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定年後に目覚めたら新人研修初日だった件~元課長の俺、現代知識で会社と美人社員をまとめて救います~  作者: いわん


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18/22

第18話:対外交渉バトル。

交渉の席は、いつも静かだ。

声を荒げた方が負ける。

それを、俺は三十年前に嫌というほど学んだ。


相手は、主要取引先の担当役員。

条件変更を盾に、こちらに不利な契約改定を迫ってきていた。

事前の打ち合わせで、営業部長は一度だけ弱音を吐いていた。

「正直、今回は厳しい。去年、同じ相手に別部署が押し切られている」

その時の担当は、今も左遷されたままだ。

失敗すれば、損失だけじゃない。

特別チームの立場も、俺個人の評価も、まとめて揺らぐ。


「今回の件ですが」

相手は穏やかな笑顔で切り出す。

「御社側の負担を、もう少しお願いできないかと」

同席している営業部長が、わずかに身構える。

ここで断れば、関係悪化。

飲めば、損失拡大。

――よくある“詰み”の形だ。

「承知しました」

俺は、あっさり言った。

営業部長が、こちらを見た。

一瞬、言葉を失った顔だ。

――飲むのか?

そう問いかける視線。

だが、俺の声に迷いがないことに気づき、何も言わずに口を閉じた。

「では、条件を整理しましょう」

タブレットを操作し、画面を共有する。相手役員は、まだ余裕を崩していなかった。

また現場感情か、社内事情の説明だろう。

そう読んでいるのが、表情から分かる。

過去、同じ流れで主導権を握ってきた人間の顔だ。

現行契約。

変更案。

そして――小さく書かれた、条文の一文。

「第十四条、第三項」

俺は淡々と読み上げる。

「“取引条件の変更は、双方の合理的負担を前提とする”」

相手の眉が、わずかに動いた。

「今回のご提案ですと」

俺は数字を出す。

「合理的負担の定義を、超えています」

「それは、御社の解釈では?」

「ええ」

俺は頷く。

「ですが、過去三件、同条件での実例があります」

空気が変わった。

相手は、初めて資料に目を落とす。

ペンを持ち替え、椅子に深く座り直す。

さっきまで背もたれに預けていた体が、前に出た。

――交渉相手として、こちらを認識した動きだ。

営業部長が、喉を鳴らした音がやけに大きく聞こえた。

「さらに」

俺は畳みかけない。

あくまで、静かに。

「この条文を無視した場合、次年度以降、こちらは別条項を発動できます」

「結果として、御社の取引量は――」

数字を一つ、置く。

「確実に減ります」

沈黙。

壁時計の秒針が、一つ進む。

二つ、三つ。

営業部長が、息を止めているのが分かった。

ここでこちらが言葉を足せば、負ける。

交渉は、沈黙に耐えた方が勝つ。

これは脅しではない。

事実だ。

相手役員は、ゆっくりと息を吐いた。

「……なるほど。よく読み込んでいらっしゃる」

「仕事ですので」

心理戦は、もう終わっている。

相手は、引くしかない。

「では、こちらの負担増は最小限で」

「代わりに、別の条件で調整しましょう」

完全に、主導権はこちらだった。


交渉後。

会議室を出た瞬間、営業部長が小声で言った。

「……相良くん、いつからそこまで?」

「最初からです」

嘘ではない。

未来を知っているだけだ。

社内に戻ると、噂はすぐに広がった。

すれ違う課長たちの視線が、明らかに変わる。

今までなら、軽く会釈するだけだった相手が、足を止める。

「今度、うちの案件も相談していいか?」

そんな空気が、無言のまま伝わってくる。

上司たちは、評価を口にしない。

――もう、軽々しく扱えなくなったからだ。

「一発で決めたらしい」

「相手、何も言えなかったって」

御堂が、遠くからこちらを見る。

外部相手でも、主導権を取ったか。

そう読んでいる目だった。

警戒と評価が、はっきりと混ざっている。

盤面に乗った駒として、俺を見ている。


他の部署の上司たちは、何も言わない。

――言えない。

数字。

契約。

政治力。

すべてが、こちらの手の内にあると分かったからだ。

三十年遅れの新人――元・万年火消し課長、その俺は知っている。

交渉とは、殴り合いじゃない。

相手が「負けたと気づかない形」で、終わらせることだ。

そして今日。

社内外の序列は、静かに、しかし決定的に固まった。


盤面は、もう俺の読み通りにしか進まない。


次回予告:

鉄の女・橘綾乃がチームに合流。

監査の厳しい目が俺の「覚悟」を認めたとき、内と外の両面から改革が加速する。

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