第13話:社長に直接プレゼン。
社長室に呼ばれる、というのは本来なら緊張するものらしい。
だが、俺の頭の中は静かだった。
理由は単純だ。
――結論は、すでに分かっている。
「相良くん、だったね」
革張りの椅子に腰掛けた社長は、穏やかな声でそう言った。
机の上には、俺が事前に提出した一枚の資料。
「残業削減の件、見せてもらった。現場の数字がきれいだ」
「ありがとうございます」
その言葉を合図に、俺はタブレットを立ち上げた。
「本日は、その延長線の話です」
「延長線?」
「はい。“起きる前に潰せる損失”についてです」
画面に映したのは、過去の決算資料だった。
三十年前、十年前、五年前。
時期は違うが、共通点がある。
「これらはすべて、当時は問題視されなかった案件です」
「……だが、後で不祥事になっているな」
「はい。内部では“想定外”と処理されました」
社長の眉が、わずかに動く。
「想定外ではありません」
俺は淡々と言った。
「想定しなかっただけです」
次のスライド。
審査フローの簡略図と、赤く囲った一点。
「このチェックが、形骸化しています。人は確認した“つもり”になり、数字は通る」
「だが、後工程で破綻する」
社長の言葉。
「ええ。結果、回収不能。信用失墜。最悪、倒産です」
数字を出す。
過去に失った金額。
ブランド価値の低下。
裁判コスト。
「これを防ぐには?」
社長が聞いた。
「判断を増やす必要はありません」
俺は首を振る。
「判断を“人”に任せないことです」
改善策は三つ。
――例外処理の自動検知。
――判断基準の数値化。
――責任所在を“個人”から“仕組み”へ移す。
「新人がミスをしない会社は作れません。それは不可能です」
そして、俺は、社長に言った。
「ですが、新人が“致命傷を負う会社”は、作らない。そうすべきです。それは避けられます」
社長は、しばらく黙って画面を見ていた。
やがて、静かに息を吐く。
「……この提案、いつから考えていた?」
「入社初日です」
俺は答えた。
「正直だな」
社長が静かに告げる。
「事実ですので」
沈黙。
それから、社長は笑った。
「君は、火が出てから消す人間じゃない」
「はい」
「出る前に、水を撒く人間だ」
机の引き出しが開く音。
一枚のカードが差し出された。
「この件、私直轄で進めてほしい」
「権限は?」
「必要な分だけ、すぐ出す」
それで十分だった。
社長室を出ると、廊下の空気が少し違って見えた。
誰も知らない。
だが、会社の未来は、もうあの頃とはズレ始めている。
三十年遅れの新人――元・万年火消し課長である俺。
その俺は今日、炎を消す役目から、火を起こさせない役目に変わった。
評価は、もう“部署”の話じゃない。
そして――
この会社の舵は、確実に、俺の視界に入ってきていた。
次回予告:
社長直轄、全部署横断の「特別チーム」が始動。
俺の周りには、現場の悲鳴を知るプロフェッショナルたちが集結し始める。




