第14話:特別チーム発足。
社内に告知が出たのは、社長室での面談から三日後だった。
「業務改革推進のため、特別チームを発足する」
「責任者:審査部、相良恒一」
短い文面だったが、意味は重い。
特別チームの部署名が書かれていない。
つまり――社長直下。横断だ。
フロアが、わずかにざわついた。
声は上がらないが、視線が動く。
驚き、困惑、警戒、嫉妬。
そして、ほんの少しの期待。
「……本気だな、社長」
係長が、資料から目を離さずにぽつりと漏らす。
「ええ」
俺は画面を見たまま答えた。
「ここからが本番です」
特別チームの顔合わせは、小会議室で行われた。
最初に集められたのは、五人。
審査、営業、システム、総務、経理。
部署はバラバラだが、共通点がある。
――現場で「おかしい」と思いながら、それでも仕事を回してきた人間たちだ。
全員、どこか警戒している。
この手の「改革」は、だいたい現場に皺寄せが来る。
その記憶が、表情に滲んでいた。
「今日は、方向性だけ共有します」
俺はそう言って、ホワイトボードに一行だけ書いた。
『仕事を増やさず、成果を増やす』
一瞬、空気が止まる。
「改革って言うと、現場は身構えます」
俺は続けた。
「仕事が増えると思うからです。だから逆にします」
視線が集まる。
「無駄を消す。判断を減らす。人を守る」
「……人を?」
営業の男性が、慎重に聞き返した。
「はい」
俺は迷わず答える。
「ミスをする人は問題じゃありません。そのミスを生む『仕組み』が問題なんです。それを潰します」
誰かが、小さく息を吐いた。
総務の女性が、静かに頷く。
言葉にされなかった不満が、そこにはあった。
役割分担はシンプルだ。
システムは自動化。
総務は制度。
経理は数字。
営業は現場の実態。
俺は、全体設計と優先順位を握る。
「決裁は?」
経理の女性が、確認するように尋ねた。
「私経由で、社長まで直です。安心してください」
一瞬、空気が固まった。
それだけで、このチームが“飾り”ではないと理解できる。
会議が終わり、各自が席を立つ。
表情はまだ硬いが、最初の一歩としては十分だ。
廊下に出ると、白石が少し離れたところで待っていた。
「相良さん……チーム、すごいですね」
「必要な人が集まっただけです」
「でも……会社、変わりそうです」
その言葉に、俺は一瞬だけ考えた。
「変えます」
即答した。
「壊さずに、使える形に」
数日後。
特別チーム名義の改善案が、社内ポータルに掲載された。
反応は、二つに分かれる。
すぐに動き出す部署。
様子を見る部署。
それでいい。
盤面は、一気に動かすものじゃない。
重要なのは、中心を押さえたことだ。
情報。
決裁。
数字。
そして、人。
三十年遅れの新人――元・万年火消し課長だった俺は、もう火を追いかけない。
これからは、火が生まれない配置を作る。
特別チームは、ただの改革組織じゃない。
会社全体を、少しずつ俺の読み通りに動かすための――盤面操作の中核だ。
静かに。
確実に。
会社はもう、俺を無視しては回らない。
次回予告:
噂を聞きつけた女性社員たちが、俺の元へ「相談」に訪れる。
それは好意ではなく、絶対的な安心感への信頼の証だった。




