バレてるっ⁉︎
顔を洗い終わって鏡を見ると、酷い顔をした私が映っていた。
寝不足だし、さっき泣いちゃったし……まあ、こうなってる事は想定内だった。
こんな顔で浅井に会えない。
いつもより少し、濃いめのメイクを施した。特に目元。
うん……泣いたと疑わない限りは多分大丈夫ってレベルまで仕上がった。
さすが私。
泣いたせいか喉が渇いて冷蔵庫に水を取りに行くと、丁度そのタイミングで玄関のドアが開く音がした。
家族が帰ってきたみたいだ。
……先にメイクしててよかった。
「おかえり」
「あら、もう起きてたの?」
「うん……さっき起きた」
「さっき? その割にはメイクバッチリじゃない。もう彼氏も起きてるの?」
「ううん、まだ寝て……」
……やっべ、ママに言われて思い出した。
浅井は私の体操着のままだった。
初対面であの格好は……流石にウチの両親でも引くかも知れない。
「どうしたの樹?」
「ううん、何でもない! ちょっと起こしてくる」
「え、まだ早いわよ、ゆっくり寝かせてあげたらいいのに」
「いいの、私が起きて欲しいのっ!」
乾燥機に入れておいた浅井の服を取り、自室へ急いだ。ちょっとシワになってるけど、ピチってる私の体操着よりは全然いい。
部屋に戻っても浅井はまだベッドの中だった。
呑気なものだ。
「晃……起きて」
「…………」
……反応がない。
そう言えば浅井は朝が弱いんだった。
また耳でも攻めてみようか。
……でも、浅井の喘ぎ声が聞こえたら、もっとまずいわよね。
「晃……早く起きて」
「…………」
お布団をゆさゆさして、優しく起こしてあげた。
それでも、起きなかった。
……どうしよう。
「着替えないと大変だよ……うちの家族帰って来てるから」
ボソッと今の状況をもらすと。
「おっ、おはよう!」
浅井は慌てて飛び起きた。
……えっ、もしかして寝たふりしてた?
「おはよう晃」
つーか……さっきも起きてたとか言わないよね?
キス……したのバレてないよね!?
告白……聞かれてないよね!?
泣いたの……バレてないよね!?
目が合うと浅井は、なんとも言えない表情を浮かべた後、赤面して目を伏せた。
バレてるぅ——————————っ!
これ……絶対バレてるよね!?
どこから?
どこからバレてるの?
ついさっき、正直に話して謝ろうと決めたばかりなのに、私はそれを聞き出せなかった。
私は臆病者だ。
……でも、家族が帰ってきたしっ!
……2人っきりの時にちゃんと話すしっ!
必死に自分に言い訳して……言い聞かせて……我ながら情けない。
まあでも、今はまず……浅井の格好が優先だ。
「挨拶するでしょ?」
「もちろん!」
浅井は即答だった。
今村刺繍入りの浅井も見納めかと思うと、少し寂しい気がした。
そんなことを思いながらぼーっと浅井の着替えをながめていると。
「な……何かな?」
何かなって、これはあれか……自分が見られてると思って勘違いしているのか。
自意識過剰だな……もちろん乗ってあげるよ。
「いや〜、相変わらずいい身体してると思って……つーか、恥ずかしいの?」
「う……うん」
恥ずかしいんだ……やっぱ浅井は可愛いな。
「もう、昨日全部見ちゃったよ?」
「いや、でもあれはお風呂だし」
なんとなく分かる理屈だけど……女子かっ!
「じゃぁ、今もお風呂に入ってると思えばいいんじゃない?」
何か言いたそうだったけど、浅井はそのままささっと着替えた。
……それにしても。
「髪ボサリ過ぎだね、セットしてあげるよ」
「……お願いします」
くくっていたはずのヘアゴムがいつの間にか外れていた。
浅井は昨日、鏡も見ず適当にくくっていたけど、今日は私がブラシを使って完璧なマンバンヘアーにセットしてあげた。
「やっぱ、セットすると男前だね! いつもやりたくてウズウズしてたんだ〜」
ヤバい……本当にイケメンだ。
これ本当に1回学校でやってみたい。
きっとパニックになるだろうけど。
「……ありがとう」
……ていうか、浅井は皆んなにチヤホヤされたいとかないのだろうか。
この髪型で学校にきたら一気に人気者になれるのに……。
「…………」
……想像したら私が嫌だった。
あの音村さんよりも凄いアプローチをかける子が出てくることが、容易に想像できたからだ。
「さっ、行こっか!」
「ちょっと待って……まだ心の準備が」
「何よ……心の準備って」
「だって……御両親と会うんでしょ」
「そうだよ」
「めっちゃ緊張してる、ライブより緊張してる、めっちゃドキドキしてる」
「何でライブより緊張してるのよ」
……そこまでなんだ。
浅井の胸を触ると。
「本当だ……めっちゃドキドキしてる」
確かにドキドキしていた。
それでも、ベッドの中で私を抱きしめている時よりはマシだった。
「もうっ、仕方ないなあ」
私は浅井の手を取った。
「はい、手繋いでてあげるよ、これなら大丈夫でしょ?」
「大丈夫どころか余計に心拍数が上がった気がするよ!」
「大丈夫、大丈夫!」
階段を下りたあたりで、お姉ちゃんにエンカウントした。
……お姉ちゃんにはこの間、付き合っていることを否定したから先手を打った。
「お姉ちゃん、彼氏の浅井晃」
彼氏を強調してガッツリアピールした。
「こんにちは、浅井です」
「あっ、こんにち……」
お姉ちゃんは浅井を見て固まってしまった。
「どうしたのお姉ちゃん?」
あ……やっべ……今、浅井はアキラ様だったんだ。
「お〜い」
とりあえず、この間優花にやったように目の前で手を振って、こちらの世界に呼び戻した。
「あっ、ああ、何でもない……彼氏、随分雰囲気変わったね……『継ぐ音』のアキラ様にそっくり」
……まさかの勘違い。
まあ、普通はそうか……まさか『継ぐ音』のアキラが妹の彼氏とは思わないわよね。
……どうしよう。
このまま誤魔化すべき?
この一瞬で色んな考えが頭を巡った。
そして私は打算的に。
「何言ってるの、お姉ちゃん——本人だよ」
浅井がアキラ様だとカミングアウトした。
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!」
お姉ちゃんは口に両手を当て、声にならない声で驚いた。
そして若干目も潤んでいる。
……やっぱり皆んな同じ反応になるよね。
「どうも、『継ぐ音』の浅井晃です」
何も言ってないのに浅井は話しを合わせてくれた。
「いっ、い、今村 楓です! よろしくお願いします!」
お姉ちゃんは繋いでいた私の手を強引にひっぺがし、浅井と両手でがっしり握手した。
この辺は優花に比べると遠慮がない。
「いつも応援してます! 大ファンです!」
「……ありがとうございます」
「樹っ! 聞いた? アキラ様がありがとうだって!」
「はい、はい、聞いたわよ」
「ていうか、何で? 何でアキラ様があんたの彼氏なの?」
「……同じクラスなんです」
「嘘っ! 何で! アキラ様って歳下なのっ⁉︎」
この後も浅井はお姉ちゃんの質問攻めに遭い、うちの両親に挨拶できたのは、しばらく経ってからのことだった。
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