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クラス1地味な浅井くんに彼氏役をお願いしたけど……マジ惚れしたから付き合ってとか今更言えない  作者: 逢坂こひる


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始まり

いつきの事を想って作った曲だから』


 浅井のこの言葉を聞いてから、もう……ドキドキが止まらなくなった。


 こんなにも落ち着かない気分で、キッチンに立つなんて、生まれて初めてだ。


 何度も包丁で指を切りそうになった。

 食べる時に好みでつける、レモンも塩も一緒に衣のタネに入れてしまった。

 油に指をつけて、火傷しそうになった。

 衣の分量を間違えて素揚げみたいになってしまった。


 不意打ちなんて——ずるいっ。


 浅井家ではじめて振る舞う私の手料理は……散々たる結果になってしまった。


 完全にやらかしてしまった……そう思いながら一つ味見してみると。


 ……案外美味しかった。

 しかもこの味は……コンビニで売ってた塩レモン唐揚げにそっくりだった。


 神様はまだ、私を見捨てていなかったようだ。


「できたよ! テーブルに並べるの手伝って!」

「……うん!」


 浅井が唐揚げをクンクンと匂い。

 

いつき、この唐揚げってレモン?」


 ドヤ顔でそう言った。


「おっ、気付いた? 最近コンビニで売ってた塩レモン唐揚げが美味しかったから、味付けパクってみたの」


 完全に失敗作だけど美味しかったから、それらしい設定を盛った。



「パクったって……」

「いい物を取り入れる謙虚さは大切よ! まあ、とりあえず食べてみてよ」


 こんな時……『ちょっとドキドキして失敗しちゃったテヘ』ぐらい言えた方が、可愛気があるのかも知れないけど、私には無理だった。


「「いただきま〜す」」


 ……とりあえず。


「どう? 美味しい?」

「うん、めっちゃ美味しいよ!」


 味はすこぶる好評だった。

 味の好みも私と近しいようで一安心だ。

 

 ——もしかして、ご両親も帰ってから食べるかもと思って、多めに作ったのだけど。


「ご馳走さまでした」


 浅井は残さず全部平らげてしまった。

 あの細い身体にこれだけの量……どこに入っるのだろうか。

 

 浅井はあれか……食っても太らないタイプかっ!

 

 ……羨ましい。


「どうしたのいつき?」

「結構な量作ったつもりだったけど……晃って案外大食いなのね」

「うん……そうかも」

「じゃぁ、この間家に泊まった時、足りなかったんじゃない?」

「ううん……あの時は胸いっぱいで」

「何よ、胸いっぱいって……」


 浅井は苦笑するだけで、はっきりとは答えなかった。なによ……私の方が胸いっぱいだったわよ。


「まあ、いいわ……でも不思議ね」

「何が?」

「今、こうしてることが」

「まあね」

「私……晃とこうやって、仲良くなるって全然想像していなかった」

「……俺もだよ、あの時、いつきが消しゴム忘れてなかったらいまだに話してなかったかもしれないよ」


 静香さんに馴れ初めを聞かれた時も言ってたけど、やっぱり浅井は消しゴムを忘れたと思っていたようだ。


「あれは忘れたんじゃないわよ……誰かに悪戯されたのよっ!」

「えっ……それ本当?」

「本当よ……」


 まあ……犯人の目星はついてるけどね。


「……晃が隣の席でよかった」


 でも……その犯人のおかげで。


「俺も樹が隣の席でよかった」


 浅井と仲良くなれた……腹立たしいことだけど、Kさんには感謝しないといけないかもしれない。


 ——優しく微笑み掛けてくれる浅井。

 ずっとこうしていたい。

 ……でも、そろそろ。


 この関係に、終止符を打たなければならない。

 ……もう、これ以上は、私の心がもたない。

 本当に身勝手なのは分かってる。

 だから……これが恋人役としての最後のわがまま。




 あなたに……告白させてください。




 だけど……私がいよいよ覚悟を決めたタイミングで。


いつき……そろそろ聴いてもらってもいいかな?」


 浅井が先に切り出した。


「『継ぐ音』の新曲……だよね」

「そうだよ……『継ぐ音』初のラブソングをいつきに捧げるよ」


 ……ラブソング。

 確かに『継ぐ音』の曲にラブソングはない。

 それを私に?


「……捧げるって」

「……いつきのことを想って書いた。だから、樹に捧げるよ」


 ……やばい。


「……うん」


 ……本当にやばい。

 もう……涙を堪えきれない。


 ——浅井が歌ったそのメロディーは、その歌詞は。

 私の胸に刺さった。


 まるで私たちの出会いから、今までを描いたような曲で、その曲が終わる頃にはもう……私の感情は抑えられなくなっていた。


「…………」


「俺はね……ずっといつきのことを好きになっちゃいけないと思ってた。それが樹のためであり、自分のためだと思っていた」

「……うん」

「でもね、あの時、いつきが私はやりたいようにやる。だから晃も気にしないで欲しい』って言ってくれたから、俺は好きなようにやることにしたよ」


 やっぱり浅井はあの時の言葉も、真摯に受け止めていてくれたんだ。


あきら……」







いつき……好きだ。俺の彼女になってほしい」






 ……やっぱり……浅井は卑怯だ。

 私より先に告白するなんて……。







 ——ずるい。







 ……私の答えは決まっている。

 だけど、まだ返事は出来ない。

 




 私自身も、ちゃんとケジメをつけないと。





あきら……私ね、好きな人がいるの」


 ……私が一年前に好きになったアキラ様


「私……一途なの、だから誰と仲良くなっても、誰に告白されても心が動かないと思ってた」


 ……叶わぬ恋と分かっていても、心変わりなんてしないと思っていた。


「でも……私……一途じゃなかったみたい」


 そう……私は心変わりしてしまった。






 ……私の心を奪ったのは。


『継ぐ音』のアキラじゃない。





 


「私も晃が好き。だから彼氏になってください」







 隣の席の浅井あさい あきらだ。







 言えた……やっと伝える事ができた。


 やっとこの関係に——終止符を打つことが出来た。




「樹……嘘じゃないよね?」

「……嘘じゃないよ……私は晃のことが好きだよ」



 もう……涙も我慢する必要がないんだね。



「樹っ!」


 あきらは私を抱きしめてくれた。



 そんな晃に、私は今できる、精一杯の強がりを返した。


「晃……私、まだ返事を聞いてないのだけど?」

「はい……不束者ですが、よろしくお願いします」


 いかにも晃らしい返事だった。


「何それ……不束者って、ウケるんだけど」

「いいんだよ……伝わったでしょ」


 しっかりと伝わった。


「うん……晃の気持ち伝わったよ」





 私は……晃の首に手を回し——

 唇と唇を重ねた。





 もう隠れてこそこそする必要はない。


 だって、私たちは、今この時から——






 恋人役を卒業して、本物の恋人同士になったのだから。




 

 アキラ様に助けられたこと。

 私の消しゴムが無くなったこと。

 晃が隣の席だったこと。

 寺沢が告白してくれたこと。

 あの時、晃が恋人役を引き受けてくれこと。



 どのピースが欠けても、この結果にはならなかったと思う。



 これが運命の出会いだったと、唇から伝わる晃の温もりと共に、しみじみ感じていた。



 ……この告白は、ゴールじゃない。

 私と晃を取り巻く、数奇な運命の始まりでしかないのだから。





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