第28話:次世代リーダー宣言。
呼び出しは、突然だった。
「相良くん、少し時間をもらえるかな」
社長室。
役員会の直後。
この並びで“雑談”は、ない。
部屋に入ると、社長は窓際に立っていた。
窓越しに、街を見ている。
高層階からの景色は、いつも同じだ。
だが、そこに立つ人間の立場だけが、違う。
「会社が、ようやく静かになった」
それが、第一声だった。
確かにそうだ。
派閥抗争は止まり、不正は消え、業務は回り始めている。
声の大きな反論も、感情的な噴き上がりもない。
騒音が消えたあとに残るのは――責任の所在だけだ。
「君が来る前」
社長は、振り返らずに続けた。
「この会社は、“頑張った人間”で回っていた。だが、頑張った人間から、先に壊れていった」
――痛烈だが、事実だ。
俺は、火消し課長として、その現場を何度も見てきた。
「今は違う。仕組みが回り、人が残る……それを設計したのが、君だ」
評価だ。
だが、賞賛ではない。
確認に近い。
俺は、何も言わない。
評価は、求めていない。
社長が、こちらを向いた。
「単刀直入に言う。君を、次世代リーダーとして指名する」
空気が、止まった。
役職名は、まだ出ない。
だが――
それ以上に重い言葉だった。
「経営の中枢に入ってもらう。意思決定の場に、常に席を用意する」
それは、権限の話であると同時に、逃げ場を消す宣告でもある。
「反対は?」
そう言われて、俺は初めて口を開いた。
「ありません」
俺は言葉を継いだ。
「ですが、条件があります」
社長の口元が、わずかに緩む。
想定内、という顔だ。
「聞こう」
「属人化は、拒否します。私がいなくなっても回る設計を、続けたい」
俺はさらに言葉を続ける。
「それから――敵も、増えます」
社長は、はっきりと頷いた。
「分かっている。だからこそ、君なんだ」
今度は社長が言葉を続けた。
「人気者ではなく、嫌われても、構造を壊さない人間が必要だ」
その瞬間、理解した。
これは、栄転じゃない。
前線への配置転換だ。
しかも、退路のない最前線。
「御堂は、どうする?」
「右腕として、残します。彼は、最前線を守れる」
「では、橘は?」
「監査と設計の要に。彼女がいなければ、均衡が崩れます」
一つずつ、盤面が確定していく。
人事ではない。
盤面への「駒」の配置だ。
社長は、静かに言った。
「もう、個人戦じゃない。君が動けば、会社が動く。それを、忘れないでくれ」
――忘れるはずがない。
その日の夕方。
社内ポータルに、短い告知が出た。
「経営体制強化に伴う、新リーダー層の任命について」
名前は、伏せられている。
だが、誰もが分かっていた。
廊下の空気が、変わる。
視線の意味が、変わる。
「次、どこを見るんですか」
「この判断、通りますか」
“相談”ではない。
“確認”だ。
御堂が、隣で小さく笑った。
「……完全に、景色変わったな」
「ええ」
「逃げ場、ないぞ」
「最初から、ありません」
その夜。
一人で、社内の明かりを見下ろす。
三十年遅れの新人――元・万年火消し課長。その記憶を持った俺は、気づけば、ここまで来ていた。
TUEEEE?
無双?
違う。
これは、責任が極点に達しただけだ。
権限。
権威。
影響力。
すべては、次の問いのためにある。
――この会社を、どこへ連れていくのか。
宣言は、終わった。
だが、物語は――ここからが、本編だ。
次回予告:
信頼で結ばれた仲間たちが、俺を囲み、支えることを誓う。
もはや揺らぐことのない最強の陣形が、今夜完成した。




