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定年後に目覚めたら新人研修初日だった件~元課長の俺、現代知識で会社と美人社員をまとめて救います~  作者: いわん


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15/21

第15話:女性社員が集まり始める。

変化は、静かに始まった。

特別チームが動き出して一週間。

社内の空気は、少しずつ変わっていた。

以前なら、部署を跨ぐ相談は根回しと覚悟が必要だった。

だが、最近は違う。

「相良さん、今、少しお時間いいですか?」

声をかけてくるのは、決まって女性社員だった。

総務、経理、営業補佐、システム部門。

役職も年次もバラバラだ。

共通しているのは、表情だ。

怯えでも、媚びでもない。

――安心している顔。

「この処理、どこで詰まってるか一緒に見てもらえますか」

「上に出す前に、一度確認してほしくて」

「変だとは思うんですけど、自分の勘に自信がなくて……」

俺は、特別なことはしない。

話を聞き、数字を見て、仕組みの位置を指差すだけだ。

「それ、あなたのミスじゃないです」

「ここで詰まるように作られてます」

「直すなら、ここです」

それだけで、相手の肩から力が抜ける。

彼女たちは、答えを求めているわけじゃない。

ましてや、免罪符でもない。

“怒られない場所”を探しているだけだ。

失敗した理由を、個人の資質ではなく、仕組みとして扱ってくれる場所。

それが、どれほど希少かを、俺は知っている。

だからこそ、説明は短く、断定は慎重にする。

「あなたが悪い」と言わない代わりに、「どこで壊れるか」を必ず示す。

人は、責められなければ、前を向ける。

「……ですよね」

「やっぱり」

「言ってよかった」

その反応を、俺は三十年前に何度も見てきた。

“分かってくれる人間”がいるだけで、人は救われる。


給湯室で、二人の女性社員が声を潜めていた。

「……昨日、相良さんに見てもらったんだけど」

「どうでした?」

「怒られなかった」

その一言に、もう一人が目を丸くする。

「え、それだけ?」

「うん。それだけ。でも……」

少し言葉を探し、彼女は続けた。

「“ここ、あなたの責任じゃない”って言われて。初めてだった」

それだけで、胸の奥に溜まっていたものが、すっと抜けた気がしたという。

その会話を、誰も主役だとは思っていない。

だが、こういう小さな声が、職場の空気を変えていく。


昼休み。

早見が、俺の向かいに座った。

「最近、相談多くないですか?」

弁当を開きながら、少しだけ拗ねたように言う。

「そうですか?」

「そうですよ。しかも、女性社員ばっかり」

俺は苦笑する。

「困ってる人が多いだけです」

早見は一瞬黙り、それから小さく息を吐いた。

「……でも、分かります」

「何がです?」

「この人の下なら、大丈夫だって思える感じ」

視線が、まっすぐだった。

冗談でも、探りでもない。

「相良さんのところ、責任の押し付けが起きない」

「失敗しても、“理由”を一緒に見てくれる」

それは、最大の評価だった。

少し離れた席で、同期の男性社員たちが小声で話している。

「最近さ、相良の周り、女多くない?」

「ああ……まあ、仕事できるしな」

「できる、っていうか……」

誰かが言い淀み、別の誰かが肩をすくめた。

「まあ、近寄りづらくはなったよな」

冗談めかした笑い声。

だが、その奥にある距離感を、俺は見逃さない。

人が集まる場所には、必ず、近づけなくなる人間も出る。


午後。

白石が、資料を抱えてやってくる。

「相良さん、これ……確認、お願いしてもいいですか?」

以前よりも、声がはっきりしている。

あの日――ミスから救われた後の、変化だ。

「自信、出てきましたね」

俺が言うと、彼女は少し照れた。

「はい。でも……」

一瞬、言葉を選ぶ。

「相良さんが見てくれるなら、大丈夫だって思えるので」

「白石さん」

呼び止めると、彼女は背筋を伸ばした。

「次からは、ここまで自分で判断していい」

資料の一箇所を指す。

「迷ったら相談すればいい。全部を抱える必要はない」

彼女は一瞬驚き、それから、はっきりと頷いた。

「……分かりました」

その声には、以前の怯えはなかった。

それは依存ではない。

信頼だ。

気づけば、俺の周りには人が集まっていた。

誰かを呼んだわけでも、誘ったわけでもない。

ただ――燃えない場所に、人が寄ってきただけだ。

同期の男性社員が、遠巻きに眺めている。

羨望と、少しの距離感。

「相良って、女にモテるよな」

そんな声が聞こえた。

違う。

かつての俺は、部下の失敗を説明できなかった。

「分かってるなら、先に言え」

そう言われ、何も返せなかった夜がある。

だから今は、言葉を惜しまない。

壊れる前に、理由を示す。

それだけで、人は潰れずに済む。

俺は、誰にも甘い言葉をかけていない。

評価を餌にもしていない。

ただ、「守られるべきものを、守る」

それを、仕組みでやっているだけだ。

三十年遅れの新人――元・万年火消し課長だった俺は知っている。

人は、怒鳴る上司には従うが、守ってくれる上司には集まる。

これは「ハーレム」の始まりだ。

だが、剣も魔法もいらない。ここはファンタジーの世界ではない。

信頼。

安心。

そして、圧倒的な実務力。


盤面は、もう一段深く、俺の側に寄ってきていた。


次回予告:

取引先からの無茶な要求を、契約書の裏側で一撃解決。

社外でも通用する俺の「先読み」に、社長の信頼は確信に変わる。

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