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魔法不適合者の成り上がり譚~魔法が当たり前の世界で、魔法が使えない俺は成り上がる~  作者: にじ
第0章 持たざる者と持つ者の再開

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第5話 お嬢

「おいっ、そろそろ起きろ小僧。」


体が揺らされている。

俺は目を開ける。


目の前に戦った女がいて、飛び起きた。

「……ッ。」

臨戦態勢を取る。


「落ち着け。お前じゃ私には逆立ちしても勝てない。まずはその態勢ををやめろ。」


俺は聞く耳を持たず、臨戦態勢のまま距離をとる。


「はあ~。おい、小僧、いい加減やめろ。お嬢も見てるんだ。」

「……?」


俺は周りを見渡すと、俺と同じぐらいの少女がいた。

少女がこちらを見ている。


俺はボロボロの服、髪はぼさぼさ、限界で生きていたのに、この子は綺麗な服、整った髪、傷一つない肌。どれをとっても俺とは違いすぎた。


きっとこの子は何も苦労したことはない、最高の人生なんだろうな。

そう思うとなんだか無性にイライラしてきた。


「おい、小僧。お嬢に手をあげようとしてみろ。その瞬間からお前は私の敵だ。即刻死ぬ。分かったか?」


「……ッ。」

さっきまではどこか優しさをはらんでいた女の声が、全くの無機質へと変わり、恐怖を抱く。

「おい、分かったか?」


「はい……。」


「よし、いい子だ。まあなんだ、この方はヴェルヘルミーナ・フォン・ライヒェンバッハ様だ。このライヒェンバッハを治める伯爵の伯爵令嬢だ。」


「はあ……。」


「まっ、そういう反応になるよな!お前をここに連れてきた理由は、お嬢と歳が近かったのと、お前が強そうだからボディガードになると思ってな。」


「嫌だ、帰…「あ、拒否権なんて無いからな。」……。」


「そういうわけで、お前は今日からこのライヒェンバッハ伯爵家の執事だ。しっかり働けよ~。」


俺は早速お風呂へと連れていかれ、体の採寸をされ執事服を纏う。そして挨拶をしろと言われ伯爵と伯爵夫人へとあいさつをする。


「今日から、世話になることになったエルだ。よろしく。」


「すみません~。あとでこいつにはみっちり教育しておきますんで!!」


「いいんだ。ヴェルの遊び相手兼守護担当としてよろしく頼むよ。あっと挨拶が遅れてすまないね。私はハインリヒ・フォン・ライヒェンバッハ伯爵だ。そしてこっちが妻のレイネー・フォン・ライヒェンバッハ伯爵夫人だよ。よろしくね。」


なんだか優しく返されてしまい、こっちが強く当たったのを少し心苦しく感じた。


「おい、スケベ小僧。レイネー様の胸を見過ぎだ。あとで指導だな。」


「……ッ。」

俺は恥ずかしくて下を向いた。なんでばれてるんだ。


「あらら~エル君はまだ小さいからしょうがないわ。お母さんとも離れ離れのようだし、寂しい時だってあるわよ。そんなに怒らないであげて。」


「レイネー様がそうおっしゃるなら……。ほら小僧行くぞ。」


「はい。」


俺はその後敬語を使えるようにみっちり教育された。


「おい、小僧。飯行くぞ?」


「俺は小僧じゃないです。エルです。」


「ああ、そうか。すまん。あっと私の名前を言ってなかったな!私はノエルだ!よろしくな、エル坊。」


なんか勝手に坊がついているが、妥協点だろうか。

「ノエル、よろしくお願いします。」


「あ”?」


「ノエルさん、よろしくお願いします……。」


「ん!よろしい!」


「で、さっさと飯行くぞ?」


「……俺お金持ってないです。」


「……は?飯は無料だが?」


「え!!??」


「うおっ!びっくりした!!なんだお前そんなに腹減ってたのか?」


俺は少し恥ずかしくなり、ノエルさんと共に食堂へと向かう。


「人がいっぱい……。」


「お前とは仕事内容が違う人が大勢だがな。メイド・執事・料理人・魔法師団いろんな人がいるぞ。」

俺は魔法師団という名前を聞き嫌な記憶がよみがえる。


「お前は執事だが、戦闘用執事だからな。お茶なんかは2流でいい。強くなりお嬢を守ることが最優先だ。明日からは戦闘訓練がスタートするからな。頑張れよ!」


「はい……。」


俺は与えられた自室の窓から月を眺める。

「リエラ……。」


なんだか眠れなくなって少し外に出ることにした。


庭の噴水の前で腰を掛ける。

今夜は月が半分。片方は光っているが、もう片方が無い。


周りから歩く音が聞こえる。


あの時の少女だった。


「あっ……。ヴェルヘルミー「ヴェルでいいよ。よろしくねエル君。」よろしくお願いします。」


「私と2人の時は敬語じゃなくていいよ。素じゃないでしょう?」


「……ありがとな。で、なんのようだ?挨拶が目的なら終わったぞ。」


「いえ、あなたと話したいことがあって。ねえ、あなたはなんで悲しい顔をしているの?私達の家に使用人で迎え入れられることは市民からして相当の栄誉であり、食べるのに困らない、お金にも困らないのよ?それなのになんであなたはそんなに悲しい顔をしているの?」


「……。何一つとして苦労してないお前には分からねえよ。お前は人に裏切られたことはあるか?お前は両親を失うつらさがわかるか?お前は唯一の幼馴染と引き離される辛さがわかるか?お前は魔法が使えない人の苦しみ、周りからの嘲笑を耐える気持ちがわかるか?」

俺は気持ちが爆発して、つい言ってしまった。


「……。」

静寂な空気のなか、頬に夜風が当たる。


「……じゃあな。クビにしてくれてもいいぞ。あと、冷えるのに薄着なのはよくないぞ。」

俺は先に自室へと戻った。



朝の鐘が鳴る。

俺は食堂へと足を運び、朝ご飯を食べる。


「よっ。」


「ノエルさん。」


「この後戦闘訓練だからな。」


「はい……。」


ご飯を食べ終わりノエルさんと訓練場へと向かう。


「よっし!始めるか~!」


「……なんでヴェル様がいるんですか?」


「なんでって、訓練するからに決まってるだろ?お嬢はまだ魔法を使えないからな!」


「……え?」


「本来魔法適性が発覚したら、ものすごく弱いけど魔法は使えるはずだ。だが、お嬢はまだできていない。まっ、頑張りましょう!」


「……うん。」

ヴェルが悲しげに笑う。


まるで魔法適性が無いと周りに馬鹿にされた時の僕のようだった。



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