09 三度目
不安で不安で不安で……。
魔女のお母さまが行ってしまわれてから、私はずっと窓辺にいた。
貴方がいらっしゃいますようにと祈りながら、またなと仰られた言葉を信じて外の世界をずっと眺めていた。
だから、その赤い髪が見えたとき、貴方のお姿が認められたとき、どれだけ安心したことか……!
「なんだ、出迎えとは熱烈だな」
からかうような口調も、軽い様子で窓辺に降り立たれる貴方に恥ずかしいとか、逃げ出したいと思う前に貴方に抱きついた。
「そんなに俺に会えなかったのが淋しかったのか?」
ぎゅうと抱き締めた私を、貴方は優しく迎え入れてくださる。その暖かさを全身で感じて、貴方がここにおられると言うことが本当だと実感させてくださった。
私は貴方の大きな胸にすがって、何度も頷いた。
貴方がいらしてくださるのが、何よりも嬉しいんですもの。
「今回はやけに素直だな……。おい、嬉しいと思ったなら笑え」
くいと顔を持ち上げられて、貴方が口元を引き上げながら仰る。
見つめ合っているのが少し恥ずかしくて、でも貴方が望むなら、貴方に気に入って頂けるなら、そうできたらな、と思うの。
顔が熱くなった気がしたけれど、上手に笑えたかしら?
「それでいい。俺はあんたのそれを見に来たんだ。まぁ……」
恥じらっていても俺は一向に構わないんだがな。
そう呟かれて、軽く触れられた。
何で? 貴方のソレで。
何処に? 私の、唇に。
あまりにも自然になさるから、私は動くこともできなかった。
「顔、真っ赤」
「!」
貴方の指先が私の頬を軽くつつく。はっと我に返って、慌てて貴方の腕から逃れた。
もう、どうしてそうドキドキさせるのかしら?
ドキドキしてるのは私だけなの?
少し離れた場所で、そっと振り替える。
貴方は口元を引き上げて、少し意地が悪そうに笑っていらしたけれど、その瞳はどこか優しく感じた。
貴方の金色の瞳にうつしだされているのが私だと思うと、胸が痛いほどドキドキしたけれど、嬉しいって思った。
ちょっと顔をそらしてから、恐る恐る貴方をまた見て……ピタリと止まってしまった。
みるみる厳しいお顔をされた貴方は、何を見ておられるの?
「なんだ、この、魔力の塊は……!?」
貴方が見ていらっしゃるのは、私の作業台?
慌てたように私の作業台に近寄られた貴方は、魔女のお母さまが置いていかれた色とりどりの人魚の髪を手に取り、私が作っている途中だったものとを交互に見比べていらっしゃられる。
どうしてそんなに驚かれているの?
「どういうことだよこれは!」
「それはあたしの台詞よ」
はっとして窓辺を振り返った。
そこには少し苛立った様子の、魔女のお母さまがいらっしゃっていた。