第10話「ラムちゃん?登場?」
二人を温かく迎えてくれた志水の叔父貴夫妻。
え?姐さんの特技って何なんすか?
第10話
「ラムちゃん?登場?」
「ほなら、衣装合わせに行き
ましょか。
ここは、アメリカですよって
紋付き袴とか文金高島田とかは
おませんけど堪忍でっせ」
「いやいや、そんな」
俺は慌てて手を振る。
「(♀)文金高島田も、憧れ
やってんけど・・・」
これ。
いきなり何を言い出しよんねん、
このオナゴは。
「ははは、どうしても言いはるん
やったら嫁が持ってきたやつが
おますけど、うちの嫁はデブ
ですよってなぁ。
奥さんに合いますかどうやら。
ははは」
「ビシッ!!」
「痛っ! なんや飛んできました
わぁ。
悪口言うたら罰当たったんか?
それとも?」
びっくりしたぁ。
ほんまに
志水の叔父の頭の上で光線が
閃いた。
「(♀)あ!
これきっとラムちゃんの電撃や
わぁ」
志水の叔父がボソリと呟いた。
「知らんかった。
うちの嫁『うる星やつら』
やったんか」
一同大爆笑である。
関西人のノリはここGuamでも
生きているようである。
全窓フルスモークのスーパー
リムジンは、現地の人には珍しい
光景ではないようだが、日本人
カップルは皆珍しげに振り返って
いく。
突然、リムジンが止まった。
「ボス。
ちょっとすみません」
突然、ジミーが車から降りて
いった。
何やら日本人グループに言って
いるようだ。
戻ってきたジミーに俺は聞いて
みた。
「どないしたんですか?
なんぞあったようには見えま
せんでしたけど?」
「代わりに、わてがお答えします
わ。」
志水の叔父が続けた。
「あそこはね、市民の憩いの場
ですねん。
そこでゴミ散らかして騒いどる
子らがおったんで注意しに行き
よったんです。
こいつ、心底この島を愛して
ますんでね。
ルールを守らんやつは許せんの
ですわ。
堪忍したって下さい」
「(♀)ジミーちゃん、格好エエ
よ。
ね?
だ〜りん」
「間違ったことしてる輩に注意
すんのは当然です。
気ぃつきませんでした」
ジミーは言った。
「あんな子達でも国の未来を
背負ってます。
しかし、間違いは間違い。
ちゃんと教えるのは我々大人の
勤めです」
志水の叔父は満足げに頷くので
あった。
道徳心を無くした子供達。
責任は、我々大人にあるんやと
俺は改めてジミーに教えられた
気がした。
車は、ビクトリア・ロードに入り
ある白亜の店の前で止まった。
「ああ。
あっこにうちのラムちゃんが
待ってますわぁ」
志水の叔父が言った。
目を向けると、どこがデブや?
そら志水の叔父さん、失礼やわと
言う出で立ちの婦人が店の前に
佇んでいた。
「浜田はん、嫁の和美です」
「初めまして。
志水和美と申します。
奥さんに気に入っていただけ
そうなんを、なんぼかご用意
してますので見ていただけ
ます?」
「(♀)初めまして。
浜田菜穂美です。
この度は色々とお世話になり
ます」
女は、女同士。
すぐに、うち解けたようである。
一緒に店へ入ろうとした俺を
志水和美が優しく遮った。
「菜穂美さんのご衣装は、明日の
お楽しみと言うことで。
ご主人のものは別にご用意して
おりますので」
「浜田はんは、こちらの扉から
どうぞ」
志水の叔父に促される。
和美さんが店の扉を潜る時に振り
向いて言った。
「あんたぁ。
また、うちの悪口言うたやろ?
帰ったらお仕置きやからね。
菜穂美さん、男は甘やかしたら
すぐ調子のりますよってね。
ほな、行きましょか」
「うわっ、怖っ!
かーちゃん、堪忍やで」
う〜ん、良き哉良き哉。
何か、理想の夫婦像を見る思い
だ。
俺は、志水の叔父と別の扉から店
に入っていった。
「この店は、和美に任せてます
ねん。
お気に召す衣装が必ずあると
思いまっせ。
ああ。
それは、あきまへん。
その辺はどうでもエエぼんくら
用です。
ささ、こちらのタキシード
なんぞどないです?」
渋いシルバーの襟のタキシードを
手に取った。
「これねぇ、裏地着いてます
ねん。
ほれ、どないです?」
「(うわっ、昇り竜や!)」
「これなんかも渋いでっせ」
「(鯉の滝昇り・・・)」
「これなんぞ、どないでっか?」
「(風神雷神かよ・・・)」
結局、志水の叔父の超お薦め
「昇り竜」にすることにした。
「この上着はねぇ、仕掛けがおま
してな。
後ろから見たらうっすらと柄が
見えますねんで。
わははは」
「(とほほ。
それは、それは)」
隣の部屋で菜穂美がキャイキャイ
言う声が聞こえる。
俺の衣装は、すぐに決まったが隣
では難航しているようである。
「オナゴちゅうのは、いくつに
なっても困ったもんですわぁ。
浜田はんも気ぃつけなはれや」
「バシッ!」
おっと、また電撃が飛んできた
ようだ。
「ホンマ、よう言わんわ。
また電撃や」
志水の叔父が首筋を撫でる。
隣の部屋から声が届く。
「あんた。
帰ったらほんまにお仕置きや
からな。
覚悟しときや」
志水の叔父と二人で顔を見合わせ
て笑った。
「お仲のよろしいことで羨ましい
限りです」
俺は微笑んだ。
扉が開いて和美さんと菜穂美が
入ってきた。
「あんた、いらんこと言わんとい
てやぁ」
和美が開口一番志水の叔父を
睨んで言った。
「(♀)だいぶ、悩んだけど
決まったで。
最後は和美姐さんのお薦めに
さしてもうた」
「すんません。
お手数かけました。
よかったのぉ、菜穂美」
俺たちは、和美さんに礼を言い
ホテルへの帰途についた。
「(♀)だ〜りん?
うち、泳ぎに行きたいわぁ」
志水の叔父が優しく言った。
「奥さん。
今日は一日我慢しときなはれ。
そでないと明日、せっかくの
ウェディングドレスが痛うて
着れんようになりまっせ」
「(♀)え?
ほんまですか?
それやったら、大人しいしと
こっと」
「その変わりDuty Free Shoppers
行ってきなはれ。
エエもんがよ〜さんあると思い
まっせ」
「そやね。
そないしょ。
菜穂美、エエな?」
「うん。
だ〜りんとお買い物お買い物。
るんるん」
あっ!
また、『さとう珠緒』が降りてき
よった。
「ほなら、浜田はん。
手前は、仕事片付けてきます
よってゆっくり買い物でもして
来なはれ。
すんまへんけど途中で下ろして
もらいますわ。
7時にホテルのロビーで。
晩飯一緒に食いましょ」
「は、わかりました。
お忙しいところ、すんません
でした」
「なんの、なんの。
おおぉ、ジミー。
後は頼むで。」
「Yes sir !」
「ほな、手前はここで失礼して
もらいまっさ。
浜田はんも剛柔流の有段者や
言うて聞いてまっけど、こっち
の方は銃社会ですよってねぇ
気ぃ付けて下さいや。
一応、ジミーには持たしてます
けど用心はしといて下さいや」
「はい、わかりました。
ご配慮ありがとうございます」
志水の叔父はリムジンが去って
いくのを確認してビルの中へ
消えていった。
※この小説は、『フィクション』
です。
実在の場所を使用していますが
登場人物、団体は、全て架空の
ものです。
頼光 雅