2-3 ポイント、共有、お願い
魔族騒ぎの落ち着いた夕刻。
「さて、何から話したものかの」
店主に追加の宿代を払ったロイが、部屋に戻ってきたところで、キリが口を開く。
『まだ信用した訳じゃないから念の為ね』と、預った紅刀を無邪気に振り回す賢者。
「儂らは魔王様から産み落とされた存在での。世間では落とし子などと呼ばれておる」
「そんなことは見れば分かる。それより…おまえら、お互いで殺し合ってると聞いたが、なんでなんだ?」
「なっ!貴様随分な口を聞けたものよのう!」
「?」
突然青筋を浮かべて怒りだすキリに、困惑するロイ。
そもそも魔王と言えば、魔物を使って王都への襲撃を繰り返す、人にとっては明確な敵。
その子供であるところの落とし子たちが、どういう理由で人を狙わずに、同士討ちをしているのか。
「それが我が主からの命令だからじゃ」
剣士の真似事を続けている賢者に、ロイはせめて聞いてやれよと呆れていたが、キリは気にせず話を続けた。
「転生者か兄弟を殺すと我が主からポイントを貰えるんじゃ。それが5つを超えた者が、えーと、一番偉い!」
「ポイント?…転生者か兄弟を殺す…?」
「ま、転生者なんぞ簡単に見つかる訳もないしの。見つけたとて敵う訳もなし。ならば先に兄弟から狙おうという話よの」
「なるほどね?」
転生者という単語が出てきたことで、賢者は多少興味を持ったのか、それとも刀に飽きたのか、こちらの話に参加する。
「いや…なんで魔王はおまえらにそんなことさせて…」
「まあまあ、ロイくん、そっちは一旦置いとこ?魔王ちゃんも転生者。人なんかを殺すより自分にとって危険な力を持つ、他の転生者を片付けたいってことか」
「そう言うことじゃの」
「それで、私は転生者や落とし子ちゃんを片付けるのを手伝えばいいのかな?」
「そうじゃ!儂は末っ子で、認めるのも腹立たしいが他のほとんどの兄弟より弱い…。余った部分が集まってできたのでは、と思うような有様じゃ…。このままやっても厳しいことは目に見えておる。そう思っていた矢先よ。ここにあの賢者が来ていると聞いての」
賢者の強さについては、転生者に及ぶ可能性があるという話は有名だった。
しかし、魔法を使えなくなってしまったことで、今はもうその認識からかけ離れたところにいる。
(正直に伝えればそのまま解散、偽れば味方を得られる状況)
ロイは、賢者がどういう選択をするのか見守るのみ。
そしてどんな選択をするにせよ、賢者の選んだ道を共に進むのみ。
「うん、わかった。とは言っても条件を出させてもらうよ」
「本当か!」
すんなりと了承した賢者に歓喜するキリ。
(あんたはそれを選ぶんだな)
「私からのお願いは、ロイくんに稽古をつけて欲しいってことかな」
「そんなもんでいいのか?…この小僧の?こやつに何ができるんじゃ?」
賢者の要求には、キリも、ロイ自身も驚いた。
「ロイくんには、もっと強くなってもらわないとだからね」
「っ…。そうだな」
ロイは賢者の指摘に言い返せず歯噛みするしかない。
目の前に立つ小柄な魔族の少女。
先ほどの戦いから、はるか格上の身のこなしと機転の効いた動きで翻弄する様は、確かに自分の目標になり得る。戦いの稽古については賢者も知識しかなく、実践的な指導をしてくれる相手がいることは心強い。
「ほーん」
しかしキリは、ロイを一瞥して鼻で笑う。
「ぐっ…」
「あ、バカにしてるよロイくん!なんか言ってやれ!」
「っ…おっ、おれが素人なのは、事実だ。だから、おれからも…その」
「その…?」
賢者がロイの言葉の行く末を見届けようと、期待を込めた目で見守る。
「た…、頼む」
「なるほどなるほど、いいじゃろう!道中にでも稽古をつけてやろうかの」
賢者が手を叩き、自身に注目を集める。
「じゃあ、この後の予定を発表しまーす!」
「あ、それについてなんじゃが、賢者の噂に引かれて、儂のように集まってきている落とし子がいるかもしれん」
パッと表情を明るくして、キリが早口で喋る。
「なんやかんやありますが!次の目的地はー、魔王城!」
「えっ?どゆことじゃ!?」
てっきり、早速賢者が転生者や落とし子の討伐を手伝ってくれるのかと思っていたキリが、驚愕の表情を浮かべる。
「何しに戻るんだ?」
ロイも違う意味で驚いていた。
「え?キリちゃんのお手伝いだよ?だってキリちゃんは転生者を倒したいんだよね?魔王ちゃんは転生者だって聞いてるし」
「は?…はぁあああ!?」
それを聞いたキリの悲鳴が、宿中に響き渡ったことは想像に難くない。




