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定年後に目覚めたら新人研修初日だった件~元課長の俺、現代知識で会社と美人社員をまとめて救います~  作者: いわん


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12/14

第12話:残業ゼロプロジェクト。

残業が当たり前の部署だった。

審査部は「忙しい」のではない。「遅い」のだ。

そして、その理由はもう分かっている。

夕方、時計が十七時半を回った頃。

フロアの空気が、いつものように重くなり始めた。

誰も声に出さないが、全員が同じことを考えている。

――今日も、帰れないな。

俺は、静かに画面を閉じた。

やるべき作業は、もう終わっている。

「相良くん……もう終わったの?」

早見が、半信半疑の顔でこちらを見る。

「はい。今日の分は」

「え、まだ確認残って――」

「自動で終わってます」

彼女は一瞬、意味が分からないという顔をした。

きっかけは、前日の課長の一言だった。

「最近、残業時間が減ってるな。だが、まだ多い」

その言葉を聞いた瞬間、俺の中でスイッチが入った。

――なら、ゼロにする。

俺がやったのは、大それた改革じゃない。

地味で、誰もやりたがらなかった部分を、ただ整理しただけだ。

――毎日手作業で集計していた数字を自動取得。

――承認待ちで止まる案件を、時間帯別に振り分け。

――定型メールをテンプレ化し、ワンクリック送信。

――確認が終わった案件は、自動で次工程へ回す。

どれも、三十年前に「分かっていたけど、変えられなかったこと」だ。


午後。

係長が、俺の席に来た。

「相良くん、ちょっといい?」

嫌な予感はない。

むしろ、確信があった。

「今日の処理件数、異常に多いんだけど……何をした?」

「自動化しました。人が考えなくていい部分を」

三時間かかっていた確認が十分になった。

係長が毎日一時間やっていた作業が消えた。

係長は、俺の画面を見て固まった。

「……これ、誰が作った?」

「俺です」

「……残業、いらないな」

その一言が、火種になった。

「え、今日帰れるんですか?」

「もう終わっていいの?」

「確認、全部通ってる……?」

十七時五十分。

フロアに、ざわめきが広がる。

課長が立ち上がり、全体を見渡した。

「今日の作業、完了している者は――帰っていい」

一瞬の沈黙。

次の瞬間、空気が変わった。

椅子が引かれ、笑顔が生まれ、

疲れ切った表情が、少しずつ解けていく。

白石が、信じられないという顔で言った。

「……残業、しなくていいんですね」

「はい。しなくていい仕事は、しなくていい」

その言葉に、彼女は小さく笑った。


翌日。

審査部の噂は、社内を回っていた。

「最近、あの部署、定時で帰ってるらしい」

「仕事減ってないのに?」

「むしろ、処理早いって」

好感度は、数字より早く伝播する。

課長は、何も言わなかった。

だが、週報にはこう書かれていた。

「業務効率改善により、残業時間を大幅削減」

――課長名義で。

それでいい。

評価は、もう動いている。

俺は席に座り、静かにキーボードを叩く。

誰かを蹴落とす必要はない。

怒鳴る必要も、我慢させる必要もない。

働きやすい会社は、「正しく楽をする」だけで作れる。

三十年遅れの新人――元・万年火消し課長。その俺は今日、ひとつ確信した。

成果を出し、人に感謝され、定時で帰れる。

――この会社、俺が一番うまく使っている。


そしてそれは、俺の評価を、さらに一段押し上げていた。


次回予告:

呼び出されたのは社長室。

一人の新人としてではなく、会社の未来を左右する「設計者」として、俺は社長に直談判を挑む。

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