さすが伊達の兄弟。
ええこと聞かせてもらいまし
た。
ほんまに、その通りやと思い
ますわぁ」
何を思いだしたのか、菜穂美が
横で涙ぐんでいる。
真由美も龍二の手話で話の内容が
理解できるので涙ぐんでいる。
「こらぁ、菜穂美。
何、涙見せとんねん。
話が重うなるやないか
(涙声)」
「(♀)あんたかて泣いてる
やんか。
伊達はん、すんません」
「いやいや。
兄弟も菜穂美姐さんも二人は
結びつく運命だったと言うこと
だよ。
俺と真由美がそうであった
ようにね」
そう、運命の赤い糸。
幸運にも俺たちはその両端を
しっかりと掴んでいた。
多少の回り道はあったが。
「兄弟。
俺達、男というものは所詮
身勝手で孤独なもんだ。
それをしっかりと支えてくれる
女房がいる。
俺達は、幸せもんだよ。
真由美にも色々と苦労かけ
とるが、それは苦労ではないと
こいつは言う。
俺は、思うんだ。
人を愛すると言うのは相手の
ことを忘れてはいけないと
言う事だとね。
例え、どちらかが先に三途の
川を渡っても残された者は
愛する人のことを絶対に忘れず
いつまでも思い続けてやる。
それが愛だとね」
俺と菜穂美は、伊達龍二と言う
男の懐の深さ、人間の大きさに
触れることができたと感じた。
さすがに関東にこの人ありと
言われるだけのことがある。
俺でも、こんな大きな人間に
なることができるのか?
と今更ながら考えさせられた。
「伊達の兄弟。
わし、ほんまに兄弟と知り
合えてよかったですわぁ。
これからも色々と教えたって
下さい。
よろしゅうお頼み申します」
「教えるも何も、五分の兄弟と
言っただろう?
そんな、堅苦しいことは抜きで
お昼にしようぜ。
ここの料理はいけるんだぜ。
な?
真由美?」
微笑みながら、真由美が頷く。
俺たちは、ロイズラウンジを出て
ロイズレストランへと向かった。
〜第2章
「横須賀ベイブルース」へ
・・・つづく。
To be continue
※この小説は、『フィクション』
です。
実在の場所を使用していますが
登場人物、団体は、全て架空の
ものです。
☆この小説の著者は「わたし」
です。
著作権は「わたし」にあり
ます。
頼光 雅




