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東京砂漠  作者: 黒帯貴族
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東京砂漠 第2話

今日の小松は、この上なく機嫌が悪かった。


片思い中のバスケ部の三浦先輩とマネージャが付き合っていることが判明したことが一番の原因だが、親友の千佳子とつまらないことで喧嘩したことや中間テストの結果が予想に反して芳しくなかったことも拍車をかけていた。

一日で起こったとは思えないほど充実した一日だったのだ。


世界の全てが小松を怒らせるように動いているように感じた。

信号機は、一番腹立たしいタイミングで赤になり、車、バイクや自転車は常に小松の行く手を遮り、道行く通行人は小松をあざ笑うかのようにニヤニヤしていた。

こんなロクでもない日は、速やかに帰宅し、自分の大好きな漫画やお菓子に囲まれて過ごさなければ、小松の繊細な豆腐メンタルが蝕まれてしまう。

小松は、ある種本能的にそう判断し、いつものように寄り道もせず家路を急いでいた。


自然と早足になる。ずんずん歩く。私はキャタピラ。総理大臣が来たって、ダースベーダーが来たって私は止まらない。


その瞬間。

突如女が小松の視界に侵入して来た。

「すみません。ちょっといいかしら。」


早速進路を妨害されて停車させられた小松キャタピラの怒りは、一気に次のステージに入った。


女は、小松の返答など構わず、小松ににじり寄りながら続けた。

「すみません。今、東京砂漠化問題についてアンケートを行っているんです。あなたは、東京の砂漠化についてどう考えるかしら?」


「すみません。急いでいるので・・・」

小松は、ぶっきらぼうな低い声でつぶやき、その場を立ち去ろうとした。



が・・・


次の瞬間、女の右手は、がっしりと小松の肩を掴んでいた。

小松は思わず、女の顔を見た。


女の表情は全く変わっていなかった。

笑顔のお手本のような柔らかい表情を固定させて、小松を見ていた。

小松は背筋の体温が下がっていくのが分かった。


女は明らかに異常な表情だった。

まるで人間ではない何かほかの高等生物が、人間の笑い方を真似たような、カタコトの笑顔だった。

目の前で幾百もの爆発が起こっても微動だにしないような笑顔。


「東京の砂漠化のことについてです。」

女は再び小松に問いかけた。

NHKのアナウンサーが原稿を読み上げる時のような公的な感じの声だが

そこには、人間的な温かみといったものは皆無の温度のない声だ。


小松は足が震えだした。

逃げなきゃ・・・この女の人、何かおかしい

女は小松に話しかけた。

「とても重要なことなの。この東京にとって、そう小松さん・・・あなたにとってもね」




「離してください!」

小松は、女から距離をとろうと必死の抵抗を試みるが、華奢な見た目に反してまるで鉄の柱のように微動だにしなかった。


女の表情は笑顔のままだ。


「いきなり話しかけてしまってすみません。どうか、落ち着いて話を聞いてください。怪しいものではありません。あなたは今あまりにもナイーブになりすぎているわ。」


「離してくださいよぉ」


「もちろん、話すわ。私たちはあなたに多くの事案を伝えなければいけません。あなたは今重要な岐路に立っているのです。わたしの言うことを聞かないとあなたは・・・」


「離してぇ」


「これはあなたにとって必要な」


「離せ・・・よ」


「砂漠化はあなただけの問題ではないわ。

もし・・・

そうね、「もし」だけど小松さんがお話を聞かせてくれないというのなら

私、いいえ、私たちはありとあらゆる手段で、小松さんを破壊するわ。」



キチガイ決定!



私はこのキチガイ砂漠化女を倒して逃げる!

手段は選ばない!

ありとあらゆる手段でこのおばはんから逃げたる!


小松は、悲鳴と雄叫びをミックスさせたような奇妙な音声を口から発した!


混乱した頭のまま、小松は学生カバンをむちゃくちゃに振り回しながら、バカみたいに女を蹴った



とりあえず蹴った。女の笑顔は消えない。


女は、まったくの無抵抗だった。そして夢中で逃げようともがいた。

絶賛攻撃中の小松に無神経にも女は話しかけてくる。

「砂漠化についてどう思いますかア?どう思いますかア?」



小松は恐怖のあまり頭がおかしくなりそうだった。


その時である。


突然女の笑顔が消えた。




?「頭冷やせよキチガイ!」



小松の目の前がぐにゃりと変形した。遅れて横顔にパンと衝撃が来た。


水だ!


気づけば哀れな二人は、閑静な住宅街のど真ん中でびしょ濡れになっていた。


「冷たい」


小松は大量の水しぶきを浴び、正気を取り戻したのか、比較的冷静な意見を述べた。



だが、女のリアクションはそれ以上だった。

「ァアアアッ!!」


この世の不愉快をまき散らしたような鳴き声を発し、

掴んでいた小松の肩と腕を振り払い、無表情な顔で後ろを振り返った。


小松も訳が分からず、女の視線の先を見た。



見た。




あら?




そこには、背が高く、黒水晶のような高級感あふれる瞳の男子高校生が立っていた。



「三浦先輩!」

小松の絶叫!


そう、あこがれの、バスケ部のエースの、片思い中の、(可愛い彼女がいる)、三浦先輩だ!

左手に横の家から拝借したホースを持ち、庭に水を巻くように砂漠化女に優雅に水を放っていた。


ジョバジョバと生き物のように水が、砂漠化女の顔面を捉えている様子を見ていると、さっきまでの恐怖が次第に引いていき、同時におかしさがふつふつとわいてきた。



その三浦先輩、鮮やかに言い放つ

「なあ、小松?怪我はないか?そいつキチガイだよな?」



「うん(^-^*)そうだよ」


「待ってろ。助けてやるからな。」

この三浦先輩の言葉で、小松の中のすべてが崩壊した。


最悪の一日は、最高の一日へ

イライラはロマンテイックに

きれいなマネージャーの彼女は、薄汚れてびしょびしょな小松直子に

全てが塗り替えられてしまった。



至福。今私はこの言葉の意味を理解した。


夢って叶うもんなんですね!しかもこんな突然に!(東京 15歳高2 女)


溢れてくる勇気、今ならなんでもできそうだ。


ひゃっほーい


さ、この女を愛の力で滅ぼしてやる。




その時、とんでもない爆発音が鳴り響いた。

三浦と小松は思わず身をすくめる。


女は意地汚くうすら笑いながら言った。

「実行支配の時がきたわ。首都東京は砂漠になります!

・・・終りね。あんたたち!」


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