ヤキモチ
教室を出たところで優花と別れた。「私、用事があるから先に行くね」とは言っていたけど……きっと私に気を使ったんだと思う。
今日は優花に気を使わせっぱなしだ。
むしろここ最近ずっとと言ってもいい。
……今度、ちゃんとお礼をしないとだ。
「ねえ樹、今日家に行っていい?」
さっきも思ったけど……自然に名前で呼べている。
「……いいけど部活はどうするの?」
「サボる!」
「いいの……音村さん」
「……う……うん……メッセージだけ入れとくよ」
あまり、よくはないみたいだ。
つーか、連絡先交換してたのか……まあ、学年も違うんだし普通はするか。
浅井がメッセージで部活が休みの旨を伝えると、間髪おかずに返信がきた。
「うっ……」
その返信を見て表情を崩す浅井。
つーか、うっ……ってなんだ、うっ……って。
「なんて返ってきたの?」
意地が悪いかもしれないけど聞いてみた。
「あは、なんでもないよ」
笑って誤魔化そうとしていたからジト目で見つめてやった。
「…………」
すると、浅井はバツが悪そうな顔でスマホを見せてくれた。
……あざとい自撮りに画像に『明日は特別レッスンでお願いしますね★』とメッセージが添えられていた。
浅井にスマホを返し、さらにジト目で見つめた。
「仲が良さそうね」
「ま、まあ……普通かな」
本気で言っているのだろうか。
普通であんな自撮りは送ってこないぞ!
浅井がどう思っているかは分からないが、彼女が浅井のことを狙っているのは確かだと思う。
この場合……浅井が鈍くて助かるのか、もっと敏感で警戒してくれた方がいいのかは微妙なところだ。
「…………」
違うか……浅井は警戒する必要はないのか。
私たちは付き合っているわけではないのだから。
……もし、音村さんに告白されたら、浅井はどうするのだろうか。
音村さんは可愛いし……性格はわからないけど、ひたむきさな感じはする。
「…………」
やめよう……鬱になる。
「樹……話したいことがあるんだけど……いいかな?」
……改まって、なんだろう。
も……もしかして、音村さんのこととか!?
「話したいことって?」
「今話していい? それとも樹の家で話す?」
……なにその、含みのある言い方。
やっぱり音村さんのことなの!?
「……家の方がいいかな」
「分かった。じゃぁ、話は家についてからで」
今の私はメンタルがやばい……外で聞きたくない話だった時のこと考えて、家を選んだ。
……うぅ……本当に私ヘタレだ。
「あっ、でもさ! これだけは先に言わせてよ」
珍しく息巻く浅井。
「なに?」
「俺、あの委員長嫌いだ!」
「……えっ」
なんで委員長。
「彼さ……今日ずっと樹のところに来て、同じ話ばっかりしてたでしょ? 本当邪魔、空気読めって思った」
……どゆこと?
……だって浅井は?
「寝てたんじゃなかったの?」
「起きてたよ! こっそり聞いてたよ!」
……寝たフリしてたんだ。
「あっ、ごめんね……嫌だったよね……盗み聞きするなんて」
「ううん……大丈夫、全然聞かれて困るような話じゃなかったし」
「実はさっきもさ……半分八つ当たりだったんだ」
うん? どう言うこと?
「八つ当たりって……なに?」
「今日1日……彼に樹が独占されてるのが許せなかった! だから……その」
……もしかして。
「ヤキモチとか?」
「うん……」
浅井は……素直にヤキモチだと認めた。
凄く嬉しかった……それと同時に、何をやっているんだう……って思いも強く抱いた。
……私も浅井も。
なぜ、恋人《《役》》という枷を外せないのだろう。
「それにね……起きてたのは今日だけじゃないよ」
「……え」
心臓が止まるかと思った。
……今日だけじゃないって、あの時だよね?
……あの日のことだよね?
……キスも……告白も……全部知ってたってこと?
じゃぁ……浅井の話したいことって……このことなの?
「でも、今日はその話じゃないんだ。まだ準備ができてないから、また今度ゆっくりね」
え……それ以外にもまだ、他に話があるの?
ていうか、準備が必要な話ってなに?
完全に頭がパニックになった。
——家についても、その事が気になって私は上の空だった。
「うわっ……苦っ!」
苦めが好きな私が、自分の入れた珈琲を苦く感じるほどに。
「……い、樹が苦いって思う珈琲……俺に飲めるかな」
浅井はその珈琲に戦々恐々としていた。
そして、ちびっと口に含み、顔を歪めてから話しはじめた。
「あのさ……樹……怒らないで聞いてね」
怒らないで聞いて?
なんでだろう……私が浅井を怒ることってなに?
「……実はさ、柿本さんに俺が『継ぐ音』のアキラだって知られてしまったんだ」
はぁ——————————っ!?
え……何で?
「なんで柿本に!」
私は思わず浅井の両肩を揺すり、詰め寄った。
「いや……この間のスタジオ練習の時にちょっと……」
「ちょっとってなんなのよ!?」
浅井の話によると、この間のスタジオ練習終わりに、コンビニの前でナンパ男に絡まれていた女の子を『継ぐ音』のメンバーが助けたら、柿本と、例の軽音部の三井 亜希だったとのことだ。
その後、少し話してボロがでて浅井がアキラ様だと知られたらしい。
……だからか。
だから……柿本が浅井にメロメロだったのね。
「教えてくれてありがとう晃……でも明日から覚悟してね」
「え……覚悟ってなに?」
日和ってる場合でも、ピヨってる場合でも、もにょってる場合でもなかった。
現実として、ライバルがいるのが分かったんだ。
体面上の彼女である以上、アドバンテージは私にある。
明日からは……浅井は私の彼氏だってアプローチを——本気でする!
本作が気になる。応援してやってもいいぞって方は、
★で評価していただけたりブクマ、感想、レビューを残していただけると非常に励みになります!
何卒よろしくお願いいたします。




