07 夢中
どうしてこんなときに鳴ってしまうのかしら……?
本当に恥ずかしくて、今度こそ顔をそらした。
どこかへ消えてしまいたかったけれど、貴方がぎゅうと私を抱き締めていらっしゃるからそれは叶わなかったけれど。
「なんだ? 本当に飯ですら食うの忘れてたのか」
どこか嬉しそうに声をあげて笑う貴方の腕の中で、私は恥ずかしくて小さくなった。
貴方のことを想うたびに胸が一杯になって、食べる気すら起きなかったのは本当だけれど、貴方にそれを知られるのは恥ずかしい。
どうしてこんなときに鳴ってしまうの……?
「それだけ俺に夢中なら、言うまでもなかったな」
一度強く抱き締められて、腕を解かれる。
自由になったのは嬉しいけれど、でも、どこか寂しいような気がした。
ドキドキはとまらないけど、でも、まだあの腕に抱き締められていたかった、なんて。
どうしてそんなこと思ってしまうのかしら?
「食べ物くらいはあるんだろう? 少なくとも、あんたをここに閉じ込めてる奴は殺す気はないようだからな」
勝手に私のお部屋で捜す貴方の言葉に、私はドキドキも忘れて貴方の背中を小さく叩いた。
「なんだよ? 勝手に触るなってか?」
違うの。そんなことが言いたいんじゃないの。
魔女のお母さまのことを悪く言わないで。
私の魔女のお母さまは悪くなんかないわ。
悪いのは、魔女のお母さまのラプンツェルを勝手に食べてしまった私のお母さま。
魔女のお母さまは何も悪くないの。いい方だもの。
そんな魔女のお母さまが私を殺すなんて、考えるはずないわ。
「俺の言葉が悪かったと? まさか、食べ物もないのか?」
ふるふる。
「じゃあなんだ? お前はこの後殺されるのか?」
ふるふる!
「…………閉じ込められてるわけじゃない?」
まさか、と言いたそうな貴方の言葉に頷く。
私は魔女のお母さまがここにいてと仰ったからここにいるの。
一人になるのは悲しいけれど、でも、例え外の世界へ行けたとしても、私はここに帰ってくるわ。
ここにいるのは、私の意志でもあるの。
「冗談だろう……?」
違うと、真っ直ぐ見つめて首を振った。
貴方が大きく瞳を見開くのを見て、貴方に信じてもらえないことが悲しかった。
魔女のお母さまを、貴方にも認めて頂きたかったの。
悲しくて瞳を伏せた私に、貴方が戸惑ったように言葉を探しているような気配がした。
そっと貴方の様子をうかがうと、困ったように前髪をくしゃりと握っていた。
困らせたいわけじゃないのに。
何かを伝えようと、動くことも出来なくて。そんな私を見て、貴方はそのまま窓辺へと歩み寄られてしまった。
お帰りに、なってしまうの?
「悪い……、ちょっと予想外だった」
慌てて貴方のもとへ歩み寄ると、貴方はニヤリと笑って私の頭を優しく撫でてくださった。
「そんな顔しなくても、また来てやる。お前は俺のものだからな」
ぐっと頭を引き寄せられたかと思うと、暖かな何かが額に押し当てられた。
暖かなと言うより、熱くて、柔らかな感触の……
「!」
「またな」
何をされたか理解した私に、貴方は満足そうに笑って外の世界へとお戻りになられてしまわれた。
この前はそれが寂しいことだと思ったけれど、今は何故かそうは思わないの。
忘れたようにドキドキし出した胸を静めるのに、忙しかったからかもしれないけれど。