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定年後に目覚めたら新人研修初日だった件~元課長の俺、現代知識で会社と美人社員をまとめて救います~  作者: いわん


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24/25

第24話:誘いが、重なる。

不思議なことが起き始めたのは、不正調査が一段落してからだった。

まず、昼だ。

「相良さん、今日……空いてます?」

声をかけてきたのは、経理の佐藤だった。

以前、ブラック案件を止めたときに、何度も数字を一緒に洗った相手だ。

「ええ、大丈夫ですが」

「よかった。お礼、まだだったので」

その日の昼は、二人だった。

店は、ごく普通の定食屋。豚カツ定食が美味い定食屋だった。

だが、話題は自然と、仕事の続きになる。

「正直、あの案件のあと、夜ちゃんと眠れるようになりました」

佐藤は、そう言って箸を置いた。

「数字が怖くなくなったんです」

俺は、頷くだけだった。

余計な言葉はいらない。

次の日も、昼だった。

「相良さん、今週どこかでご飯行けません?」

今度は、人事の中村。

特別チームの評価制度を組み直したとき、現場目線を拾ってくれた人だ。

「この前の件、本当に助かりました」

「“守られた”って、初めて思えたんです」

彼女は、笑いながら言ったが、目は真剣だった。

断る理由は、なかった。

そして、気づけば。

昼も、夜も。

俺の予定が、埋まり始めていた。

「今日、橘さんとご飯らしいですよ」

「え、昨日は早見とじゃなかった?」

「白石も誘われてたって」

噂は、勝手に広がる。

俺の知らないところで、話は膨らんでいく。

だが、違う。

少なくとも、俺の感覚では。

誰も、“俺を囲いに来て”はいない。

ただ――話したいだけだ。

愚痴。

不安。

制度の隙間。

評価されない努力。

炎上しかけていた記憶。

仕事の話が九割。

残りの一割が、少しだけ個人的な話。それもたわいもない話。

それ以上、踏み込む者はいない。

踏み込ませない空気を、俺自身が作っているからだ。

「相良さんって」

白石が、箸を止めて言った。

「ちゃんと、聞いてくれますよね……否定しないし、軽くもしない」

「……仕事ですから」

そう答えると、彼女は少し笑った。

「……それが、できない人、多いんですよ」

早見の言葉は、誰よりも率直だった。

「正直さ」

「相良のとこ行くと、安心する」

「“何かあっても大丈夫”って思える」

それは、好意というより。

「避難場所」を見つけた人間の言葉だった。

橘は、誘い方すら違った。

「相良さん。今日、時間ありますか?業務外ですが、話したいことがあります」

食事中、彼女は仕事の話しかしなかった。

リスク、統制、判断基準。

だが、最後に一言だけ言った。

「あなたの判断基準は、一貫しています……だから、人が集まる」

それだけで、十分だった。

社内では、半ば冗談交じりに言われ始めていた。

「相良さん、女性陣から引っ張りだこらしいですよ」

「ハーレムじゃん」

俺は、笑わなかった。

否定もしなかった。

事実だからだ。

ただし――意味が違う。

好かれている、というより、“預けられている”。

この人なら、壊さない。

この人なら、逃げない。

この人なら、数字で誤魔化さない。

それが、連鎖しているだけだ。

TUEEEE?

たしかに、そう見えるだろう。

だが、俺は知っている。

人望は、力じゃない。

安全だと証明された場所に、人が集まるだけだ。

三十年遅れの新人――元・万年火消し課長。その俺は、ようやく分かった。

火を消す人間の周りには、

必ず――温度を下げたい人間が集まる。

そして、今日もまた。

新しい誘いが、スケジュールに一つ増えた。

盤面は、静かに。

しかし、確実に――人の側から、埋まっていく。

それが、いちばん強い。


次回予告:

属人化を排した、全社システムの刷新。

俺がいない未来でも会社が回り続ける「究極の設計」が、ついに実装される。

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