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定年後に目覚めたら新人研修初日だった件~元課長の俺、現代知識で会社と美人社員をまとめて救います~  作者: いわん


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22/23

第22話:社内派閥戦争からの離脱。

社内の空気が、目に見えないところで変わった。

音もなく、しかし確実に。

それに気づくのは、いつも現場だ。

会議の呼ばれ方が変わる。

同じ議題なのに、参加者が違う。

資料の回り方が、不自然になる。

――来たな。

社内評価ランキング。

ブラック案件の凍結。

特別チームの権限拡大。

これだけ揃えば、役員クラスが動かないはずがない。


発端は、非公式の打診だった。

営業部長が、苦い顔で言う。

「相良くん……一応、耳に入れておく」

「専務の東堂が、君を評価してる」

それだけなら、問題はない。

だが、続く一言で察した。

「その一方で、常務の久我が、面白くなさそうだ」

――やはり。

久我は、数字至上主義。

彼はこの会社で、数字だけで三十年を生き延びてきた。

短期成果を積み上げ、役員ポストを守ってきた人物だ。

一方の東堂は、システム畑。

中長期の再設計を重視する。

俺のやってきた改革は、明確に後者寄り。

つまり――

俺はもう、どちらかの陣営の駒として見られている。


数日後。

社長名義ではない、妙な会議招集が来た。

議題は、「全社改革における権限再整理」

――名目は整理。

実態は、主導権争いだ。

会議室には、役員クラスが揃っていた。

久我、東堂、三条。

そして、なぜか俺も。橘も御堂もいた。

「では始めよう」

久我が、口火を切る。

「最近の改革、確かに成果は出ている」

前置きは丁寧だ。

「だが、現場裁量が強すぎる。統制が必要だ」

分かりやすい。

俺の権限を、削りに来た。

「相良くん」

久我が、にこやかに言う。

「君は優秀だが、新人三年目だ。背負わせすぎるのは危険だと思わないか?」

――守るふりをした牽制。

政治の常套句だ。

俺は、すぐには答えない。

代わりに、資料を一枚出した。

「統制について、数字があります」

空気が、わずかに揺れる。

「改革前後でのトラブル件数」

「是正対応時間」

「役員決裁の滞留日数」

淡々と、事実だけを並べる。

「権限を現場に下ろした結果」

「役員判断が必要な案件は、三割減っています」

東堂が、小さく頷く。

久我の眉が、わずかに動く。

「統制が弱まったのではありません」

俺は、はっきり言った。

「統制コストが下がっただけです」

「……理屈だな」

久我が言う。

「ええ」

俺は頷く。

「ですが、派閥闘争は、理屈でしか勝てません」

一瞬、室内が静まり返った。

「個人に権限を集中させると、危険だ。わからんかね?」

三条が口を挟む。

「ですから、集中させていません」

俺は即答する。

「基準と数字に、つまり『システム』に集めています」

ここで、橘が資料を補足する。

御堂が、経営影響を整理する。

――盤面は、揃っていた。

最終的に、結論はこうなった。

特別チームの権限は維持。

ただし、定期レビューを役員直下で実施。

表向きは、久我の顔を立てた形。

だが、実質は――俺の影響範囲が、役員会まで届いた。


会議後。

東堂が、通り際に言った。

「相良くん」

「君は、派閥に属さない方がいい」

俺は、少し考えてから答えた。

「そうですね。属さないことにします。盤面の方に、立ちます」

東堂は、短く笑った。


その日から。

社内では、こんな噂が流れ始めた。

「相良は、どの派閥にも属してない」

「でも、誰も無視できない」

三十年遅れの新人――元・万年火消し課長。その俺は知っている。

派閥戦争で一番強いのは、一番声が大きい人間じゃない。

数字を握り、論理を置き、感情を使わない人間だ。

そして今。

その条件を、すべて満たしているのは――

俺だった。

盤面は、さらに高い場所へ移った。もう、現場だけの話じゃない。


次に動くのは、会社そのものだ。


次回予告:

数字の隙間に潜む、久我派の不正を摘発。

感情を排した「静かな証明」が、会社に巣食う闇を根本から引きずり出す。

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