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定年後に目覚めたら新人研修初日だった件~元課長の俺、現代知識で会社と美人社員をまとめて救います~  作者: いわん


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16/21

第16話:取引先トラブルを一撃解決。

トラブルは、ある朝いきなり表に出た。

「相良さん……例の取引先、契約の件で揉めてます」

営業部のフロアに入った瞬間、早見が駆け寄ってくる。

表情は硬い。だが、慌ててはいない。

それだけで、事態の深刻さが分かった。

「どの条文です?」

俺がそう聞くと、周囲が一瞬、静まった。

普通は「何が起きた?」から入る。

だが、原因はほぼ決まっている。

「第十二条……業務範囲の定義です」

「やっぱりですね」

取引先は、追加業務を無償で要求してきていた。

理由は簡単だ。

契約書の文言が、曖昧だった。

「付随する業務一式」

便利な言葉だ。

同時に、地雷でもある。

会議室に集められたのは、営業、法務、経理、そして俺。

画面越しに、取引先の担当者が映る。

「今回の追加業務に関して、契約上、御社は対応義務がありますよね?」

相手は、穏やかな口調だった。

だが、その目は値踏みしている。

押せば折れるか。

どこまで譲るか。

俺は、資料を一枚めくった。

「その認識は、途中まで正しいです」

空気が、変わる。

――否定から入らない。これは、交渉の基本だ。

「第十二条二項。ただし書き、読まれましたか?」

画面の向こうで、相手の視線が泳ぐ。

「“当初想定される業務量を著しく超える場合、別途協議とする”」

俺は淡々と続けた。

「今回の追加要件、初期見積の二~三倍です。これは『当初想定』を超える数字です」

「しかし、それは――」

「さらに」

俺は言葉を被せない。だが、逃げ道も与えない。

「第十五条。契約解除条件」

一拍置く。

「この条文、御社側の不履行にも適用されます」

沈黙。

法務が、息を呑む音が聞こえた。

「……それは、どういう意味ですか?」

取引担当者の声は、幾分か驚きが含まれていた。

「過剰な業務要求は、契約違反になり得る」

俺は淡々と答えた。

「その場合、弊社は是正要求、もしくは再契約を選択できます」

事実しか言っていない。

だが、相手にとっては想定外の「未来予測」を突きつけられた格好だ。

――このまま押せば、揉める。

――揉めれば、時間と信用を失う。

数秒。

画面の向こうで、担当者が小さく息を吐いた。

「……分かりました。条件の再整理をしましょう」

会議は、それで終わった。

一撃だった。

会議室を出た瞬間、空気が一変する。

「……すご」

誰かが呟いた。

「何も言い返せなかったな」

「相手、完全に引いたぞ」

俺は、資料を閉じる。

特別なことはしていない。

条文を読み、未来、「相手が打ってくる手」を想像しただけだ。

三十年前、俺は何度も見てきた。

この手の「曖昧な善意」が、後で必ず刃になることを。

だから、先に切る。

切るべき場所を。


午後。

社長から、直電が入った。

「相良。聞いたぞ」

短いが、声は上機嫌だった。

「よくやった。先を見ているな」

「契約通りに処理しただけです」

「それができない会社が、多いんだ」

一拍置いて、社長は続けた。

「今後、重要取引は君を通す」

権限が、また一つ増えた。

社内の視線も、変わる。

尊敬。

安心。

そして、明確な序列。

女性社員たちが、自然と近づいてくる。

「相良さんが関わってるなら、大丈夫ですよね」

彼女たちのそれは、確信だった。

俺は知っている。

剣も魔法もない世界で、最強の武器は何か。

――知識。

――経験。

――そして、先読み。

盤面は、完全にこちら側だ。

会社はもう、俺抜きでは危険な一手も打てない。


三十年遅れの新人は、今日もまた、静かに無双する。


次回予告:

戦略企画室のエース・御堂漣との接触。

初めて出会った「格上の論理」を持つ男と、改革の主導権を懸けて火花を散らす。

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