デート?その4
私と晃はイベントスタッフの控え室に案内された。詳しい説明はそこでするとのことだ。
ところで……イベントとは、全く関係のないことなのだけど……晃も静香さんも、どうして平気なんだろう、ていうかお腹の中……いったいどうなっているのだろう?
私はさっきの巨大パフェが効いていて、お腹を引っ込めていないと、ぽこっと出てしまいそうで、今も結構必死なのに……2人はケロっとしている。
なんか不公平だ。
「皆んな! 代役連れて来たよ!」
控え室に着くと、早速静香さんは、私を紹介してくれた。
「こちら、えーと樹ちゃん……苗字なんだけっ?」
……少し気不味そうな顔の静香さん。どうやら私の苗字が出てこなかったみたいだ。
「……今村です」
「そうっ! 今村、今村 樹ちゃん! 彼女初めてだから皆んなしっかりサポートしてあげてね!」
『『はいっ!』』
スタッフの皆さんは女性だった。
はじめてのメイクショーで男の人は、流石にちょっと抵抗があったから一安心だ。
「樹ちゃん、リラックスしてね、最初は皆んな初心者だから、うまくできなくても全然問題ないから」
「あっ、はい! ありがとうございます」
このアフターフォローがあるから、あの押し強さでも通用するんだと、素人ながらに思った。
「で、静香さんそちらの方は?」
スタッフの1人が晃について尋ねた。
「あっ、彼はね……スペシャルゲストよ」
「スペシャルゲスト?」
「ほら菜々ちゃんって、結構人気あったじゃん、彼女のことを楽しみにしていた子も結構来ると思うんだよね……」
「それは……そうですね」
え……私、そんな凄い人の代役なの?
「まあ、可愛さは樹ちゃんも負けてないけどさ……人気だけはどうしようもないじゃん」
……可愛さも危ないと思うんだけど。
「だから、彼なの」
『『はあ……』』
いまいちピンと来ていない感じのスタッフの皆さん。
でも——
「紹介するわ『継ぐ音』のアキラよ!」
「どうも、アキラです」
晃が帽子をとって、挨拶すると……スタッフの皆さんは、例のごとく固まってしまった。
いつもなら、しばらく沈黙が続くのだけど、今回は違った。
『『きゃぁ————————っ! アキラ様っ!』』
控室は耳を押さえていないと痛いぐらいに、大興奮の渦に包まれた。このパターンは初めてだ。
「静香さん! なんでですか!」
「いいんですか! 事務所の許可取ってるんですか!」
「なんで、アキラ様がここにいるんですか!」
「静香さん! コネ使ったんですか!」
「アキラ様、この後は空いてるんですか!」
「打ち上げも参加されるのですか!」
興奮冷めやらぬスタッフの方たち。
「まあ、落ち着けって……晃も困ってるだろ」
静香さんのいう通り、晃は困惑気味だった。
「『継ぐ音』のエージェントには許可を取ってる、その辺は心配しなくていい」
『『やったー!』』
いつの間に取ったんだろう。さっきスマホいじってた時かな?
「アキラはね、デート中で、そこを無理矢理お願いしたの、だから打ち上げは参加しない、イベントのみよ」
『『えぇ——————————————っ!』』
大きな声が響く控室。
なんか、盛り上がっている時のホームルームみたいだ。もちろん静香さんが先生でスタッフさん達が生徒だ。
「アキラ様、誰とデートしてたんですか!」
「まさか静香さん⁉︎」
「違うわ、バカっ!」
すかさず突っ込みを入れる静香さん。
でも、少し頬を赤くして、照れたような素振りを見せている。
あれ?
もしかして……満更でもないの?
静香さんは私と目が合うと、にこっと笑い、こちらに近づいてきた来た。
え……なに?
そして私と肩を組み。
「晃の彼女は、この樹ちゃんよ!」
『『えぇ——————————————っ!』』
私と晃の関係を暴露した。
スタッフさんは今までで、1番大きな声を上げた。
「ちょっ、皆んな騒ぎ過ぎだって! クレームが来るよ」
収拾がつかないぐらいに、皆んな騒いでいた。
女子校に行ったことはないけど、女子校ってこんなノリなのかな? と思った。
そして、静香さんは私の耳元で「取ったりしないから安心して」と囁いた。
なんか私が心配していたこと……バレてたみたいだ。
*
どうにかこうにか落ち着いて、スタッフさんに説明を受けた。
……静香さんがうまくやってくれるから、基本私は笑顔で振る舞ってさえいれば、問題ないらしい。
……まもなく、本番だ。
「緊張する?」
いつもの笑顔で語りかけてくれる晃。
「……うん、すごく」
もう、胸がバクバクだ。
「俺もね……ステージの前はいつも緊張してるよ」
え……晃が緊張?
「……とても、そんなふうには見えなかったけど?」
「でも、本当だよ」
意外だった。
「樹、そんなもんなんだよ」
そんなもん?
「樹が、いくら緊張してても、見てる方はなかなか気付かない。だから思いっきり緊張しちゃえばいいんじゃない?」
思いっきり緊張……これまた斬新な励まし方だ。
「俺さ、ギターボーカルじゃん」
「うん」
「最初イントロ弾くときはさ、ギターで緊張して……それからまた、歌に入る時に緊張するんだよ」
「……そうなんだね」
「演奏のミスもいっぱいしたし、それが尾を引いてさらにミスしたり、悔しかったり」
全然知らなかった。
「でも……それがライブだから、樹も気楽に楽しんでおいで……俺もいるし」
「……うん」
なんか晃独特の、よく分かったような分からなかったような励ましだった。
でも……緊張が解けなかった晃には悪いけど。
——私の緊張は、晃のおかげで何処かへ行ってしまったようだ。
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