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定年後に目覚めたら新人研修初日だった件~元課長の俺、現代知識で会社と美人社員をまとめて救います~  作者: いわん


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2/11

第2話:目を覚ますと、そこは新人研修会場だった。

目を開けた瞬間、空気が違った。


白い蛍光灯。ざわめく声。固いパイプ椅子。

鼻をくすぐるのは、新品のスーツと紙資料の匂い。


――会議室だ。


いや、違う。この配置、この広さ、この壇上。

新人研修会場。

ゆっくりと自分の手を見る。

皺がない。血管も浮いていない。

握ると、関節が軋まない。

腕を曲げる。軽い。

背筋を伸ばす。痛みがない。


――嘘だろ。


胸元の社員証を裏返した。

相良恒一。新入社員。

写真の顔が、若い。

二十二歳の俺だった。

心臓が一度、大きく鳴った。

鼓動がやけに速い。

スーツの袖口を引く。サイズが合っている。既製品の安物だ。

ああ、そうだ。初任給前に買った吊るしの一着だ。

ポケットを探る。スマートフォンはない。

代わりに出てきたのは、折りたたみ式の携帯電話。

画面は小さく、アンテナが付いている。

電源を入れる。日付を見る。

三十年前だ。

喉の奥が乾いた。

夢なのか。しかし、夢なら、ここまで具体的なはずがない。あまりにもリアルすぎる。

俺は自分の頬をつねった。

痛い。しっかり痛い。

若い体は、容赦なく反応した。


壇上では役員――あの無能講師、鷹宮恒一郎――が話している。

「当社は、挑戦する若者を――」

その顔を、俺は知っている。

十年後、海外子会社の粉飾で辞任する男だ。

間違いない。夢じゃない。

三十年前に戻っている。

隣の席の男が小声で話しかけてきた。

「緊張しますね。配属、どこ希望です?」

名札を見る。

田島。営業志望。

三年目で過労で潰れる男だ。

――営業は地獄だぞ。

思わず口から出かけて、飲み込んだ。

まだ言うべきじゃない。

未来を知っていることは、武器だ。無闇に振り回すものじゃない。

田島は気づかず笑った。

「営業、出世早いらしいですよ。最前線ですし」

ああ。最前線だ。最初に倒れる最前線だ。

この男の運命も、俺は知っている。

今度は、潰させない。


俺は資料に目を落とした。

新規海外案件モデルケース。

懐かしい。忘れるはずがない。

――この契約条文。後に大問題になる雛形だ。

為替変動リスクの条項が甘い。

保証条件が片務的すぎる。

俺は思わず苦笑した。

誰も気付かない。あの当時の俺も気づいてはいなかった。当然だ。新入社員が気づくことではない。

――まだ、誰も。だが、今の俺は――

無能講師、鷹宮が言った。

「では、グループに分かれて、グループごとに、この案件のリスクを三つ挙げてください」


会場がざわつく。

新人たちは必死に資料を読み始めた。

俺は躊躇いなくペンを走らせた。

――為替スライド条項なし。

――供給停止時の代替調達規定なし。

――責任上限が売上基準で無制限。

問題箇所の列記は、三分で終わった。


グループ発表の時間。

新入社員の皆が無難なことを言う中、俺の番が来る。

「致命的なのは三点です」

鷹宮の眉が動いた。

「為替条項が空白。供給断のバックアップ規定なし。責任上限が無制限。このまま契約したら、相手国の通貨危機で即死します」

会場が静まり返った。

鷹宮が資料を見直す。

ページをめくる。その手が止まる。

「……その指摘は、どこで?」

「実務想定です」

嘘は言っていない。

ただし、三十年分の実務経験があってこそ、だ。

鷹宮以外の、壇上の役員が、初めてこちらを見た。

新人を見る目ではなかった。

ざわめきが遅れて広がった。

後ろの席から小声が聞こえる。

「今の、そこまで読むか普通?」

「コンサル経験者とか?」

違う。ただの出戻りだ。

だが、この誤解は悪くない。

講師の鷹宮は、明らかに面白くなさそうな顔をしていた。

予定調和を崩される人間の顔だ。

鷹宮は笑っていた。だが、目は笑っていなかった。

覚えておこう。

この男は、組織内政治だけは異常に上手い男だ。用心に越したことはない。あの三十年で、嫌というほど学んだ。

しかし――

面白い。

同じ会社。

同じ舞台。

そして、俺の手札はまるで違う。「三十年分の実務経験」は伊達ではない。

俺はペンを回した。

――今度は、先に打つ。

初手は、悪くない。

ただし――未来が必ず同じとは限らない。

俺は、気を引き締めるのだった。


次回予告:

会社を救うには、まず主導権を握る場所へ。

地味だが全案件に口を出せる「審査部」への配属を狙い、盤面を操作し始める。


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