第20話:社内評価ランキング1位。
社内評価ランキングが発表される日。
それは、毎年どこか落ち着かない空気が流れる。
評価は、数字だけでは決まらない。
実績、影響力、調整力、将来性。
そして――社内政治。
「今年は、波乱はないだろうな」
誰かが、そう言った。
新人三年目が話題に上がること自体、異例なのだ。
本来、この場に名前が出るのは、課長級以上。
よくて、次世代幹部候補――少なくとも、建前上は。
昼過ぎ。
全社ポータルに、ランキングが掲示された。
ざわめきが、遅れて広がる。
誰もが、最初は自分の部署の名前を見る。
次に、知っている上司。
そして――一位。
一瞬、画面が理解できなかった。
【全社評価ランキング 第1位】
相良恒一(審査部)
「……は?」
誰かが、素で声を漏らす。
次の瞬間、あちこちで同じ反応が起きた。
「新人……だよな?」
「三年目……?」
「え、課長じゃないよね?」
否定の声は、出ない。
驚きだけが、広がっていく。
理由は、全員分かっていた。
全社改革の起点。
特別チームの中核。
取引先交渉の主導。
不祥事の芽を、いくつ潰したか分からない。
「実質、全部やってるじゃん」
誰かが、ぼそりと言う。
評価コメントも、簡潔だった。
――「単独の成果ではなく、組織全体の成果を最大化した」
――「役職に依存しない影響力を持つ」
――「今後三年間の中核人材」
評価というより、宣言だった。
会議室。
上司たちは、静かだった。
誰も、異議を唱えない。
唱えられない。
――もう、数字で殴られている。
「……相良くん」
部長が、少し疲れた声で言う。
「おめでとう」
「ありがとうございます」
それだけで、十分だった。
その日から、明らかに変わった。
会議での発言が、止められない。
決裁ラインが、一段短くなる。
相談が、直接飛んでくる。
「相良さん、この判断どう思います?」
「最終的に、どう切ります?」
新人、という言葉は、もう使われない。
廊下で、誰かが言う。
「新人なのに、あの権限」
「いや、もう新人じゃないだろ」
早見が、苦笑いしながら言った。
「……遠く行きましたね」
「まだ、社内ですよ」
白石は、素直だった。
「でも、背中が見えません」
御堂は、遠くから一度だけ頷いた。
認めた、という合図だ。
橘は、いつも通り淡々としている。
だが、資料の最終承認欄には、迷いなく俺の名前が書かれていた。
――守りも、完全に固まった。
噂は、勝手に増幅する。
「社長直轄らしい」
「次の組織改編の軸だって」
「三年目で、ここまで来るか?」
どれも、半分は正しい。
俺は、浮かれない。
この評価は、ゴールじゃない。
“公式に盤面の中央に置かれた”だけだ。
三十年遅れの新人――元・万年火消し課長。その俺は、よく知っている。
評価が上がった瞬間から、本当に厄介な手が、打たれ始める。嫉妬から足元を狙うやつも出てくる。
だが、もう逃げない。
影響力。
権限。
尊敬。
すべてが、揃った。
――次は、この力で、何を動かすかだ。
盤面は、完全に俺の手の届く位置にあった。
次回予告:
現場を壊す「役員案件」という名の暴力。
人が死ぬ前に、俺はキャリアを懸けてそのブラックプロジェクトに立ち塞がる。




