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定年後に目覚めたら新人研修初日だった件~元課長の俺、現代知識で会社と美人社員をまとめて救います~  作者: いわん


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7/11

第7話:「早見真帆」との出会い。

審査部の朝は静かだった。

無駄な雑談はなく、キーボードの音と紙をめくる音だけが淡々と流れている。

――いい部署だ。

三十年前に欲しかった席が、今は目の前にある。

「相良さんですよね?」

声をかけられて顔を上げると、そこに立っていたのは、同期の女性だった。

背筋がまっすぐで、化粧は控えめ。だが、目が強い。覚えている顔だ。

――来たか。

将来、会社の看板になる女。早見真帆。

営業・企画・調整、どこに出しても結果を出すエース級。

今はまだ、本人もそれを自覚していない。

「はい。相良です」

名乗ると、彼女は一瞬だけ俺を値踏みするように見た。

その視線に、僅かな警戒が混じっている。

「……私は早見。早見真帆。同期です。よろしくお願いします」

簡潔だ。

余計な愛想はない。仕事の場では正解だ。

「よろしく」

それだけで、会話は終わった。

いや、彼女の中では終わっていない。

――この男、危険かどうか。

そう考えている顔だ。

午前中は、審査部向けの基礎研修だった。

案件資料を読み、問題点を洗い出す簡単な演習。

審査部の教育係が説明を終え、質問を募る。

「……一点、よろしいでしょうか」

俺が手を挙げると、空気が少し動いた。

早見が、ちらりとこちらを見る。

「この案件ですが、数値上は問題ありません。ただ、契約書三条の“努力義務”が曖昧です。ここ、後で揉めます」

教育係が一瞬黙る。

「どういう意味ですか?」

「相手が義務を果たさなかった場合、責任の所在が不明確です。実務では、この手の条文が原因で審査差し戻しになります」

教室が静まり返った。

それは、三十年前に実際に揉めた案件だった。

当時は俺も見抜けなかった落とし穴だ。

「……なるほど」

教育係は咳払いをして頷いた。

隣の席で、早見がメモを取る速度が、明らかに上がった。

昼休み。

給湯室で偶然、彼女と居合わせる。

「さっきの指摘、どうして分かったんですか?」

来た。

警戒から、興味へ。

「似た形の案件を、大学で研究してたので」

半分は嘘、半分は本当だ。

深掘りされない、ちょうどいい線。

「……普通、新人でそこまで見ません」

その言葉は、評価だ。

午後の演習でも、俺は淡々と要点を押さえた。

前に出すぎず、だが決定的な所だけ外さない。

気づけば、グループの結論は自然と俺の案を軸に固まっていく。

早見は、それを黙って見ていた。

「相良さんって……」

演習後、彼女がぽつりと言う。

「静かに仕事しますよね」

「そうですか?」

「ええ。目立たないのに、流れを握ってる」

――よく見ている。

同期の中でも、空気が変わり始めていた。

誰が主導権を握るのか。

誰が“使える側”で、誰が“使われる側”か。

まだ明文化されていない序列が、少しずつ、しかし確実に固まりつつある。

早見は、俺を警戒しながらも、無視できなくなっている。

それでいい。

恋愛でも、支配でもない。

まずは――

「仕事ができる男」

そう認識させるだけで十分だ。

三十年遅れの新人――元・万年火消し課長の俺は、静かに、同期という盤面を見渡した。

女エース・早見は、もう盤上にいる。

あとは、どう動かすかだ。


次回予告:

伝統という名の無駄を、Excelファイル一つで破壊する。

新人の「ちょっとした工夫」が、部署全体の空気を変え始めていた。

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