晃の過去
とりあえず菜々《なな》さんと別れて、晃と一緒に私の家に帰ってきた。
菜々さんはまた改めてお礼にくるって言ってたけど、晃に2度と来るなとか言われていた。
ちなみに虫垂炎は薬で散らしたらしい。
「ねえ、本当に菜々さんのこと知らないの?」
「うん、知らないよ」
「なんか傍から見てると、かなり仲が良さそうに見えたんだけど?」
「え? どこが!?」
「どこがって……晃ってあんなにムキになって、誰かと話すことないじゃん」
「そうかな?」
「そうよ」
「でも、本当にまじで知らないよ」
まあ、晃は嘘をつくタイプじゃないから本当なのだろう。
「じゃぁさ晃、なんで菜々さんにあんなにも辛辣だったの?」
とりあえず、不思議に思っていたことを直球でぶつけてみた。
「えっと、それはさ……」
晃は、何か照れている感じでもじもじし始めた。
「それはなによ?」
なに? 早く言ってよ、気になるじゃん!
「笑わない?」
笑う? なんで? 笑うようなことなの?
「事と次第によるけど、笑わないわよ?」
すると晃は一度私に目を合わせたあと、少し伏し目がちに話しはじめた。
「今日はみんな樹のところに集まってたじゃん。だからその……樹成分が足りてなくて……イライラしてたんだ」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!
な、な、な、な……なにその可愛い理由!?
「な〜んだ、そんなことか」
平静を装いながら話したけど、滅茶苦茶嬉しい!
晃……本当に可愛いやつだ。
「……晃」
私は晃を抱きしめて、そのままの勢いで熱い口づけを交わした。
——私も晃成分充電完了だ。
*
「それだけなの?」
「ま、ちょっと知ってるやつに似てたし、八つ当たりもあるかな」
八つ当たりか。
「でも、最後のほう、ちょっと可哀想だったよ? あんまり八つ当たりとかはダメよ」
「うん分かった、これから気をつけるよ」
いつもながら素直な晃だった。
「…………」
うん?
ていうか晃……いま、めっちゃ気になる事言ってなかった?
——知ってるやつに似てたとか。
言ってたわよね!?
「ねえ、晃」
「うん?」
「いま言ってた、知ってるやつって……もしかして菜々さんじゃないの?」
晃は顎に手を当て、上を向いて何か考え始めた。
「あーっ、でもどうだろうな……あいつは、あんな感じじゃなかったと思うんだけど」
じゃあ、なんで似てるとか言ったんだ。
盛大な自己矛盾だ。
「菜々さんはね……俺がね、荒れてた時の連れに似てるんだ」
……結局似てるんかい。
つーか……荒れてた……晃が?
全然想像つかないんですけど!?
「それ本当? 晃って荒れてたの?」
「うん、まあまあ荒れてたよ、小六とか中一の頃はね」
「そうなんだ」
「ほら、うち両親がほとんど家にいないじゃん。だから必然的というかそんな感じ」
なんか凄い他人事のように話すなぁ。
まあ、とにかく……全然見えない。
「あの頃さ、樋口先生の妹さんにね、コテンパンにやられたから今の俺があるんだよ」
なに、その仰天エピソード!?
ていうか、妹さんってことは女の子よね?
女の子にコテンパンにやられたの?
「ねえ、その話し聞いてもいい?」
「別にいいけど……ちょっと重くなるよ?」
……重くなる。
てことは……晃にとっては結構重大な出来事だったんじゃ?
……うん、それでも。
「聞きたいかな」
「そう、分かった」
晃は微笑を浮かべて、話し始めた。
「なんかね……俺はずっとイライラしてたんだよ。時間だけ持て余して、やりたいことも見つけられなくてさ。だから周りのやつとは、よく衝突したんだ」
「今の晃からは想像がつかないんだけど」
「自分でも思うよ……子どもだったとはいえ、今にして思うと、あの時の俺って、何にそんな苛ついていたんだろう? って思うもん」
ライブハウスで私を助けてくれたアキラ様。
私と仲良くなりはじめた頃、柿本から私を救ってくれた晃。
そしてメイクイベントで編集長を一蹴した晃。
あれは、その頃の晃の一面だったのかもしれない。
「でね、そんな時に樋口先生の妹……俺にとっては幼馴染になるのかな? 真希姉ちゃんっていうんだけど、その真希姉ちゃんにボコされたの」
「え……ボコされた?」
「うん、見事にボコボコにされたよ。お前格好悪いんだって言われて」
「それは……」
「真希姉ちゃんはね……テコンドーで全国に行ってたから、めちゃめちゃ強かったんだ」
「うわぁ……」
「4つも歳上だったのに、手加減もほぼなしなしだったと思う」
「その頃で4つも離れてたら、結構キツいわね」
今のところ重くなる要素は無いんだけど……晃はなんであんな事言ったんだろう?
「なんか、そのことが切っ掛けで、真希姉ちゃんは俺に、歌を教えてくれたんだ」
「歌? なんで?」
「真希姉ちゃんは、テコンドーもやってたけど、歌が夢だったんだ」
「……そうなんだ」
「いつか、満員の武道館でライブをやるのが夢だって言ってた」
「武道館!? ロックの聖地だね」
「うん……その夢は、手を伸ばせば届くところにまで来ていたんだけどね」
「え……」
もしかして……晃の言っている真希姉ちゃんって。
「晃……真希さんてもしかして」
晃は優しく私に微笑みながら告げた。
「うん……真希姉ちゃんは『夢音』だよ」
『夢音』私の大好きな女性シンガー。
武道館のライブを目前にして、不慮の事故に遭い、今も目覚めないと聞く。
そっか……だからあの時晃は泣いたんだね。
晃がはじめて私の家に訪れた時、アコギを弾いて欲しい言われて、私は夢音の『夢を継ぐもの』という曲を披露した。
あの時は、何故晃が泣いたか分からなかったけど、今日、やっと——涙の意味を知った。
この出会いはきっと偶然じゃないですよね。
前述のエピソードは第3話参照です。




