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定年後に目覚めたら新人研修初日だった件~元課長の俺、現代知識で会社と美人社員をまとめて救います~  作者: いわん


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3/12

第3話:全て知っている会社。

研修は午前で一度区切られ、昼休憩になった。

ざわめきとともに、新入社員たちが一斉に席を立つ。名刺交換の練習だの、志望部署の話だの、希望に満ちた声が飛び交っている。

俺はその流れに乗らず、壁際の掲示板の前で足を止めた。


組織図。

役員一覧。

主要グループ会社。

三十年前と、同じだ。記憶と重なる。

無意識に、組織図を指でなぞっていた。


この専務は、五年後に不正会計で辞任する。

この常務は、海外案件の損失隠しで飛ぶ。

この子会社は、十年後に粉飾発覚で吸収合併。

この新規事業部は、三年で消える。

この会社は、七年後、海外LNG案件で三百億を溶かす。

頭の中に、年表が浮かんでくる。


新聞記事。社内通達。謝罪会見。株価チャート。

全部、見てきた光景だ。

記憶を思い出し、背中にうっすら汗が滲んでいることに、そこで気づいた。


「どうしました?」

声をかけられ、振り向く。人事部の若手社員だ。まだ名前は思い出せないが、顔は覚えている。将来、採用改革で評価される人物だ。

「いえ。規模が大きいなと思って」

当たり障りのない返事をする。

「うちは総合商社ですから。配属で人生変わりますよ」

知っている。変わるどころか、折れる。

当たり部署。外れ部署。出世ルート。島流しルート。潰れる案件。跳ねる案件。

全部、記憶にある。

例えば、新人講師の鷹宮。あの男も、将来俺の評価を潰した一人だ。

俺は笑った。

「配属って、運ですか?」

「基本は適性と希望ですが……最後は上の判断ですね」

社内政治だ。昔と同じだ。

廊下の窓から外を見る。ビル街。車の流れ。看板。風景も一致している。


――つまり。


初期配置は同じだ。

だが、今回は、手番が違う。以前の「記憶」がある。


ポケットの携帯が震えた。着信ではなく、社内配布のスケジュール通知だ。紙ではなく、メール配信だったことを思い出す。まだ過渡期の時代だ。

午後のプログラム。新人テスト。その後、配属希望ヒアリング。

「配属希望ヒアリング」か。早いな、と昔も思った。

そして――ここで書いた第一希望が、その後の十年を決めた。

俺は失敗した。

「現場志望」と書いた。

結果、火消し専門の便利屋コースだ。

間違いではない。だが、主導権は取れない配置だった。

今ならわかる。

主導権を握るのは、

数字に近い部署。

契約に触れる部署。

投資判断に関わる部署だ。

つまり――審査、法務、リスク管理。

地味で、人気がなく、だが全案件に口を出せる場所。

そこに座れば、未来は全部書き換えられる。

「相良さん」

また声がした。振り向くと田島だ。

「飯、行きません?」

少し迷って、うなずいた。

有能だ。使える――そういう計算が先に出る自分に、少しだけ嫌気が差した。

彼は、救う価値がある。

社員食堂へ向かいながら、田島が言う。

「商社って、世界相手で夢ありますよね」

夢はある。

だが、契約書は夢を見ない。

「数字が読めないと、死ぬぞ」

俺は言った。

「え?」

「為替と与信と責任上限。この三つを外すと、どんな英雄でも飛ぶ」

田島は苦笑した。

「研修の続きみたいですね」

違う。これは遺言だ。

食堂のトレイを取る。メニューも価格も同じだ。懐かしい安さだ。カレーの匂いも変わらなかった。

席に座る。

ざわめきの中で、俺は静かに確信した。

俺はこの会社の未来を知っている。

倒産も。

不祥事も。

裏切りも。

出世も。

失敗案件も。

全部だ。

だから――選べる。

避けられる。

仕掛けられる。

箸を取る。

まずは配属だ。

最初の一手で、盤面を変える。

今回は、便利屋にはならない。

盤面を読む側に回る。

三十年遅れの新人――元・万年火消し課長の俺は、そこでようやく笑った。

ただし――未来は、知った通りには動かない。きっと。


次回予告:

新人テストで叩き出した異例の満点。

騒然とする会場の中で、俺はかつて俺を潰した無能講師・鷹宮を静かに射抜く。


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